くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ナポレオン」(リドリー・スコット監督版)「隣人X-疑惑の彼女-」

「ナポレオン」

大作らしい物量、エキストラを注ぎ込んだ壮大な歴史絵巻という感じの作品で、史実を忠実に淡々と描く一方で、ナポレオンの人間ドラマを英雄としてではなく一人の男として描いていく奥の深さは納得するのですが、史実では年上のはずのジョゼフィーヌ役バネッサ・カービーが年下にしか見えず、故に、なぜここまで惚れ込むのかというナポレオンとの関係性が弱いのは残念。結果、相当な力を入れたであろう戦闘シーンがやたら目立ってしまって、映画を見たという満足感で劇場を出て来れる作品で、長尺ながら長さを感じさせない演出力と脚本は見応え十分でしたが、驚くほどの傑作にはならなかった。監督はリドリー・スコット

 

18世紀末、フランス王政が衰退し、マリー・アントワネットが絞首台に連れて行かれる場面から映画は幕を開ける。モダンなリズム感の背景音楽が不思議な空気を醸し出すオープニング、群衆を見つめるナポレオンの姿が捉えられる。イギリスによって南仏トゥーロンの港が占拠され、フランスの威信は地に落ち、人々は不満を隠せない。ナポレオンは軍事大臣に推挙されトゥーロン奪還に向かうことになる。攻撃直前、落ち着かない風のナポレオンの姿を描写する。

 

見事トゥーロンを奪還したナポレオンは、恐怖政治の終了したフランスでみるみる頭角を表し、軍の総司令官となる。そんな頃、夫を亡くしたジョゼフィーヌと出会う。ナポレオンはジョゼフィーヌと恋に落ち結婚するが、奔放なジョゼフィーヌはナポレオンが遠征して不在の中、他の男とも関係を持つ。エジプトから急遽戻ったナポレオンはクーデターを起こして第一統領となり、さらにフランス帝国皇帝まで上り詰める。この辺りが実にあっさりと進む。

 

ナポレオンとジョゼフィーヌは皇帝と皇后として優雅に生活するが歪んだ夫婦生活だった。ナポレオンは戦争にのめり込んで行き、オーストリア、ロシア連合軍をアウステルリッツの戦いで破り、さらに、フランスを裏切ったロシアを追ってモスクワまで侵攻する。しかしロシアはモスクワを焼き払ってペテロスブルグまで引いてしまい、冬の寒さの中、大勢のフランス兵士を失ったナポレオンは糾弾されて、コルシカ島へ流される。

 

しかし、フランスへの思い、さらにジョゼフィーヌへの想いを捨てきれないナポレオンはコルシカ島を脱出、フランス本土でナポレオンを慕う兵を募って軍隊を組織するが、イギリス、オーストリア、などヨーロッパ連合軍がナポレオンに迫る。ナポレオンはワーテルローで決戦をするべく対峙するが、圧倒的な軍事力の差で敗退、セントヘレナ島へ流刑される。やがてセントヘレナ島でナポレオンは亡くなり映画は終わる。

 

歴史の史実が淡々と描かれる展開で、ジョゼフィーヌとの関係や人間としての苦悩、政治力を含めたナポレオンの優れた知力の部分の描写が弱く、脇役もポイントになる人物が存在しないために物語がやや薄くなってしまった。戦闘シーンはCGも交えているかもしれないが8,000人というエキストラ導入の迫力は半端ではなく、かつてのハリウッド大作を思わせる映像には圧倒されます。全体に驚くほどの出来栄えではないのですが。それでもやはり並以上の超大作の貫禄十分な映画でした。

 

「隣人X-疑惑の彼女-」

多様性と差別意識の問題、マスコミへの批判などをSF仕立てで原作は描かれているのだろうが、胸糞の悪いストーリーなのはテレビレベル以下の脚本によるものか、役者任せの適当な演出によるものか、いずれにせよ雑な映画だった。唐突でなんの脈絡もない展開と、オーバーアクトな演技、それをまとめていかない演出、登場人物を全く描き分けていない描写、久しぶりに酷い映画に出会った。監督は熊澤尚人

 

故郷の惑星の紛争によって地球に難民としてやってきたXについての説明から映画は幕を開ける。Xは人と同じ姿をしていて、人類に決して危害を加えない生物であることからアメリカは難民としての受け入れに賛成したが日本は難色を示していた。雑誌記者の契約社員笹憲太郎は仕事にうだつが上がらず、編集長から睨まれていた。日本人の危惧を記事にするために、日常に紛れているXを見つけ出すスクープを追うことになる。Xと思しき候補が選ばれ、憲太郎は無理やりその企画に参加させてもらう。

 

憲太郎が任されたのは柏木良子と台湾から来ているリン・イレンだった。まず良子を追跡し始める憲太郎だが、次第に良子に恋心を持ち始める。一方、リンは、バンドをしている拓真という彼氏ができるが、何かにつけ日本語がうまくいえずバイト先でもリンは疎まれていた。憲太郎は、自分のアパートの前で突然、Xらしい人物と遭遇、たまたま良子の父の写真を見せてもらい、それが憲太郎が遭遇した謎のXの姿と同じだったことから、良子がXだと信じ始めるが、一方で恋心を抱いていたため悩んでしまう。

 

その頃、憲太郎は祖母が入っている施設の支払いが滞っていて、退所を宣告されていた。憲太郎は意を決して、強引に良子の父に会わせてもらい、DNA鑑定のため髪の毛を採取する。ところが、編集長は勝手に良子の父と特定できるような写真と記事を載せ、良子の実家は大騒ぎになる。良子にも騒ぎが広がり、憲太郎は良子の前から消える。ところが良子の父がマスコミの前で真摯な対応をしたことから形成が逆転、雑誌社が非難され始める。さらに、憲太郎の前に以前現れたXが再度現れ、憲太郎もまたXだと伝える。憲太郎は自身がXだと告白する記事を出し、会社を退職する。

 

一方、リンは拓真と付き合っていたが、自分が台湾人であること、日本語がいつまでもうまく行かず恥ずかしい思いをしていることを素直に話し、拓真もリンの気持ちを察するようになる。

 

良子は、以前憲太郎に勧められていたブックカフェを開いていた。そこへ憲太郎がやって来る。良子は読み聞かせた子供の一人にもらったスクラッチに当たりが出たら、会いましょうと言う。こうして映画は終わる。

 

とまあ、混沌としたストーリー展開で、リンと拓真の話がほとんど意味をなしていないし、Xを見つけるサスペンスも全くなく、ただ、偏見や多様性についてしつこく訴えるだけの展開と、とってつけたような物語の流れは、素人かと思えるほどひどい。本当に残念な仕上がりに映画に久しぶりに出会いました。