くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「恋は光」「オルメイヤーの阿房宮」

「恋は光」

めちゃくちゃ良かった。映像のテンポ、会話のリズムが抜群に良いし、舞台設定、美術のこだわり、音楽センスの心地よさにどんどん惹かれて、見終わってすごくハッピーな気持ちになりました。最高の一本、最高のラブストーリーでした。監督は小林啓一

 

とあるカフェ、一人の女子大生大学の頭に飲み物がかけられて、頭は水浸し、どうやら男関係のもつれか、周りが唖然とする中、しゃあしゃあというセリフと、離れたテーブルで女子大生北代が笑っている。このオープニングがまず上手い。続いて、登校の道、歩いてきた西条を見て北代が、「先生!」と呼びかけて軽い会話。西条は恋している女性の光が見えるという能力があり、西条はそれを恋の光と呼んでいた。ここからすでにこの映画のメッセージが埋め込まれています。二人は幼馴染だった。

 

教室で、西条は足元に一冊のノートを見つける。中を開くと細かく書かれた文章がぎっしりで、西条はいきなり誤字脱字を修正し始める。彼は校正のバイトをしていた。そこへ、落としたノートを探しに一人の女子大生東雲が現れる。西条からノートを受け取るが、西条は東雲に一目惚れしてしまう。

 

西条は何かあると幼馴染の北代を呼び出しては相談していた。そして東雲に自分を紹介してほしいと頼む。北代は西条と東雲を合わせる。携帯も持たずネットもせず、三千冊以上の本を読んでいる東雲は、西条が書いた校正に礼を言い、二人は交換日記をつけることになる。西条が北代に礼のために釣りに連れていくという展開も実に楽しい。

 

西条が東雲に渡したのは子供用のノートで、自然と個人情報が書き込まれる。西条と東雲は恋の定義を議論していこうと日記に綴り始める。たまたま西条と北代が一緒にいるのを見た北代の友達の宿木は北代と西条が付き合っていると勘違いし、西条を奪ってやろうと考える。実は宿木は人の彼氏を奪い取ることに喜びを感じる女子だった。

 

こうして、東雲と西条の恋の定義の掛け合いと北代や宿木を交えてのコミカルながらテンポ良い展開が始まる。とにかくここが前半の見せ場で、とぼけた受け答えをする西条と何かにつけ理屈っぽく語る東雲、あっさり突っ込む北代、ツンデレで軽くいなす宿木のキャラクターに引き込まれていく。

 

北代は東雲の実家に一緒に行き、そこでパジャマパーティをし、西条は北代には恋の光が見えないのだと告白する。それはつまり、北代は西条に振られたことを意味するのだと言う。この時の北代のさりげない寂しげな表情が抜群に上手い。

 

一方、宿木は強引に西条の部屋に押しかけ、相談があるとバーに誘い、落ち着くためにと目を瞑らせて無理矢理口づけをする。西条は宿木の恋の光が自分に向けられているのを感じていた。慌てて飛び出した西条は画廊に飾ってある初恋という題名の絵に恋の光を感じてしまう。そして、この絵を描いた画家も自分同様光が見えると確信し、連絡しようとする。

 

東雲は西条と恋の議論をしているうちにいつの間にか西条に恋心を持っているのを感じ始め、西条は東雲からも恋の光を見てしまう。西条は何かにつけて北代を呼び出し相談をする。

 

西条は初恋を描いた画家大洲に連絡をするが、女性を一緒に連れて来るなら会いますという返事に北代を連れていく。やってきたのは女子高生で、西条たちは驚くが、安全のために男だと思わせているのだという。そして去り際に大洲は、北代にも恋の光が輝いていると話す。そこで初めて西条は北代が自分に恋心を持っているのを知るが、北代はリアクションできないと去ってしまう。この流れもとっても良い。

 

そんな頃、北代にライバル心を持った東雲は西条に告白する決心をし、倉敷デートに誘う。そして、ほろ酔い加減の後、東雲は西条に告白する。しかし、北代に光が見えないのはそれは母性ゆえではないかと話す。実は西条の両親は離婚した際に西条を引き取らず、西条は祖父に育てられたのだ。そして両親の離婚の頃から光が見えるようになっていた。

