くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ウィークエンドはパリで」「グッバイ・アンド・ハロー父か

kurawan2014-10-23

「ウィークエンドはパリで」
まったく、外国映画は老夫婦を扱っても、なんでこうも洒落た作品が作れるのだろう。この映画も、倦怠期の老夫婦のお話だが、実に気の利いた映画なのである。監督はロジャー・ミッシェルである。

映画は、パリに向かう列車のシーンに始まる。線路を写すカットから乗客を写し、やがて主人公の夫婦、ニックとメグのところに視点が移る。

週末を、かつての思い出のホテルでとやってきたが、あまりにお粗末になっていて、急遽、別のホテルのしかもロイヤルスィートに泊まることにする。

何かにつけ、もう一度SEXしたいようなそぶりを見せるニックを軽くいなすメグ。どこかちぐはぐだが、この絶妙の雰囲気が、実に熟年の夫婦のムードを見事に表している。一見、ぎくしゃくしているようで、どこかほのぼのしている。

まるで、恋人同士の若者のようにはしゃぐかと思えば、どこか、別れてしまうのではないかと思えるような危なっかしい会話も会話もかわされる。

街で、旧友のモーガンに出会い、彼のパーティに呼ばれ、そのスピーチの席で、ニックは、息子は麻薬常習者で、若夫婦の家はゴミだらけであるとか、妻のメグは、今夜、男性に誘われて、抜け出すのだというような悲しい話を暴露する。洒落た夫婦のドラマなのに、ここにきて、急に暗部を見せるのだが、その演出も実にうまいのである。

そして、ホテルに戻ってみたら、支払いのためのクレジットカードが限度オーバーで使えなくて、部屋に入れない。捕まりそうになるのを、脱出した二人は、モーガンに連絡してカフェで待つ。やってきたモーガンから、「しばらくうちに来たら」という提案をもらい、ニックはジュークボックスにコインをれて、流れてきた音楽で踊り出す。つられて、メグもモーガンも踊り出して暗転エンディング。いやぁ、粋で洒落ている。こんなエンディングいいね。

いったいこのあとふたりはどうなる?ホテルの支払いは?小粋な余韻を残すラストシーンに拍手したい一本だった。


「グッバイ・アンド・ハロー 父からの贈り物」
30歳でこの世を去った天才ミュージシャン、ジェフ・バックリィが脚光をあびる運命の一瞬までを描いた伝記ドラマである。

といっても、ジェフ・バックリィというミュージシャンも、その父で、これまた偉大だったティム・バックリィという人も知らないし、当然、曲も知らない。確かにバックに流れる楽曲は、澄み切った歌声と哀愁さえ漂う切ないメロディが素敵であるが、映画として、ドラマ性が不十分で、曲の羅列になってしまったのが残念。

物語は主人公ジェフに、父ティム・バックリィのトリビュートコンサートを開く、という知らせが届くところから始まる。

現在のジェフのお話と過去のティムの話を交互に描きながら、それぞれの恋の物語を並行して進めていくが、ティムの話にもジェフの話にも今ひとつ人間が描ききれていないために、薄っぺらく見えてしまうのである。結果、作品全体に、迫ってくるドラマが弱くなったような気がします。いい映画ですが、もうちょっと演出力が欲しかったかなとおもいました。


「FRANK フランク」
ファンタジックなコメディかと思って見に行ったら、なんと、シリアスなドラマだった。そのギャップに一瞬戸惑うが、思い返してみたら、ちょっとした個性的な映画だったのかなと思える。

主人公ジョンは、自称作曲をこなすミュージシャンだが、今一つパットしない。この日、たまたま会社の帰りに海岸で、一人の男の自殺未遂を目撃。傍らにいたゴンという男が、彼は今夜のバンドのキーボードなのだとつぶやく。

その言葉に、ジョンが立候補し、なぜか今夜のキーボードを頼まれる。いってみたら、ボーカルででてきたのは、仮面をかぶったフランクという人物、しかも、バンドの面々は、誰も彼も精神的にどこか病んでいるくせ者ばかり。

程なくして、再びジョンにお呼びがかかり、いってみると、なんとアイルランドでアルバムの収録をするのだとつれていかれる。

フランクを始め、奇怪なメンバーに魅力を感じたジョンは、そこで一緒に暮らす姿をTwitterに投稿。静かな反響の中、音楽祭にでることになる。

フランクの奇妙な行動がとにかく前半のストーリーを牽引し、周辺の個性的なメンバーのすっ飛んだ行動がおもしろさを生み出していくはずなのだが、今一つはじけきらない。

やがて、音楽祭にでるも、メンバーの確執で、失敗。さらにフランクとジョンだけになったバンドも、やがてフランクが情緒不安定になり、飛び出したところへ車がつっこみ、仮面がとれたまま行方不明になる。

そして、やっと見つけたフランクに会いに行くジョン。

そこにいたのは、14歳から仮面をかぶっていた跡が残る一人の男の姿。メンバーから離れ、すっかり生気を失っているフランクをジョンは、かつてのメンバーのところへつれていく。

素顔のフランクをみたメンバーは、彼をフランクだと認めマイクを渡す。歌い始めるフランク、静かに身を引き去っていくジョンの後ろ姿でエンディング。

終盤は、完全な人間ドラマになり、繊細で揺れ動く人と人の絆の物語としてラストシーンを迎える。

もう少し、中盤までの展開がすっ飛んだ演出になっていれば、ラストが引き立ったかもしれないが、中盤までがやや迫力不足なのが、作品全体の完成度を下げた気がするのがちょっともったいない。

おもしろい題材なのに、今一歩だったというのが感想です。