くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「MINAMATA ミナマタ」「空白」

「MINAMATA ミナマタ」

なぜ今水俣病の映画?なぜ今ジョニー・デップ?という感じの作品ですが、とにかく映像が抜群に美しいのが妙に心に残ってしまう。ライティングの工夫や構図が下手な芸術映画より美しい。しかも扱うのは水俣病を世界に知らしめた写真家の物語なのだから、悪く言えば妙にチグハグではある。実話という重みよりも映像作りへの力配分が大きい作品でした。監督はアンドリュー・レビタス。

 

かつて名カメラマンとして名を馳せ、ライフ誌を支えてきた写真家ユージン・スミスは、今や酒に溺れる毎日を送っている。ライフ誌の編集者ボブのところに乗り込んでは愚痴を言う場面から映画は幕を開ける。スミスの部屋の背後にブルーの灯が常に配置されていたり、どれもこれも画面が美しい。

 

そんな彼のところに、アイリーンという女性がやってくる。富士フィルムの宣伝に出てほしいということだったが、実の所は日本の熊本県水俣で広がる水銀汚染のついての写真を撮ってほしいというものだった。

 

日本にやってきたスミスはそこで、水俣病に苦しむ人々を目の当たりにしてカメラを向けていくが、チッソ工場の経営陣の妨害が入ってくる。一時はその妨害に耐え切れず弱音を見せるスミスだが、ある家族の水俣病の娘を写真に撮ることで、ライフ誌が大々的に取り上げ、ついにチッソ工場側は賠償金その他を全て受け入れることになる。

 

実話を元にした作品で、そのテーマをしっかりと見せていくべきものだと思うが、必要以上に映像が美しいのが最後まで気になって仕方なかった。さらに登場人物に背景にはあまり力点が置かれていない脚本も微妙に弱い。確かに商業映画なのだから、映像作品としてのクオリティを高めるのも必要だと思うが、一方で、内容によってはそのメッセージ性に演出の力が注がれる必要もあると思う。最後までその疑問が離れられない一本でした。

 

「空白」

人生っていうのはそんな単純なものじゃない、人間というのはそんなシンプルなものじゃない。そんな中で自分たちは生きてるということを実感させられる映画だった。オリジナルでもここまで書ける人がいるんやと頭が下がります。舞台で鍛えた古田新太の極端な演技力がなければ成り立たなかった作品でもあると思います。監督は吉田恵輔

 

漁師の添田充と使用人の青年野木が船に乗っている場面から映画は幕を開ける。気性の荒い添田は野木をボロクソに使い、野木も若干辟易としている。一人娘で中学生の花音と暮らす充だが、父の荒っぽさに花音もやや引っ込み思案で、学校でも目立たない存在だった。ある時、花音はマニキュアを万引きしようとして店長の青柳に止められ事務所に引っ張っていかれる。しかし、花音は逃げ出し、青柳は必死で追いかけるが、道路を飛び出した花音は車に跳ね飛ばされ、さらに反対側を来たトラックに轢き殺されてしまう。

 

無惨な姿になった娘を見て父充は号泣し、一方青柳も目の前で花音が死んだことに複雑な気持ちになる。そんな事件をマスコミは面白おかしく騒ぎ出し、青柳も罪の意識を感じ始めてしまう。そんな青柳にスーパーでパートをする草加部が励ます。一方、仕事が手につかなくなる充は野木を解雇してしまう。そして、充は万引きも信じられない上に、前日相談事があるかの素振りをした娘のことが気になり学校へ乗り込んでいく。さらに充は青柳に付き纏うようになる。次第にエスカレートしていく充の姿にマスコミはさらに騒ぎ立てる。また、花音を最初に跳ねた女性もショックから充のところに謝罪に通うようになる。

 

物語の前半は、モンスターと化していく充の姿と、罪悪感と自信喪失の中沈んでいく青柳の姿を描き、やがて、花音の素顔が充の元妻翔子から聞かされ、さらに花音の私物を見る中で充は何かしら心がほぐされていくようになる。さらに、別の船に乗っていた野木も戻って来る。

 

充は花音の持っていた絵の具で絵を描き始める。そんな頃、とうとう、車を運転していた女性が自殺してしまう。葬儀の場に行った充の前で、女の母が、さらに謝罪をし、充は言葉が出なかった。憔悴していく青柳は自殺未遂を起こし、まもなくしてスーパーは閉店することになる。ゆっくりながら時間が過ぎていた。翔子は、新しい夫との間で新しい命を身籠っていた。そんな彼女に、悪かったと謝罪する充の姿があった。

 

いつものように軽トラで走る充と野木、目の前に道路工事があり、道路整理していたのは青柳だった。充は青柳としばらく二人で話す。充は、どこかに残るもやもやしたものは消えることはないと素直に話す。実は、花音の私物を整理していて、ぬいぐるみに隠した化粧品を見つけたのだ。おそらく万引きしたものだと思った充は黙ってゴミ箱に捨てていた。青柳は充のカバンにつけていた花音のアクセサリーを見て思わず土下座してしまう。

 

青柳が一人で弁当を食べていると一人の若者が近づいてきて、あのスーパーの弁当は美味かったと言って去っていく。どこか救われた気持ちになる青柳。一方、充の元に学校にあった花音の絵が届けられる。開いてみると、充が見よう見まねで描いた絵と似た絵が入っていた。こうして映画は終わっていく。

 

この物語に解決などはなく、これからも青柳も充も生きていく。特に未来が明るいわけでも、希望があるわけでもなく、遭遇した出来事を受け入れたまま生きていく。そんなリアルな世界が見え隠れするものを感じると、本当に、生きていくことはそんなシンプルなものじゃないなとなんとも言えない感慨に耽ってしまいました。不思議にいい映画だった。