くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ゲネプロ★7」「レッド・ロケット」

ゲネプロ★7」

深夜ドラマみたいな出来栄えの映画でした。主要な人物七人それぞれの演技はしっかりしているのだけれど、七人の個性が全く描ききれていないので映画が平坦で凡庸になってしまった。凝縮されたミステリーと言う雰囲気の脚本ですが、映画全体のスケールが小さくまとまってしまった感じは否めない。監督は堤幸彦ですが、彼の力量は全く発揮されてなかった気がします。

 

若者たちから大人気の七人の劇団「劇団SEVEN」が次の演目「シェイクスピアレジェンズ」の準備に入ったところから映画は幕を開ける。しかし、この劇団のリーダー蘇我が突然亡くなり、劇団の歯車は狂い始めていた。そんな劇団に、新人山井が参加してくる。自身の劇団が解散することになり、兼ねてから憧れの「劇団SEVEN」が新メンバー募集中ということでオーディションに参加、見事受かったのだ。しかし、一週間後に迫る本番に向けての稽古はそれぞれの確執が入り乱れて一向に進まなかった。

 

信頼関係も薄れ、崩壊寸前の劇団にいよいよゲネプロの日が迫る。この辺りから山井の存在が大きくなり、どうやら彼は蘇我の名を受けて劇団に新たな本物のリアリティを生み出すべくやってきた人物だとわかる。やがてゲネプロが始まるが、シェイクスピアの主要人物それぞれがバトルをすると言う演目で、手にしている刀が真剣であることが明らかになる。

 

メンバーそれぞれはここまでのすれ違い、蘇我が愛していた女性との恋のバトルも相まって、それぞれ役になりきったままの命をかけた戦いへと発展していく。そしてそれを仕掛けたのは山井だと見えてくるクライマックス、血だらけで倒れていくメンバーたち。最後の最後に、全てが終わり、見下ろす山井の姿の下には大勢の観客の大絶賛を受けているメンバー達が舞台にいた。こうして映画は終わる。

 

ほぼ、劇団の建物内だけの物語だからスケールが小さく見えるのではなく、物語全体の空気感が実に小さい。山井が蘇我の名を受けて、画策していくクライマックスへの盛り上がりも全くなく、それまでのギクシャクしたメンバー同士の確執の面白さもありきたりで、セリフが全員一本調子。作品全体にうねりがないために、何とも平坦な仕上がりになった感じです。面白いかもと期待したのに残念です。

 

「レッド・ロケット」

ちょっとした佳作だった。一人の調子のいい男の運に恵まれない適当そのものの人生というエンタメ映画。過去に彼のそばをうまくすり抜けていった不運は数知れないが、一方で幸運もすり抜けていった。そんな彼の人生は結局行き着くところは夢を見ていただけの切ないラストを迎える。主人公に手放しで共感しないが、どこか哀れさを感じてしまう。これがアメリカかもしれない。そんな映画でした。監督はジョン・ベイカー。

 

主人公マイキーがバスに乗っている。軽快な音楽が途切れると、故郷の町テキサス州。今や落ちぶれて無一文の彼は別居している妻レクシーの元を訪れる。レクシーにも義母のリルにも嫌われているものの強引に家に入れてもらう。彼は元ポルノスターで、現役時代はそれなりにその方面の賞にノミネートされたりした有名人らしいが、それも真実かどうか不明。

 

マイキーは早速仕事を探すが、見つかることもなく、昔の知り合いレオンドリアに頼んで、マリファナを売るようになる。それなりに収入を得るマイキーにリルも心ならずも好感を持つようになる。レクシーも男日照りだったこともあり、マイキーに抱かれることで、気持ちが緩み始めていた。マイキーは隣に住む幼馴染のロニーの車で街に出かけたりし始める。

 

そんなある日、レクシーらとドーナツ店に行ったマイキーは、そこで高校生の少女ストロベリーと出会う。一目で彼女の才能を見抜いたマイキーはことあるごとに店に行き、ストロベリーと懇意になっていく。ストロベリーには彼氏がいたが、マイキーに乗り換えてしまう。今時の少女のストロベリーは、真っ赤なピックアップに乗り、マイキーとのSEXも割り切ったふうに楽しんでくれた。

 

一方、マイキーは近くの精油工場の従業員にもマリファナを売るが、その事はレオンドリアから手をつけないようにと注意される。しかしマイキーは言うことを聞かず従業員にマリファナを売る。

 

マイキーはストロベリーにポルノスターの才能があると確信、ロスへ連れて行ってプロデュースして起死回生を計画する。そのために、マイキーはますますマリファナの仕事を増やし、ロスへ行く金を貯めようとする。そして、ストロベリーの気持ちもその気になったと判断し、金も溜まってきたマイキーは嬉々としてロニーの車で自分の夢を熱く語っていたが、高速の出口を通り過ぎかけたロニーに急ハンドルさせ、22台の玉突き事故を起こしてしまう。マイキーはロニーに、自分は乗ってなかったことにしてもらう。ロニーは逮捕されるがマイキーのことは口外しなかった。

 

全てうまく行ったと思ったマイキーはストロベリーの店に行き、一緒にロスへ行こうと誘う。そして翌朝、ストロベリーの家の前で待ち合わせることにする。マイキーは家に帰り、レクシーに、明日ロスへ戻ると告げてベッドに入る。しかし、レクシーとリルは何やら目配せする。深夜突然マイキーは起こされる。そこにはレオンドリアの娘ジューンらがいた。そして、マイキーの隠していた金もマリファナも取り上げ、素っ裸で追い出す。レクシーもリルもマイキーを許していなかった。

 

マイキーは素っ裸でレオンドリアの家を訪ね助けを求める。レオンドリアは、ジューンらを宥め、マイキーにわずかの金を渡し、翌日出ていくように勧める。マイキーは、ほとんど一文なしで、タクシーも呼べず、歩いてストロベリーの家の前にたどり着く。じっと玄関を見つめるマイキーの前に真っ赤なビキニを着たストロベリーが現れるが、それはマイキーの見た夢なのだろう。こうして映画は終わる。

 

終盤に襲われる展開はちょっと唐突すぎるが、落ちぶれたマイキーの過去にはほとんど触れないストーリー展開で、彼の不運な人生が想像され、いかにも能天気で軽い行動を繰り返すマイキーの姿に同情さえ感じてしまう。一人の男のついていないのか自業自得かのどこか寂しい人生の物語という感じで、目が覚めるほど綺麗な景色を時折挿入する絵作りもなかなか、しかも、たわいない話にいつの間にか引き込まれる展開も面白い。ちょっとした秀作という感じの一本でした。