くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「3つの鍵」「靴ひものロンド」

「3つの鍵」

身勝手極まりない人物たちの群像劇の如き不条理劇。導入部から一気に本編に持っていく展開は鮮やかと言えますが、いかんせん登場人物誰にも共感できない。それを狙ったかのような不気味なカラスの描写がなんともブラックユーモアのような空気感を生み出すというイタリア映画らしい作品でした。監督はナンニ・モレッティ

 

あるアパート、一人の女性が子供が産まれそうになって飛び出して来る。彼方から猛スピードの車が走ってきて、一人の女性を轢いて建物に飛び込む。車を運転していたのは裁判官の仕事をしているジョバンニとドーラの息子アンドレアだった。酒に酔って突っ込んだアンドレアを執拗に心配する母のドーラだが、まず被害者の女性を心配しろよ。というオープニング。

 

お腹の大きかった女性はモニカで、夫ジョルジュは仕事で不在がちの中、ベアトリーチェを産む。ジョルジュの兄ロベルトは不動産で成功しているが、ジョルジュは近づいてほしくないほど嫌いである。そんなロベルトから出産のお祝いが届くが、ジョルジュは返してしまう。

 

同じアパートのルーチャとサラの夫婦、そして娘のフランチェスカが住んでいる。仕事のトラブルなど自宅を開けざるを得なくなり、七歳のフランチェスカを向かいの老夫婦に預けるのが日常になっている。この日も、フランチェスカを預けて仕事に出たが、フランチェスカと遊んでいた老人が行方不明になったという。必死で探したルーチャは、公園で二人を見つけるが、ルーチャは、フランチェスカが何かされたのではないかと心配になる。検査して異常はなかったにも関わらず執拗に老人に食ってかかるルーチャ。

 

そんな頃、老夫婦の孫のシャルロットがやって来る。幼い頃からよく知っていたルーチャは、シャルロットを通じて、フランチェスカと老人の真相を探ろうとするが、シャルロットは突然服を脱いでルーチャを誘惑して来る。最初は拒否したが、つい体を重ねてしまう。それからも近づいて来るシャルロットをルーチャは遠ざけようとするが、シャルロットは告訴する。そんな頃老人も病院で亡くなり未亡人の老婦人はルーチャを憎み始める。

 

アンドレアは、両親が裁判官だから助けてくれと無理難題を言い、拒否すると、父のジョバンニを殴る蹴るの暴行をする。結局5年の刑を言い渡される。当たり前やという展開。

 

モニカは、子育てが不安で、時々室内に黒い鳥を見るようになる。そんな頃、夫の兄ロベルトが詐欺の罪で訴えられる。逃げ周るロベルトは、ある夜、モニカの家にやってきて匿ってほしいという。ロベルトとジョルジュがなんで険悪な関係になったかを聞くモニカ。モニカはベアトリーチェを学校に送っていくと、ジョルジュが待っていた。モニカはロベルトが来たことを話し家に戻るがロベルトはすでにいなかった。

 

5年が経つ。アンドレアは出所して来る。しかし両親の元に戻ることはない。両親に恨みがありのだ。シャルロットに訴えられたルーチャは無罪という判決が降りるが、シャルロットは控訴する。ルーチャは直談判して抗議しにいくが、シャルロットの祖母や母親はけんもほろろにルーチャを追い返す。

 

そして5年が経つ。ドーラの夫ジョバンニは、病気で亡くなったらしい。アンドレアの居どころがわからず連絡もできない。ジョバンニの遺品などをボランティアに持っていくが、そこでルイジという男性と知り合う。ドーラは家を売る段取りをしていたが突然ルイジが現れ、一緒に行ってほしいところがあるという。ドーラがルイジの車で向かうと、そこにはルイジの娘と結婚したアンドレアがいた。しかし、今更母の元に戻る気はないと突っぱねる。

 

モニカは二人目の子供を出産する。しかし相変わらず部屋の中に黒い鳥が見えるモニカ。ある朝ジョルジュが出張に出ようと準備していると、モニカの姿が消えてしまう。ジョルジュは娘のベアトリーチェと息子と三人の子育てが始まる。

 

ドーラはかつてジョバンニが吹き込んだ留守電の電話に今までの色々を吹き込むことを繰り返していたが、やがてそれも録音できなくなる。

 

ベアトリーチェは留学の計画がありが不安だった。シャルロットは、ルーチャと再会、控訴は取り下げたが、昔から好きだったと告げる。そして恋人と暮らすため出ていくのだという。

 

