くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「踊子」「ビューティフル・ボーイ」

「踊子」

たわいのない話なのに、どうしてこんなに胸に迫ってくるのだろう。やはり物語の厚みがあるからだろう。一見、よくある痴話話なのに、さりげない当時の世相や人々の心の機微が見事にスクリーンから伝わってくるのです。監督は清水宏

 

浅草で踊り子をしている花枝とそこでバイオリン演奏をしている夫の山野が安アパートで目を覚ますところから映画が始まる。花枝は今日は休むという。というのも金沢から妹の千代美が上京してくると知らせが来たのだ。

 

田舎でバスガイドをしていた千代美はいかにも当時としては現代的な女の子で、花枝の舞台小屋を見に行って、ダンサーになると言い出す。花枝、山野のアパートで寝泊まりするようになる千代美は、なるべくして山野と懇ろになる一方演出の男とも関係を持つ。

 

やがて千代美は妊娠、山野の子供だというが程なくして花枝にバレることになる。普通ならここからドロドロのいがみ合いというところだが、子供ができない花枝は、自分が育てるという。この辺りの割り切りや、当時の人々の考えが、この展開に見事に出ている。一方山野は詫びれることなく素直に花枝に謝り、夫婦仲は壊れることもない。

 

しかし、ダンサーに飽きた千代美は今度は芸者になると言い出し、赤ん坊を花枝らに任せて芸者の道を目指す。そして根っからの男好きで複数の旦那を持つようになる。

 

そんな時、演出の男から、千代美の子供のことを言われた山野はその男を殴ってしまう。そして、山野や花枝はここで暮らすことに飽きてきたから田舎に帰ることにする。

 

金沢で子供たちを遊ばして保母の仕事をしている花枝のところに千代美がやってくる。芸者もやめたのだが、汽車に乗ると思わずここにきたのだという。自分の娘を遠目に見て花枝の元を離れる千代美。時の流れ、人生の機微が、たまらなく胸を打つ。今時の薄っぺらなドラマと根本的に違う素晴らしい一本でした。

 

「ビューティフル・ボーイ」

薬物依存に溺れた若者の更生の物語で、またいつもの感じの作品かと思われたが、意外に重い仕上がりのしっかりした映画でした。主演のスティーブ・カレルが引っ張ったと追う感じでもありますし、ニックを演じたティモシー・シャラメの依存状態とシラフの時を見せる演技も見事だった。監督はフェリックス・バン・ヒュルーニンゲン。

 

主人公ニックが相談している場面から映画が始まり。息子のニックが薬物依存で、克服したかと思えば元に戻るのを繰り返している。しかも、最悪のドラッグに手を出し、どうしようもなくなっているのだという。そして物語は一年前に戻る。

 

子供の頃から仲の良いニックとデビッドの姿が交互に描かれ、一方で薬物依存を繰り返すニックの今の姿が挿入される。デビッドは以前の妻ヴィッキーと別れ、今はカレンという新しい妻と幼い二人の子供と暮らしている。ニックもカレンたちとも仲がいいのだが、いかんせんドラッグ依存から抜け出せず苦悶している。

 

デビッドは、そんなニックを必死で支え、何事にも優先してその克服に努力している。物語は、ニックの更生に必死になるデビッドと、なんとか克服しようとするが、いつも挫折するニックの姿が痛々しいほどな悲壮感で描かれていく。

 

そしてとうとう、ニックの助けの電話を無下に断るデビッド。そして、ニックは半ば自殺せんほどの薬物を摂取し病院に担ぎ込まれる。デビッドも駆けつけ、再び二人でベンチに座る姿でエンディング。テロップで、ニックは8年以上シラフのままだと書かれる。

 

薬物依存を病気という観点で捉えた作品ですが、過去と現在を巧みに編集した映像のテンポが実に良い。映画としての出来栄えも評価できる一本でした。