くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「金の糸」「リング・ワンダリング」「デモニック」

「金の糸」

これは傑作だった。空間を巧みに使った絵作りが見事。画面の隅々、台詞の隅々まで隙がないので、全て理解できているのかわからないくらいの完成度の高さに圧倒されます。旧ソ連だったジョージアの歴史的背景まで読み解ききれないのが本当に残念ですが、それでも、物語の展開や計算され尽くされた台詞の一つ一つからぼんやりとのその姿が見えてくる演出も素晴らしい。充実感に浸れる映画に久しぶりに出会いました。監督はラナ・ゴゴベリゼ。

 

作家のエレネがパソコンに次の作品を書いている場面、そして、今日は79歳の誕生日だが一緒に住んでいる娘夫婦らは全く気がついていないという一人台詞から映画は幕を開ける。娘夫婦の言い争いの声に問いただしてみると、娘の義母ミランダが、うっかりガス栓を消し忘れ火事を起こしかけたのだという。どうやら認知症らしいからこの家に引き取ると言っていた。しかしエレナはミランダのことが嫌いだった。そんな時、エレネの元夫アルチルから電話が入る。アルチルは今は車椅子生活になり、今の妻が亡くなり孤独になっているのだという。そして、エレナのところに来た孫娘エレナ(同名)がお誕生祝いに絵を描いてあげるというので、エレナはかつてアルチルと一緒に踊った通りの絵を描いてほしいという。通りで踊る若き日のアルチルとエレナの場面が挿入される。窓の外でエレナが電話する場面と室内の場面を重ねる空間演出が素晴らしい。

 

まもなくして、ミランダがやってくる。彼女はかつてソ連政府の高官だった。何かにつけ、過去が良かったと持ち出すミランダに、エレナは嫌気がさすものの、そんなミランダともそれなりに会話を交わすという展開が実に上手い。エレナが住む家は、先祖が建てたもので、むかいにもアパートらしい建物が建つが、古さを感じさせるもので、エレナのベランダから向かいの建物の窓を捉えることで、隣人の存在を描写し、そこにジョージアの歴史の時間の変化を巧みに描写させる。

 

向かいに住む老人の話に出てきた懐かしいピアニストの話題に絡んだミランダは、かつてのコネで呼んでやると言い、ホームパーティに老ピアニストを呼び連弾させたりする。エレナとアルチルとの電話のやりとりは頻繁になってくる。そんな頃、アルチルがテレビに出ることになり。どうやらアルチルもかつては有名な建築家だったようだ。その姿をエレナがテレビで見ていると、部屋にきたミランダが、アルチルの姿を見て、彼は昔自分に夢中だったなどと話す。そして、エレナと話すうちに、実はエレナの処女作を発禁にしたのはミランダだと知る。ミランダは仕方なかった、会議で決まったことだと呟き始めるが、発禁になったことがエレナの人生を変えたと責める。しかし、ミランダは、会議に遅れるからと呟きながら一人街に出て行ってしまう。

 

一方、エレナは、孤独を感じ始め、初めてエレナからアルチルに電話をかける。それは、過去のこだわり何もかも無くすのではなく、金の糸で紡いだ古い土器の如く、もう一度いまを生きることが大切だと知ったかのようだった。一方、街に出たミランダは、行き先もわからず、今や廃墟になったかつての会議場に行き、そこにあった椅子に座り眠るように目を瞑る。エレナの家では、ミランダの行方不明の捜索願いを出すか迷っている。エレナは、かつてアルチルと踊った曲を思い起こしながら、車椅子のアルチルとダンスをはじめて映画は終わる。

 

時折幻想を交えた画面を挿入し、主人公の物語の舞台となる建物の空間設定やデザイン、一方で近代的な街の場面と廃墟の会議場などの美術設定も見事で、台詞に埋め込まれた西側諸国と旧ソ連時代の名残を残す国の姿などの描写も秀逸、しかも鏡や窓枠を使ったカメラアングルのリズムも優れていて、映像作りとはこうするものだと唸らされます。さらに登場人物の心の変化もちゃんと演出されている。なかなかの傑作でした。

 

「リング・ワンダリング」

よくある話といえばそれまでながら、工夫を凝らそうという意気込みも見られる作品でした。監督は金子雅和。

 

漫画家を目指す草介は、今書いている漫画に登場させる日本狼の題材探しに森を彷徨っていた。成果もない中、森の外の草原に出た草介は突然カメラを持った少年と出会う。彼は日本狼をカメラに収めてことがあるから、また見せてやると去っていく。

 

工事現場でバイトする草介は、ある時、自分の掘っている現場で獣の頭部の骨を見つけ家に持って帰る。日本狼の図鑑と照らしてもよくわからないまま、夜中に他に何かないかと工事現場に忍び込む。そこへ、シロという犬を探しに一人の若い女性ミドリが現れる。草介に驚いて鼻緒を切ってしまい、草介は靴紐で処置をしてやり家までおぶって送ることになる。

 

彼女に言われるままに神社を抜けた草介は、古びた写真館にたどり着く。そこでミドリの家族に迎えられるがどこか違和感を覚える。草介は夕食をご馳走になり、探しているシロの絵を描いてやり、ミドリの弟で疎開している黄太の話をする。そしてミドリに送られて帰ることになるが、途中神社の御神木の枝を緑が折って草介に手渡す。自分の姿を描いてほしいためだが、枝では描けないとその場は別れる。

