くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「赤ひげ」「サスペリアPART2」(4Kレストア完全版)

「赤ひげ」

スクリーンで見直すのは何年振りか、しかし恐ろしいほどの傑作ですね。あれだけのエピソードが見事にオーバーラップして一つの物語に終結する脚本の素晴らしさ、庶民の甘ったるいヒューマンドラマではなく、辛辣な視点もあちこちに散りばめられた奥の深さ、感情に素直に訴えてくる感動、そして、演出に余裕を感じさせるユーモア、これが傑作でなくてなんだろう。しかも、村木与四郎の見事な美術セットとそれを有効に活かす画面演出の見事さに、一瞬も画面から気を抜けませんでした。言わずもがな監督黒澤明の代表作の一本です。

 

オランダ医学を身につけて颯爽と江戸に戻ってきた保本が何故か小石川養生所の門を潜る場面から映画は幕を開ける。江戸に戻れば御殿医となり出世街道まっしぐらと思っていた保本が、貧乏人のお抱え医者のようなところに押し込められ拗ねてしまう。ところが敷地内にいる狂女が逃げ出し、ふてくされて寝ている保本の部屋にやってくる。保本を出口に向かって捉えていたカメラが、入り口から入ってきた狂女と対峙して一気に左右に広がる構図にまず度肝を抜かれます。広角レンズの特性、カメラアングルの表現を知り尽くした上での演出がまず素晴らしい。

 

続く、六助の今際の床に立ち合わせられる保本の姿から、佐八を長屋へ連れていくことになり、佐八が語るおとくとの物語で見せる風鈴の使い方、次第に人間として成長していく保本を描きながら、遊郭でいじめられていたおとよの看病から、立ち直らせていくくだり、さらに長次の登場からクライマックスの大団円へ、息をつく暇も与えずにぐいぐいと引き込む展開の凄さ、まさに凄さという言葉がぴったりの迫力に圧倒されていきます。しかも、所々に赤ひげがはにかむような行動でユーモアを盛り込み、映画全体に心地よくテンポを生み出していく。

 

保本が晴れて祝言となり、その席で、御殿医にならず養生所勤めを続けると宣言し、半ば嬉しさを隠せない赤ひげと一緒に小石川養生所の門を潜るエンディングまで、全く隙がないというほかありません。これが黒澤明の力、これが日本映画の底力、そしてこれは映画史に残る名作の迫力なのです。素晴らしかった。

 

サスペリアPART2

40年振りにこの映画を見直すとは思わなかった。犯人はすっかり忘れていたが、断片的にシーンを思い出し、やはりB級サスペンスホラーだったことを思い出すとともに「サイコ」の亜流的な部分もあったなと感心してしまいました。でも、ゴブリンの曲が流れるとやはり懐かしい思いでした。監督はダリオ・アルジェント

 

どこかの部屋、子供の靴、血のついたナイフが床に転がってテーマ曲が始まる。そして主人公でピアニストのマークがピアノを弾いている場面、カットが変わると、透視能力か何かの講演会場、超能力者ヘルガが会場に異常な殺意を感じて怯える。傍に心理学者で研究者のジョルダーニ教授がいる。手洗いで徐にゴミ手袋をする何者かのカット。

 

自宅に帰ったヘルガは、何やら物音に怯え、玄関から入ってきたコートを着た何者かに斧で襲われる。広場に出てきたマークはアル中の友人カルロに出会い、酒をやめるように諭す。次の瞬間悲鳴、そして見上げるとマークの部屋の下の階の窓ガラスに襲われた女ヘルガの姿、そして窓ガラスが割れ、ガラスに喉をつかれて倒れる。慌ててマークがその部屋に向かう。入り口から廊下に入り、不気味な絵がかかる廊下を奥に進みヘルガの死体を発見、窓から見下ろすと酔っ払ったカルロの脇をコートを着た人物が去っていく。

 

絵の中に違和感を覚えたマークは、その謎を解くため記者のジャンナと犯人探しを始める。ところが、マークの行く先々で殺人が続く。ヘルガの言葉をヒントに古い屋敷を探そうとしてアマンダという女性が殺され、その女性が残した浴室のヒントを見つけたジョルダーニ教授も殺される。しかし、マークは見つけた古い屋敷の中で壁に塗り込められた絵を発見、さらに身の危険を感じたマークはジャンナとローマを脱出しようとするが、持っていた屋敷の写真と実際の建物の相違を発見し、もう一度戻る。そして塗りこめられ隠された部屋を発見、中に死体を見つけるが、何者かに襲われ気を失う。気がつくとジャンナがそばにいて、屋敷には火が放たれていた。

 

建物を管理する男の家に行ったマークはそこの娘が描いた絵を見つける。それは屋敷でマークが見つけた絵と同じで、その絵は学校の資料室で見たという。マークとジャンナはその学校へ忍び込み絵を発見、そしてその絵はカルロが書いたものだとわかるが、ジャンナは襲われ瀕死の重傷を負う。さらにカルロに銃を向けられるが駆けつけた刑事に助けられる。逃げたカルロはゴミ収集車に引っ掛けられ無惨な死を迎える。

 

解決したかに思われたが何かおかしい。カルロにヘルガは殺せないと思ったマークは。絵の謎を確かめるために再度ヘルガに家に行く。そこに待っていたのは真犯人のコートの人物、それはカルロの母親だった。彼女は精神的に異常者で、病院に入れようとする夫でカルロの父を殺したのだ。それが冒頭の場面だった。マークはカルロの母と取っ組み合う中、母のネックレスがエレベーターに挟まり、マークがエレベーターのスイッチを入れ、首が締まり引きちぎれた犯人の血溜まりを見つめるマークのカットで映画は終わる。まさに血の惨劇である。

 

建物に平気で侵入したり、学校に不法侵入したりやりたい放題のマークや、警察が最初のあたりだけで後は全然表立って来ない展開、しかもジョルダーノ教授殺害シーンで意味不明な人形が現れたり、アマンダ殺害シーンで人形が吊りされていたりと、これ見よがしの場面を用意するが、これという意味がない無理矢理恐怖を煽る演出はいかにもB級ホラータッチで楽しめる。「サスペリア」のヒットがなければ公開されなかった作品なのですが、見た人は私も含め「サスペリア」より傑作だと考える作品です。楽しめました。