 

東雲から告白された西条は自宅に戻り、それまで書いていた子供ノートではなく、大学ノートを取り出し、東雲への思いの丈を二晩かけてしたためていく。そして、書き終わった西条は北代を大洲の絵が展示してある展覧会での待ち合わせに誘う。西条は美術館に行くと北代は大洲の絵の前にいた。

 

西条は東雲に自分の思いの丈を書いたノートを今朝渡してきたと告白する。てっきり、東雲を選んだと思った北代は身をひこうとするが、北代を呼び止めた西条は、北代に光が見えないのは、それは形にならない何かであり、それが恋、つまり「恋は光」だと気がついたと告白。観客の中で返事ができない北代は、西条と美術館の外の出る。返事を求める西条に北代は黙って手を繋ぐ。上手い。上手すぎます。

 

東雲は、西条からもらった大学ノートに読み入っていた。そして一筋の涙が流れる。最高のシーンです。そしてエピローグ、冒頭で飲み物をかけられた女子大生が新しい彼氏ができたとはしゃいでいる。それを見ている宿木が、「ちゃんと恋をしよう」と呟いてアップになり映画は終わる。

 

とにかく、会話の掛け合いのテンポ、会話の中身のユニークさ、緩急のついた四人の受け答え、そして、西条の下宿の部屋のセット、東雲の古民家の美術、さりげなく背景にするバーやカフェ、それらの空間設定のセンスも抜群。音楽センスも良くて、西野七瀬助演女優賞ものの最高の演技を見せる。配役も上手いし、本当に堀出し物の映画でした。

 

「オルメイヤーの阿房宮

長回しとフィックスというカメラワークを駆使した映像作りはお馴染みですが、舞台が東南アジア奥地ということもあり、ちょっといつもと雰囲気の異なる作品でした。娘を溺愛する父の話というのは中盤から見えてくるのですが、前半はちょっとシュールなオープニングということもあり、入り込めませんでした。監督はシャンタル・アケルマン

 

川のほとりでしょうか、バーかカフェか、歌声が聞こえて来る。一人の男がその店に入っていくと一人の男がバックダンサーを従えて歌っている。入ってきた男は舞台に登り、歌っている男を刺し殺す。ダインは殺された。という声とともに背後で踊るダンサーは一人を残して誰もいなくなる。残ったダンサーのアップから映画は幕を開ける。この女性はニナという名前だった。

 

昔、何処かというテロップから、少女たちが東南アジアの奥地の川で遊んでいる。ニナと呼ぶ母ザイラの声で、ニナという少女が母の元に行く。ザイラはこの地に黄金を探しにきた白人オルメイヤーの妻で、娘はニナと言った。オルメイヤーはニナに白人の教育を受けさせるべく寄宿舎に強制的に入れてしまう。しかし、費用などを任せていたリンガード船長が亡くなり、大人の娘になったニナは学校を退学させられてしまう。

 

一方、オルメイヤーは船長から黄金のありかのヒントが書いたノートを受け継ぐ。そんなオルメイヤーに、船や子分を提供して協力するとダインという男が近づいて来る。しかしオルメイヤーの使用人は、ダインは悪人だから信用しないほうが良いという。嵐の日、流されて打ち上げられたダインと子分を引き上げたザイラは、子分の方を殺してダインに見せかけ、ダインとニナの仲を取り持とうとする。ザイラは愛のない結婚をしたオルメイヤーを恨んでいて、ダインにニナを連れ去らせようとしていた。ダインはニナのことが好きだった。

 

オルメイヤーは、ニナを連れ出したダインを追っていくが結局二人を港まで送り、そのまま船に乗るのを送り出す。家に帰ったオルメイヤーは最愛の娘を失い、空虚になる。その顔のアップで映画は終わる。

 

ジョセフ・コンラッドの原作だけあって、どこかシュールで暗いムードが流れる。良い作品だと思うけれど、今回見たシャンタル・アケルマン特集の中ではあまり好みではない一本でした。