 

自宅近くに戻ると、この夜予定されていた花火が上がる。翌日、工事現場で首輪らしいものを見つけ持ち帰った草介は、昨日行った写真館に向かう。しかし、そこには近代的な建物になった写真館があった。そこに入り、ミドリのことを聞くと出てきた女性梢は、ミドリは叔母だという。そして、年老いた黄太が奥に寝ているからと通され、草太はそこで、自分が書いたシロの絵を見つける。

 

どういうことかわからないまま神社まで戻った草太に、梢が黄太爺さんから預かったアルバムを手渡す。なんとそこには先日の草原にいる草太の姿と先日草原で出会った少年黄太の写真があった。草太は漫画の残りを神木の枝で完成させ、かつての森の外れの草原に行く。そこで、黄太爺さんにもらったアルバムにある日本狼のページを見るが、そこに貼ってあり写真は草原の姿ばかりだった。草介はその場で眠ってしまうが、カメラが空に舞い上がると、草介が目となって、日本狼の姿が草原に浮かび上がり映画は終わる。

 

ラストはシュールとはいえ、物語の展開の動機づけが若干甘く、なぜ人物がこの行動に至ったかが今ひとつ説得力に欠けるため映画全体が緩くなってしまった。よくあるファンタジーものながら普通の映画になった感じです。

 

「デモニック」

展開はかなり雑ですが、単純に楽しむのは面白いB級ホラー映画でした。今時の仮想空間と悪魔祓いを組み合わせたのは面白いですが、仮想空間の意味がほとんどないのは、後から考えるとツッコミどころでした。監督はニール・ブロムカンプ

 

広い草原の一角に立つ建物からカーリーを呼ぶ声と、それに応えるカーリーの母を呼ぶ声。建物の中に入ると、ベッドの上にみすぼらしい姿の母がいて、ここから逃げるようにという言葉と共に、カーリーは、ベッドで目覚める。車で走るカーリーの携帯に友人のマーティンからのメッセージ、直後親友のサムから連絡が入り、サムのところへ行く。

 

マーティンからの連絡は、絶縁状態のカーリーの母アンジェラが、全身麻痺で入院しているから、その医療施設に行ってほしいというものだった。アンジェラは、かつて老人ホームに放火して大量殺人を犯し収監されていた。カーリーは、医療施設に行き、そこで、全身に自傷痕を残し昏睡状態のアンジェラを見る。そして施設のスタッフ、マイケルとダニエルから、仮想空間に入ってアンジェラと接触してほしいと頼まれる。

 

カーリーが、仮想空間に入りアンジェラと接触すると、アンジェラは、すぐに出ていけという。カーリーが一旦現実に戻るが、自宅に帰ると再び悪夢を見る。マーティンに会うと、それは悪霊の仕業で、施設のメンバーは悪魔祓い師だろうという。信じられないカーリーが再度仮想空間に入ることにし、アンジェラに接触すると、そこに不気味な化け物が現れる。現実に戻り、信じられないものの、マーティンの言葉が気になるカーリーが、包丁を枕元に置いて眠りにつくと、深夜にサムがカーリーのことが心配だとやってくる。ところが、コーヒーを淹れて話をしようとすると突然サムは化け物に変わり、もし自分がいなくなったら森に探しにきてと言った直後襲いかかってくる。

 

しかし、それも悪夢で、カーリーは、目を覚ますが、その様子を施設の職員がビデオで監視していた。そして物々しい装備でどこかへ出て行く。カーリーは心配になりサムに連絡するもつながらず、自宅へ行くが誰もいない。警察を呼んでも相手にしてくれず、カーリーはマーティンに助けを求める。そして、カーリーとマーティンはサムの言葉通り森へ向かう。そこで震えるサムを見つけ車に保護するが、母のことが心配なカーリーはさらに森の奥に行こうと言い出す。ここはまずサムを病院へ連れて行くものだと思うが。

 

森の奥には、かつてアンジェラが勤めていた結核の療養施設があり、マイケルらの話だと、そこでアンジェラは魔物に取り憑かれたのだということだった。療養施設に着いたカーリーとマーティンは、そこでダニエルらのチームが殺されているのを発見。瀕死のダニエルは、魔物がマイケルに取り憑いたことと、魔物を倒す唯一のバチカンのナイフをカーリーにさずける。

 

カーリーとマーティンが施設内に入ると仮想空間に入っているアンジェラを発見し、カーリーはその装置でアンジェラを連れ戻すべく仮想空間へ入って行くが、結局、アンジェラはそこで消えて死んでしまう。現実に戻ったカーリーだが、乗ってきた車は燃やされ、中のサムは死んだ後だった。しかも、マーティンも鎖に繋がれていた。魔物はカーリーに憑依するべく襲いかかってくる。なんでカーリーなのかは全く説明がない。

 

カーリーは魔物が憑依したマイケルと戦い、バチカンのナイフで刺すが、魔物は抜け出してカーリーに憑依する。必死で抵抗するカーリーはナイフを自身に突き刺し、魔物は絶叫の中燃え尽きてしまう。カーリーは死んだのかと思えば、病院のベッドで目覚め、マーティンが見舞いに来て、助かったことがわかる。カーリーはアンジェラの墓参りに行き映画は終わって行く。

 

まあ、普通のB級ホラーでしたが、あちこちに適当感満載で、一般公開されなかったのに納得する映画でした。