くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「尻啖え孫市」「狐のくれた赤ん坊」(三隅研次監督版)「シチリアを征服したクマ王国の物語」

「尻啖え孫市」

普通の娯楽時代劇という一本でした。脚本が菊島隆三ですが、物語の構成のバランスが悪いのか、妙に長く感じた。監督は三隅研次

 

雑賀孫市が、京都で一目惚れした女を探しに岐阜城下にやってくるところから映画は始まる。そこで木下藤吉郎と出会い、信長の命もあって、藤吉郎は適当な女を孫市にあてがいながら味方につけようとする。信長に惚れ込まれた孫市だが、結局藤吉郎らに騙されたと知り、紀州へ帰ってしまう。

 

時が経ち本願寺派との戦となる織田信長に、本願寺の住職は孫市を大将に迎えようとする。そんな時、孫市は、かつて一目惚れした女が堺の鉄砲商人の娘小みちと知り、再会。孫市は小みちと添い遂げるために信長に鉄砲を向けることになる。

 

しかし、本願寺派と信長の戦の最中、小みちは流れ弾に当たって死んでしまう。信長を恨む孫市はそれから八年信長を苦しめることになるというテロップで映画は終わる。

 

信長に惚れ込まれるエピソードから小みちとの出会い、戦の場面と、どうもバランスが悪く、原作はもっとまとまっているのだろうが、物語の一貫性の見えない娯楽時代劇でした。

 

「狐のくれた赤ん坊」

阪東妻三郎が主演した昭和二十年の作品のリメイクですが、勝新太郎の熱演もあって、人情時代劇としてよくできていました。ラストは素直に胸が熱くなりました。監督は三隅研次

 

大井川の川越人足の寅八が、喧嘩友達の丑五郎と大喧嘩している場面から映画は始まる。近くの森に狐が出ると飛び込んできた人足仲間に、肝試しに森に出かけた寅八はそこで赤ん坊を拾ってくる。狐が化かしているのだろうと興味本位に見ていた寅八だが、赤ん坊はなんともならず、もう一度捨てに行こうとするも、どうしても手放せなくなってしまう。そして三年、すっかり父親のようになった寅八は赤ん坊を善太と名付けて育てていた。

 

たまたま乗せた関取の客に、金を貰い寅八はすっかり善太と親子の毎日を過ごす。そしてさらに四年、善太は読み書きに興味を持つ一方、侍になりたいと言い出す。友達と大名行列の遊びをしていて本物と出くわし、侍の本陣に捕まってしまうが、寅八は体を張って交渉して助け出す。しかしその祝宴で、寅八は酒の勢いで善太は大名の御烙印だと大ボラを吹いたことから、たまたま世継ぎを探していたとある大名の目に留まる。しかも、善太はかつて助けた関取の妹の子供で、世継ぎの争いを避けるために関取が森に捨てて里親を探していたものだとわかり、本当の御烙印だったことから、寅八と善太は別れる運命へと流れていく。そして、籠に乗せられ大井川を去っていく善太を陰から見送る寅八の姿で映画は終わっていく。

 

オリジナル版も昔見た作品で、原案が名作でもあり、ストーリーはやはり心を打つものがあります。

 

シチリアを征服したクマ王国の物語」

才能のあるイラストレーターの作品なので、絵も色彩も構図も美しいけれど、ストーリーテリングや、クライマックスのスペクタクルシーンなどの演出が今ひとつ物足りなかったので、前半と後半がうまくまとまらず映画全体としては普通の仕上がりに見えました。監督はロレンツィオ・マトッティ

 

ある語り部芸人とアシスタントのアルメニーナが、次の公演の村を目指しているが、吹雪に襲われる。仕方なく、途中にあった洞窟に避難するが、奥から巨大なクマが現れる。語り部は襲われないように、自分の演目である「シチリアを征服したクマ王国の物語」を語り始める。

 

森で暮らすクマの王レオンスが息子トニオと川で鮭をとっている。トニオは鮭を追って川に流され、人間に捕まってしまう。悲嘆に暮れるレオンスだが、冬が来てクマたちは食料がなくなってくる。そこで、街にいる人間に食べ物を分けてもらおうと大挙して村に向かうが、村を統治する大公はクマが襲ってきたと銃で迎え撃つ。こうして人間とクマの戦争が始まる。どっちつかずに渡り歩く魔術師のデ・アンブロジスは、回数の限られた魔術を使って危機を乗り越えていた。

 

化け猫を使ってクマを追い払ったと安心した大公たちはサーカスを見ていた。しかし、化け猫を倒したクマたちは街に押し寄せ、サーカスの舞台へもやってくる。そこでレオンスはトニオが綱渡りの芸をしているのを発見。ところが大公はトニオを撃ち殺す。レオンスはデ・アンブロジスに頼んで最後の魔術でトニオを生き返らせてもらう。そしてクマたちはシチリアの国を統治する。

 

語り部はこれが私の話だというが、聞いていたオオクマは、それに続きがあると語り始める。レオンスたちクマと人間は平和に暮らしていたが、デ・アンブロジスは、新しい魔法の杖を見つけることに成功する。そんな時、レオンスの右腕だったサルペトルはその杖を盗み、さらに国の金も盗んで、王になろうと画策を始め、邪魔になったトニオとデ・アンブロジスらを牢屋に閉じ込める。デ・アンブロジスはアルメニーナに黄金の鍵を託す。それは海に住む大蛇を蘇らせるものだった。

 

蘇った大蛇は牢屋を破壊し、大暴れし始める。レオンスたちも勇敢に立ち向かい、トニオは、大蛇の弱点の心臓を突き刺して大蛇を倒すがレオンスはその戦いで瀕死の重傷を負う。デ・アンブロジスの魔法で治してほしいとトニオらが頼むがレオンスはクマのままで死んで行きたいと拒否、死後はクマたちは森に帰るようにと遺言する。

 

こうしてオオクマの物語は終わる。実はもう一つのラストがあるとアルメニーナに舌打ちするが、それは謎のまま、夜が明けて語り部たちは旅立っていき、オオクマは冬眠に入って映画は終わる。

 

前半の出来栄えが実にうまくて、クマたちが街を襲う場面のスピーディ感は見事ですが、後半の大蛇とのバトルシーンはどこか力尽きたようにあっさり終わってしまう。全体に色彩演出は素晴らしいし、イラスト調の画面も魅力的ですが動く映画としては普通の作品でした。