くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ヴィレッジ」(藤井道人監督版)

「ヴィレッジ」

語らんとすることはわかるのですが、いかんせん先の読めるストーリー展開とありきたりなキャラクター設定、意味ありげなあざとい映像演出でテレビドラマを見ているような薄っぺらさを感じてしまった。もちろん、映画のクオリティはそれなりの水準を保っているとはいえ、前半をひたすら陰にこもらせ、後半は吹っ切れたシュールさで進めようとしているものの不完全燃焼に終わっていく。ラストに至っては、何とも物足りなさを感じざるを得ない締めくくりだった。監督は藤井道人

 

山深い村霞門村で能が演じられていて、交錯する映像で一人の男が狂ったように家に火をつけている。そしてタイトルの後、昔ながらの集落に不釣り合いな巨大なゴミ処理場がそそり立つ景色、そこで働く主人公の青年優は、同僚のイジメの如き仕打ちで殴り倒されている。現場の責任者大橋透が賭け試合をしている風である。優の後輩で新入りの筧はそんな優を哀れに思っている。

 

夜になると何やら不法投棄のトラックがやってきて、優たちはそのゴミを埋める仕事をしている。仕切っているのはヤクザものらしい丸岡、村長の大橋が見て見ぬ振りをして立っている。優の父は、かつてゴミ処分場建設に反対を訴えたが村八分にされ、その腹いせに建設推進派の男を殺し、自宅に火をつけて自殺したらしい。母はギャンブル依存症になりその借金返済に優はゴミ処理場で働いているが、父が犯罪者ということで子供の頃からいじめに遭って今に至っている。村長大橋は、不法投棄を含め県下のゴミを一手に引き受けて、県会議員に取り入り村を潤わせてきたが、乱暴者の息子透には手を焼いていた。弟の光吉は村を出て刑事をしている。

 

そんな村に、優の幼馴染の中井美咲が帰ってきて優の会社に勤めることになる。美咲は街で精神を病んで首になって村に帰ってきたのだ。美咲は優をかわいそうに思い、ゴミ処理場のイメージアップの戦略もための広告等に優遇しはじめる。そんな姿に透は面白くなかった。

 

最初は乗り気でなかったが、これまでの苦しさを知ってくれる美咲に次第に心が開かれ、ゴミ処理場見学ツアーの案内役でどんどん明るさを取り戻していく。そして美咲とも恋人関係になっていく。やがて村はマスコミに取り上げられテレビにも出るようになって観光客が訪れ始める。優はメジャーな存在になっていくが、そんな姿にとうとう透は美咲の家に押しかけ、かつて優も不法投棄の仕事をしていたことをバラした上、美咲を襲う。駆けつけた優は透に掴み掛かるもかなうはずもなく、優は透に反撃される。

 

翌日、あざだらけの優はメイキャップであざを隠しテレビに出演する。その様子を美咲も見ていた。透は昨晩から行方不明になっていた。美咲の弟で発達障害の恵一もゴミ処理場で働いていた。ある時、ゴミに水を撒いていて、医療ゴミを発見してしまう。恵一は光吉にそれを知らせに行き、警察は深夜の不法投棄の現場を押さえる。

 

大橋は隠蔽に動くが、優も今の立場を守るべく隠蔽に加担する。事件は収束するかに思われたが、違法投棄物を掘り返していて、死体を掘り出してしまう。それは大橋透の遺体だった。透が美咲を襲った際、殴られ続ける優を守るべく美咲はハサミを透に突き刺し殺害し、その遺体をゴミ処理場に埋めたのだ。そしてその様子を恵一は知っていたが姉を助けてくれた優の為にそこまで話さなかった。

 

しかし、優はさらに隠蔽を考え、恵一に、透がヤクザものらに連れて行かれたと嘘の証言を依頼する。しかし、恵一は拒み、優の車から逃げようとし、優は事故を起こしてしまう。一方、透の遺体にあったスマホから不法投棄の証拠写真が見つかり、優も加担していたこと、透が美咲を襲ったことが判明する。

 

その頃、村長の大橋は優に、透には手を焼いていたからこれで良いとし、今回は美咲に全ての罪を着せようと優に提案する。ここに及び、優はとうとう大島の首を締め、殺してしまう。そして家に火をつけ大島の家を後にするが、そこへ、光吉が駆けつける。そんな光吉を振り返る優。この村の定めを疎ましく思い、優を見つめる光吉のカットでエンディング。クレジットの後、恵一が村を出ていきカットが挿入される。

 

古式然とした村の何ともいえない悍ましく淀んだ空気感の中、もがき逃れることができないままに押しつぶされていく村人たちの何ともいえない悲壮感を描こうとしているのはわかる。村の雰囲気を出すため、古来より能が伝わっていたり、村長の母が一言も喋らず不気味に存在したり、優がゴミ処理場の穴から不気味な呼吸音を聞いたり、それは能面の表が出す妖気の如きものだったり、そこかしこに超自然的な演出が施されているが、全く機能していない。しかも、登場人物の設定がいかにもよくあるステロタイプ化されたものだし、ストーリー展開も、次はこうなると簡単に見えてしまうので、インパクトが感じられない。映画全体がリアリティのないファンタジーの如き作品で、狙いが成功しているように見えないのは私だけでしょうか。何とも陰気なだけに感じてしまいました。