くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「電話は夕方に鳴る」「挽歌」(五所平之助監督版)「怪物の木こり」

「電話は夕方に鳴る」

軽妙などたばたコメディサスペンスだが、非常によくまとまっているのは流石に新藤兼人の脚本のうまさだろう。冒頭の軽やかな導入部から、いきなりの本編、そして全て終わって冒頭シーンに戻るという組み立ては絶品。楽しい映画でした。監督は吉村公三郎

 

一人の女子高生咲子が颯爽と自転車で学校を出て来る。主題歌に乗せて古い街並みを走り抜ける。明らかに倉敷の街だが、冒頭でこの物語は全て架空だと宣言していて、廣岡という街になっている。カットが変わると、紅団という仮面をつけた高校生たちの集まりで、そこに咲子もいる。集まりが終わり解散、カットが変わって市長立花卓造の家に電話が入る。よくわからないが脅迫電話らしく、指定場所に50万円持って来ないと家族に災いが起こると言ってくる。

 

翌日、市長室に行った卓造だが、秘書辰枝に何もかもを見破られてしまう。犯人の指定場所に金を持っていくが現れず、警察署長らが右往左往する。次の指示もまた夕方電話が入る。ところが、次の指定場所でも犯人は現れない。映画は、この繰り返しでその度にドタバタする警察や家族、周辺の人々の姿をコミカルに描いていくが、受け渡しがある度に様々な裏話が表に出る。

 

最初は、助役の山根に愛人がいたり、共産系の団体に警察署長の息子がいたり、そして、策に行き詰まった警察は地元の俠客に応援を頼み、結果、地元のチンピラや愚連隊を一網打尽にすることになる。それでも次の受け渡しの連絡が来る。辰枝の家はタバコ屋で、仕事で帰った日、一人の男が電話をしていた。その内容は、市長を脅迫するもので、辰枝はこの男が犯人だと知る。タバコ屋のおばさんによると、市長の家の運転手の弟貞次だという。しかも貞次は咲子の恋人だったが、身分違いで別れ別れになっていたものだった。

 

最後の受け渡しは咲子が指定され、駅で受け渡すことになっていたが辰枝は影から咲子を監視していた。そこへ貞次が来るが、結局、咲子に会わずに列車に乗る。何もかもが終わり、次の選挙に向けて準備する市長の姿、そして、のどかな街に起こった脅迫事件で、街の汚れたものが一掃されて綺麗になった感じがするというナレーションで映画は終わる。

 

ドタバタシーンが実にコミカルで面白いし、ラストに向かってしっかり書き込まれた脚本のクオリティがなかなか良い。次々と人物が登場して、ささやかなドラマが展開し、それぞれが行くべき方向へ向かって進んでいってラストは綺麗にまとまっていくのは絶品の出来栄えです。ちょっとした傑作だった気がします。

 

「挽歌」

典型的な文芸作品という空気感のある秀作。北海道の美しい景色を背景に描かれる小悪魔的な一人の少女と、彼女に翻弄されていく大人の恋の物語という雰囲気で、若干、役者の年齢が役の年齢より高いために違和感がないわけではないが、映画としてはクオリティの高い作品でした。監督は五所平之助

 

北海道、主人公の怜子は幼い頃の病気の影響で左手が麻痺し、それが障害となっている。父親はそんな娘が不憫で結婚相手を探そうとしているが、本人はみみずく座という劇団の美術の仕事をしていて、しかも結婚に全く興味を示さなかった。そんな怜子はある時、犬に噛まれてしまう。犬を散歩させていたのは設計士の桂木で、怜子は惹かれるものを感じてしまう。

 

怜子は桂木の家に行こうとした時、たまたま桂木の妻あき子が愛人らしい男古瀬と一緒にいる現場を見てしまう。その後、怜子はたまたま桂木の事務所が父の会社の下の階だと知り、舞台の券を売る口実で事務所に押しかける。桂木は妻との関係も冷めた状態で、怜子に惹かれるものを感じてしまう。あき子が玲子の劇団仲間の幹夫の絵のモデルになっていたことがきっかけで、怜子はあき子と親しくなる。あき子の大人の落ち着いた雰囲気にどんどん惹かれていく怜子だが、一方で怜子の真実を知り、さらに隠れて桂木と交際しているアバンチュールに次第に酔い始めていく。

 

映画は、怜子があき子を慕い、親しくなっていく展開と、一方で桂木と深い仲になり、とうとう一夜を共にするまでになるくだり、そのそれぞれを隠しながら怜子があき子と桂木を小悪魔的に追い詰めていく展開を描いていく。そして、あき子が怜子を桂木に紹介した直後、怜子が真相をあき子に話し、あき子は落ち着いていたものの、自身も古瀬との逢瀬を続けていた罪悪感も重なりとうとう自殺してしまう。

 

事件の後、しばらく引きこもっていた怜子だが、ふと桂木の家に行き、荒れた部屋を見て片付け、桂木と顔を合わせないように逃げ出し、やがて劇団の遠征のトラックに乗る姿で映画は終わっていく。

 

怜子役の久我美子がもう少し若ければ小悪魔的な雰囲気がくっきり出たのだろうがちょっと大人びすぎて違和感があり、一方の高峰三枝子らもひとまわり若い俳優なら良かったかも知れない。しかし、美しい自然の描写や画面の構図は美しく高級感漂う作品だった。

 

