くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「彼女が好きなものは」「ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男」

「彼女が好きなものは」

友達に勧められて半信半疑で見に行ったのですが、思いの外とっても良い映画でした。ホモを認めるのが善で、認めないのは悪であるかのような最近の風潮をバッサリと切り捨てて原点に戻り、ゲイであることの苦悩を真正面から描いたスタッフの勇気に拍手。しかも、語るべき主題はしっかりと埋め込み、その上で現実をまともに描いていく。それでいて純粋なラブストーリーの部分も蔑ろにしない。大傑作と行かないものにとっても良い秀作でした。監督は草野翔吾。

 

高校生の安藤純は、親友の亮平や小野と普通の高校生活を送っていた。ある時、書店で一人の同級生三浦紗枝と出会う。彼女はBL好きで、この日もBLコミックを購入しての帰りだったが、BL好きを隠していた彼女は安藤に見られて口止めを頼む。中学時代に彼女の嗜好がバレて孤独になった経験があったからだ。一方、安藤はホモで、所帯持の男性佐々木誠と交際していた。安藤は自分がホモであることを常に悩み、Twitterで知り合ったハンドルネームファーレンハイトという大学生と心を打ち明けながら日々を過ごしていた。

 

紗枝はBLグッズの購入イベントに安藤を誘い、それをきっかけに二人は急接近し、亮平や小野を交えてのダブルデートなどを繰り返す。そして紗枝は安藤に告白する。二人は安藤の部屋で抱き合うが、ここぞという時に安藤は誠との場面が重なり紗枝と交われなかった。それでも二人は関係を続けるが、デートしている時、ネット友達のファーレンハイトが、限界が来て命を絶つかのような書き込みを見つけてしまう。パニックになった安藤は紗枝を置き去りにするが、たまたま同じ施設に家族と来ていた誠と出会いキスをする。それを紗枝に見つけられてしまう。

 

学校で安藤と紗枝はよそよそしくなり、心配した小野が美術室で安藤と紗枝が話しているのを聞いて安藤がゲイであることを知る。そして紗枝との仲を取り持った小野は亮平に体育館で詰め寄ったために全員に安藤がゲイであることがバレてしまう。体育の授業で教室で着替える男子生徒に出ていけと言われた安藤は亮平にフォローされたものの、窓から飛び降りてしまう。幸い骨折程度で済んで入院した安藤のところに亮平や紗枝も見舞いにやって来る。クラスではゲイについての討論も行われるが、結局他人事としてみんな認めているに過ぎないと小野はバッサリと言ってのけ、誰も反論できなかった。

 

退院した安藤は大阪へ転校を決めていたが、紗枝は一度だけ学校へ来てほしいという。彼女が描いた絵が入選したのだという。講堂で表彰式が行われて、紗枝は壇上に上がるが、そこへ安藤が現れる。紗枝はみんなの前で自分はBLであると告白、先生たちの制止も亮平たちに跳ね除けてもらい、安藤とのことも告白する。

 

後日、安藤は誠に別れを告げるが、最後に誠は安藤に、自分の好きだったクイーンのCDをファーレンハイトの墓に届けてほしいと頼む。安藤は紗枝を誘ってファーレンハイトの家に向かうが、紗枝は最後は一人で行ってほしいと言う。安藤がファーレンハイトの家に行き、部屋に入って遺影を見ると、なんと大学生だと思っていたら同じ高校生だった。彼もまたゲイであることに安藤同様思い悩んでいたのだ。

帰りに列車を待つホームで、紗枝は安藤が好きだといい、安藤も紗枝を好きだと答える。こうして映画は終わります。

 

非常に中身の詰まった作品で、ゲイであることを真正面から捉え、しかも客観的な視点を崩さず、人間の本質に向き合った脚本が実にうまい。男性同士の抱き合うシーンもキスシーンもあるが一概に美しいとも見えない演出、さらに、人々のゲイに対する本音をはっきりと台詞にするという勇気が爽快な作品で、これが本当の映画作りだと思います。物語展開のバランスも見事だし、小品ながら良い映画でした。

 

ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男」

重いというか、真面目すぎるというか、果たして商業映画として作るべきものなのかどうか疑問に思う作品でした。しかも、まだ現在進行形の訴訟事件なので、これが真実なのかもわからない。結局、ドキュメンタリーとして映像にするべき作品だったのではないかと思いました。監督はトッド・ヘインズ

 

1975年、ウエスバージニア、若者たちが夜、柵を乗り越えて勝手に川で泳いでいると、何やら船がやってきて若者を追い出し、何かを川に捨てている。そして時は1995年、大手弁護士事務所タフトで昇格した環境弁護士のロブがメンバーに祝福されていた。そこへ、ウエスバージニアに住む祖母の知り合いだという農場主のテナントという男がたくさんのビデオテープを持ってきて、デュポン社の悪事を弁護してほしいとやって来る。とりあえず追い返したロブだが、祖母の顔を見るついでにウエスバージニアの故郷を訪ね、テナントに会う。そこで、狂ったように襲って来る牛、大量死した牛の墓を見せられる。

 

ロブは、ことの真実を調べるためにデュポン社の知り合いのフィルに過去の環境調査報告をもらうが、どこかしっくりしない。しかも

1976年以前の資料がなく、仕方なく裁判所命令で過去の資料を取り寄せるが、明らかに嫌がらせと思われるほどの大量の資料が届く。ロブはその資料一つ一つを調べ始め、次第に、デュポン社が使っていてテフロンという炭素物質がデュポン社の調査で有害と知りつつ使っていることが明らかになって来る。

 

物語は、ロブが地元の弁護士ラリーや弁護士事務所の経営者トムらと一緒にデュポン社を相手取って訴訟を進めていく姿が丁寧に描かれていく。しかし、あくまで視点はテナントたち側である。さらに、因果関係を明らかにするために血液検査を実施、67000人もの検査をし、7年かけてその結果を出し、すでに3500人以上が病気に犯されているという結果が出るのだが、デュポン社は新たな訴訟体制を組み、一旦は解決したかに思ったロブらに新たな試練を与えて来る。時は2015年になっていた。そして、いつ終わるかわからない裁判を一つ一つ処理して行こうとするロブの姿で映画は終わっていく。未だに、全てが解決しないままだというテロップが流れる。

 

真面目すぎてとにかくしんどい作品で、しかもロブたちが正しいのかどうかは視点が一方からのみなので全くわからず、しかもまだ現在進行形であるというエンディング。ドキュメンタリーとして映像化するべき一本ではなかったかと思います。