くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ホーンズ 容疑者と告白の角」「白河夜船」「百日紅〜Mi

kurawan2015-05-11

「ホーンズ 容疑者と告白の角」
なんともいえない物語というか、支離滅裂な脚本に、登場人物のキャラクターが描き切れていない中途半端さが、せっかくのストーリーをぶちこわしていく。

なんと原作はスティーヴン・キングの息子のジョー・ヒル、監督はB級映画のアレクサンドル・アジャ。そして、主演がダニエル・ラドクリフ。これだけでも、際物的な組み合わせだが、もしかしたらと思える映画だと見に行った。

でも、オープニングがいい。いかにも恋人たちのような男女が森の中で寝そべっている。カメラがゆっくりと下に下がり、地面をすぎて反対側のようになった一人の男イグが寝転がっているシーンへ。最初は天井に寝ている姿に見えるが、ゆっくり回転して、ふつうに寝そべっている。窓を開けると、人殺しのプラカードを持った人々とマスコミの群。

この導入部で一気に引き込まれるのだが、このあとが、とにかく、いいたいことが映像になっていかないのだ。どうやら、イグという男は恋人のメリンを殺害したという疑いをかけられていて、親友で弁護士のリーが彼を守っている。メリンの父からも憎まれ、イグの両親にも信じてもらえない。兄のテリーはミュージシャンだが、彼もまた、イグのことが疎ましい。

ある日、イグがカフェの女と一夜をともにした後目覚めると、角が生えている。しかも、彼の前では人々が本音を語るようになる。イグはその力を使い、本当の犯人を見つけるべく奔走するのが本編になる。

画面はイグがメリンと知り合った少年時代に戻り、甘酸っぱいラブストーリーが描かれるが、ここから、次第に、真犯人に迫る課程が実に幼稚で、しかも、角の意味が終盤で一気にこじつけられていく下りは、原作の弱さが、脚本の弱さか。

結局、この手の話のセオリー通り、いい人だったリーが犯人で、それもメリンを殺した下りが実に適当で、信憑性がないし、最後の最後、もう一度角を生やして炎の男になったイグとの対決も、とにかく適当すぎる。これがクライマックスかと思わせる演出には参った。

つまりは、冒頭の二人のシーンに戻ってエンディングなのだが、イグが過去でメリンの敵をとって、遠い未来、再び巡り会った二人が森で寝そべっているということなのだろう。

いかにも、際物映画である。途中、何度も眠くなって仕方なかった。映画が悪かったか、体調が悪かったか、いずれにせよ、予想通りの映画だったということです。


「白河夜船」
原作はよしもとばなな、主演は今をときめく安藤サクラ、監督は写真家でもある若木信吾である。写真家が監督というのは、経験からかなり不安があったが、まぁ、ふつうの作品だった。

映画はモノクロ画面で、主演の寺子がベッドで寝ているシーンに始まる。カットが変わってカラーになり、恋人である岩永と交際する寺子の物語が、ナレーションとせりふをオーバーラップさせながら展開していく。

カメラは手持ちカメラを多用し、ドキュメント風の映像が続くし、長回しも多いので、詩情的な映像演出である。

寺子にはしおりという親友がいるが、彼女は最近自殺した。しおりは添い寝屋という妙なバイトをしている。

岩永の妻は事故で寝たきりの植物状態で、ストーリーの根幹に眠りというのが存在する。ただひたすら岩永と寺子の不倫シーンが次々と展開し、ベッドシーンが繰り返されるが、安藤サクラの素朴なほほえみが、作品に彩りを加えていくし、さりげない谷村美月の健康的な笑顔もまた、作品をおもしろくする。全体に、平凡とはいえないが、一遍の詩のような映画であり、結局、しおりの死で、現在の状況に疑問が生まれ、異常な眠りに襲われ始める寺子だが、岩永の妻が幻影のように現れ、アルバイトをし、さらに岩永と会い、両国の花火をビルの隙間にみるシーンでエンディング。

それなりにオリジナリティはあるが、カメラのピン送りが、自動焦点に任せた感じが妙に気になった。でも、それなりにそれなりの映画でした。


百日紅〜Miss HOKUSAI〜
原恵一監督の長編アニメですが、原作があるとはいえ、良質の一本でした。

特筆されるのは、光の細やかな演出が美しく、光の変化が、映像にリズムを生む様はとっても綺麗なのです。 構図は一転通しを多用したシンプルな画面ですが、淡々と進む物語には実に良くあっているし、脇に配置した犬がちゃんと成犬になっていく細かい配慮もいいですね。

物語は葛飾北斎の娘お栄のお話で、と言って、彼女の成長の話でも、成功の話でもありません。彼女の周りで起こるエポソードに、ちち北斎の人間の姿、絵に対する心構え、などがさりげなく描かれていきます。

遊郭の花魁が首が伸びるエピソードやお栄の妹で、目が不自由で体が弱い子供の心温まるエピソード、さらにお栄の初恋と失恋などが淡々と描かれていく。 すれ違いのシーンで、背中に当たる日差しが切り替わったり、息が白く描写したり、大きく俯瞰で江戸の町を捉えたり、モノクロの雪景色に紅一点の色彩を挿入したり、アニメならではの映像作りもこだわりが見られるところも面白いです。

長編アニメとして、大人が見るに耐える仕上がりがとっても好感な一本でした。