「怪物の木こり」

久しぶりにハイクオリティなホラーサスペンスを見ました。カメラワークの面白さ、ドラマ展開の楽しさ、それでいてラスト、感情に訴えるエンディング、面白かった。監督は三池崇史

 

大勢の刑事が一軒の屋敷に踏み込んでいく。出迎えた男を押し除けて犯人であろうその男の妻の部屋へ行く。そしてたどり着いた部屋は何やら医療器具が並んでいて、女はメスを握って立ち向かおうとする。ベッドには頭に包帯を巻いた少年がいて、「怪物の木こり」の絵本を読んでいる。次の瞬間女はメスで首を裂いて自殺する。東間事件と呼ばれる30年近い前の事件で、大勢の子供が誘拐殺された事件だった。

 

場面が変わると、一台の疾走する白い車を俯瞰で捉えるカメラ。続いてその車の後を黒い車が追っている。そしてカーブを曲がったところで黒い車の前に男が立っていて、慌てて黒い車がハンドルを切り損ね横転する。運転手は助けを求めるが二宮は割れたガラスでその運転手の首を切って殺してしまう。殺人を犯したのは二宮という弁護士でサイコパスだった。今の弁護士事務所の先の社長を屋上から突き落とし、社長の娘映美と婚約もしている。

 

二宮は同じサイコパスで外科医の杉谷を訪ねる。二宮を追ってきた男はこの病院の事務員で、二宮が犯罪に関係があると考え追ってきたらしい。二宮は病院の廊下で一人の女刑事戸城とすれ違う。戸城はプロファイラーだった。最近、怪物の木こりよろしく斧で惨殺して脳を持ち帰る殺人事件が起こっていて、参考意見を聞きにきていた。二宮はその帰り、地下ガレージで仮面を被った男に斧で襲われる。間一髪で通りかかった女性の悲鳴で仮面の男は退散するが、二宮は頭に衝撃を受けて気を失う。

 

病院で目が覚めた二宮に担当医が脳チップが埋められていると話す。二宮には覚えがなかったが知っているふりをし、ネットで脳チップを調べると、全身麻痺を治療するのに使われた過去があるが今は禁止なのだという。二宮は杉谷のところへ行き脳チップについて聞く。かつてサイコパスの治療に使うために研究され、脳チップを埋めてサイコパスになるかどうかの実験がされたことがあるという。

 

それは30年以上前の東間事件だった。東間夫婦は子供にチップを埋め込んでサイコパスになるか実験をし、自分たちの子供のサイコパスを治す方法を模索していたのだという。しかし、二宮は、殺人鬼に斧で殴られた衝撃でそのチップが壊れたらしく、以前のように冷淡に殺人行為をできなくなっていることに気がつく。

 

一方、戸城らは、続く殺人事件を追ううちに、殺人鬼が一度失敗したことに気がつき、二宮に接近する。また、被害者が共通して施設で育ったことを発見する。さらに、施設にいた子供たちに脳チップが埋められていたことがわかり、犯人は頭を破壊してチップを持ち去ったことがわかる。かつてサイコパスの犯罪者として逮捕した剣持が捜査線上に上がり、剣持を殴って左遷された乾刑事の事件を絡め、戸城は剣持の所へ行くが、けんもほろろに追い返される。二宮を担当した医師はチップのことを口外させないために二宮と杉谷に殺される。

 

戸城は二宮がかかった病院へ行き、違法にカルテを見て二宮に脳チップが埋められていたことを突き止める。その行為で戸城は捜査から外される。一方乾も剣持担当の過去があるため捜査から外される。戸城は直接単独で二宮の家に行き、車に発信機を仕掛ける。一方、他の刑事は乾が犯人であろうと乾のところへ向かうが、何食わぬ顔で乾は現れる。そこで初めて戸城は真実が見えてくる。

 

その頃、映美が誘拐された映像が二宮に届く。東間の屋敷に来いという指示で二宮は東間の屋敷へ向かい、映美を発見する。そこへマスクを被った殺人鬼が襲いかかる。足枷で捉えられた二宮は殺人鬼に仮面を取るよう要求、殺人鬼が仮面を取ると剣持だった。剣持もまた東間の実験台の一人で、二宮がいた際に二宮を逃がそうとしたができなかったことを謝る。二宮は映美の父を突き落としたことを自白する。

 

二宮は映美を人質にして剣持を追い詰め、剣持に怪我を負わせる。剣持は乾に殴られた際、脳チップが壊れた為、良心が目覚め、ずっと罪悪感に苛まれ、サイコパス狩りをしていた。やがて屋敷に火がつき、駆けつけた戸城らは二宮らを助けるが剣持は炎に包まれていく。

 

回復した二宮は事務所で戸城を出迎える。結局、戸城は二宮を逮捕できなかったと去っていく。二宮の自宅で映美は目をさます。二宮は映美を抱きしめるが映美の手には包丁があり、二宮を刺す。二宮は映美の首を絞め、絞め跡を作って、「これで正当防衛だから」と映美を警察に走らせ、息を引き取る。こうして映画は終わる。

 

犯人が誰かというサスペンスと、残虐な殺人の理由、サイコパスの二宮と杉谷の存在、乾ら刑事などなどキャラクターも面白いし、終盤、いつの間にか良心に目覚めた二宮が映美を守るくだりでの締めくくりも良い。エンタメとしてかなりのクオリティで楽しめる作品でした。