通りで賑やかな曲が溢れて生きて、大勢の人たちが踊っている。それを見て車に乗るベアトリーチェの背後にモニカの姿が見える。ドーラの元にアンドレアも赤ん坊を連れてやって来る。こうして映画は終わっていきます。

 

とにかくてんこ盛りのエピソードが満載の作品で、誰も彼もが好き勝手な身勝手人間ばかり。人間ドラマとして胸に迫る何かを描かんとしている風に見えるのですが、登場人物への感情移入が出来きれず、ラストのハッピーエンドも素直に受け入れられませんでした。前半と後半のバランスの悪さかもしれません。面白い映画なのですがね。

 

「靴ひものロンド」

もっと胸に迫るものかと思っていたのですが、意外に冷めたブラックユーモアかと思わせる皮肉たっぷりの人間ドラマでした。時間を前後させたり、これでもかという憎まれ口を叩く妻ヴァンダを描写したり、身勝手すぎる夫アルドの存在は映画に唐辛子のようなスパイスをもたらし、ラストの真実を浮き上がらせたのは面白かった。監督はダニエレ、ルケッティ。

 

ジェンカを踊る人たちに陽気な場面から映画は幕を開けますが、これが陽気ではなくて嫌味である、皮肉であることが次第に見えてきます。アンナとサンドロの二人の子供をお風呂に入れている良き父アルド。妻のヴァンダと二人きりになったアルドは、別の女と関係を持ったとしゃあしゃあと告白する。当然ヴァンダは切れてしまうが、アルドは一向に動じない。なんて男やと思うオープニングである。ヴァンダの言葉は何かにつけて辛辣で嫌味が混じっている。偏執的な女というイメージです。

 

アルドはラジオドラマの語りをしているようで、アンナとサンドロも大好きだった。アルドの浮気相手は同じ職場のリディアという美しい女性だった。ヴァンダはアルドを追い出し、アルドは時々子供たちと会うという別居生活が始まる。悔しくてたまらないヴァンダは、狂ったようにアルドに当たったり、リディアを殴ったりしてどんどん神経的にエスカレートし、とうとう窓から飛び降りて自殺未遂をしてしまう。

 

アルドは子供たちの世話をすることになるが、やがてヴァンダの怪我も回復、この日も車で子供がアルドと過ごす日のためにやって来る。アンナは大きくなり、反抗期の年齢のようである。アンナとサンドロはアルドと歩いていくがそれを見届けたヴァンダは意気揚々と路地を駆け抜ける。背後にジェンカが流れる。

 

カットが変わると、年老いたヴァンダとアルド、一匹の飼い猫がいる。アルドが宅配の品物を受け取り、配達の女の子に騙されて余計な金を払ってしまう。玄関にあかずの箱という細工をした箱がある。余計に金を払ったアルドを責めるヴァンダ。ここから、老年となったアルドたちと、若き日のアルドたちの映像が交錯し始める。

 

アルドはリディアとローマで暮らし始め、ナポリのヴァンダたち家族と行き来する日々を送る。アルドはリディアのヌード写真を撮り、実はリディアにもらった細工の箱に隠している。老年となったアルドとヴァンダは、一週間ヴァカンスで家を開けるが、戻ってみると家の中は泥棒が入ったように荒らされていて、飼い猫が行方不明になっていた。アルドは、細工の箱を見つけるが中身がないため、整理している風にあちこち探し始める。ヴァンダも自分の身の回りを整理しながら何やらしている。タンスの後ろに何か見つけたとヴァンダが言う。

 

すでに成人になったアンナとサンドロが会っている。サンドロの靴紐の結び方がおかしいとアンナは言うが、アルドに教えられたのだという。若き日に戻るとアルドが教えたつもりはなく見よう見まねで覚えたのだという。成人したアンナとサンドロはヴァカンスで不在の両親の家にいた。サンドロは、突然この家には秘密がたくさんあるのだという。アルドは、リディア以外にも浮気をしていたし、ヴァンダも浮気をしていた。アンナは、何かにつけて執拗に説教するヴァンダが嫌いで、リディアのような綺麗な人に憧れていたのだと告白する。

 

サンドロは、細工の箱からリディアのヌード写真を出す。そして二人で、アルドとヴァンダの秘密の証拠を探そうと決めて部屋中ひっくり返し、さまざまなレシートや写真をばら撒く。最後に、リディアの写真をタンスの隅に隠し、アンナは飼い猫を抱いてその家を出る。こうして映画は終わっていきます。

 

全体が、人間は誰しも嫌味と嘘の塊なのだと見せつけるブラックユーモア的な作品で、面白いのですが、イタリアならではの気質が生み出す空気感には同感できず、一歩のめり込めない作品という感じの一本でした。