くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「世界で一番美しい少年」「麻雀放浪記」(和田誠監督版)「夜空に星のあるように」

「世界で一番美しい少年」

ルキノ・ヴィスコンティ監督の「ベニスに死す」で少年タジオを演じたビョルン・アンドレセンのドキュメンタリー。ものすごいストーリー性のある映像で、「ベニスに死す」で頂点で現れた少年のその後の人生のドラマに圧倒されてしまいました。それが決して仰々しい演出ではなく淡々と語られる流れにどんどん胸が熱くなって行きます。良かった。監督はクリスティーナ・リンドストロム、クリスティアン・ペトリ。

 

真っ暗な画面で、母を呼ぶ少年の声から映画は始まります。遠く続く廊下を一人の男が歩いている。まるでホラーのような映像のオープニングに引き込まれます。続いて「ベニスに死す」のオーディション場面、ルキノ・ヴィスコンティに見出される美少年ビョルンの場面、そして、やがて彼が世界で一番美しい少年と評されもてはやされていく様が映されるのですが、そこに華やかさはなく残酷さしか伝わってきません。

 

ゴミ屋敷のような部屋を片付ける現代のビョルンの恋人の場面から、「ミッドサマー」に出演することになるビョルンの映像。そして、「ベニスに死す」の頃、日本にやってきて、アイドル的に扱われる彼の姿、日本でのレコーディングやCM撮影、時は日本高度経済成長の頂点の時代です。一方で、六十を越したビョルンが「ミッドサマー」での撮影に臨む場面、さらに日本へ来た若き日の思い出池田理代子とのインタビューなども挿入されていきます。

 

結婚生活、長女の誕生、長男の突然の死の悲しみなど、クライマックスへ向かっていくたびに、ビョルン・アンドレセンという一人の人間のドラマが切々と伝わってきます。そして、ベニスの海岸に立つビョルンは、海の彼方に、「ベニスに死す」のラストシーンのタジオの姿を見ます。まるで、ダーク・ボガートが見つめた同じ視線で立つ現代のビョルンのカットで映画は幕を閉じていく。

 

ドキュメンタリーなのに、圧倒的なドラマ性のある展開にスクリーンから目を離せません。いい映画を見ました。

 

麻雀放浪記

40年ぶりくらいに見直したけれど、やはり名作ですね。隅々まで行き渡った演出と、書き込まれた見事な台詞の数々、そして芸達者を揃えた展開に、涙が止まらない。モノクロームの構図も美しいし、映画になっている。本当に良かった。監督は和田誠

 

戦後間も無く、中学生の哲が歩いていると突然上州虎という男にナイフを突きつけられる。旧知だった哲は虎に連れられてチンチロの賭場へ連れて行ってもらう。そこで、ドサ健という博打うちと知り合い、その男に博打を教えられると同時に勝負の厳しさと汚さを教えられる。

 

哲はドサ健とアメリカ兵相手の秘密カジノオックスクラブへ行き、そこで麻雀に手を染めるが、ドサ健に放って置かれてアメリカ兵に痛めつけられ、そのカジノの経営者のママとねんごろになる。一方で、ドサ健に会ってドサ健の家に行くがそこにはドサ健の愛人まゆみがいた。哲はドサ健の賭場で老獪な出目徳と出会う。

 

寝場所もない哲は虎に導かれて安宿へ行くが、そこで出目徳と再会、出目徳に、相棒になって稼ごうと持ちかけられる。そして、出目徳は羽振りが良くなってきているドサ健を負かそうと計画を立て、ドサ健の賭場へ行き、見事にドサ健を一文なしにして家さえも追い出してしまう。

 

ドサ健は寝る場所も無くなったが、ドサ健を愛するまゆみが働きなんとか復讐の機会を狙っていた。そんな時、カモを見つけたドサ健の子分がその勝負にドサ健を誘うが、参加するための見せ金のためにまゆみを女衒の達に預ける。しかし、時間になってもドサ健はやって来なかった。なんとか出目徳を呼び出した哲はドサ健、達を交えて麻雀勝負を始める。

 

しかし、延々と続く勝負は、年老いた出目徳には厳しく、役満をつもった瞬間心臓麻痺で死んでしまう。勝負の掟で身包み剥いでいくドサ健の態度に哲は勝負の厳しさと生き方を学ぶ。出目徳の家に遺体を運んで、哲が弾く車の中でドサ健と達が乗っている。車が画面こちらに走って来る場面で映画は終わる。

 

これこそ映画、これこそドラマ、これこそ絵作り、場面のひとつひとつが時代を表現し、人間の生き様、一人の若者の恋と成長を描いていく。じわじわと胸に迫る情念にのめり込んでいく迫力のある名作でした。

 

「夜空に星のあるように」

ケン・ローチ監督のデビュー作ということで見に行ったが、どうも自分には好みではない映画という感じでした。時代もあるのでしょうが、男なしでは生きられない一人の女の身勝手な人生の物語にしか見えない。前半は軽快な音楽と共に展開するドラマはテンポいいのですが、後半は、ジョイがひたすら男を求めているだけにしか見えない。凡作ではないとはいえ、個人的には普通の作品でした。

 

主人公ジョイが出産している場面から映画は幕を開ける。生まれた男の子をジョニーと名づけるが泥棒稼業で生計を立てる夫のトムは何かにつけ暴力を振るう上に、子供にも無関心だった。そんなトムが逮捕され、ジョイとジョニーは叔母の家に引っ越すことになる。

 

その家に、トムの仲間のデイヴが訪ねて来る。優しいデイヴに次第に心が惹かれるジョイだが、そんなデイヴも逮捕され12年の刑を言い渡される。子供と二人必死で生きるジョイだが、支えになる男性の存在は欠かせず、ゆきずりの男性と関係を続けながらトムとの離婚を進め、デイヴへの面会を続けていく。

 

しかし、トムが先に出所していくる。復縁を求めるトムとジョイは仕方なく暮らし始めるが、ジョニーに無関心で横暴な姿は全く変わっていなかった。ジョイはデイヴとの幸せな日々を夢見ながら必死で生きていくと訴えてきて映画は終わる。

 

一人の女性の心細い日々を描くという流れはわかるけれど、泥棒稼業の夫や恋人という設定はさすがになかなか入りきれないままにラストを迎えた。個人的には普通に作品という感じでした。。