くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ミツバチのささやき」

ビクトル・エリセ監督作品で、この映画を好きな人がたくさんいる。以前から見たかった作品なのですが、今回ニュープリントで再上映となったので出かけました。

スペインの小さな田舎町、時は1940年。
一台の移動映画館のトラックがやってきます。今回の作品はなんと「フランケンシュタイン
そして、この映画の主人公姉のイザベルと妹のアナもこの作品を見に行きます。とはいっても、単純なホラーではないこの「フランケンシュタイン」という映画、妹のアナはフランケンシュタインの怪物がなぜ少女を殺したのか、どうして人々はその怪物を殺したのか理解できないのです。
姉イザベルが言った「フランケンシュタインは怪物ではなくて精霊なのよ」という言葉に、次第に、夢とも現実ともつかない世界へ入り込んでいきます。

淡々と、静かに展開する、ある田舎村の日常、主人公の少女たちの父は養蜂場を営み、母もこれといってたわいのない存在ですが、宛名のわからない手紙を出しています。
ベッドでの彼女の本のかすかな態度などから、もしかしたら、遠くにいる愛人か、それとも、心配な親族がいるかのような詮索も生まれてきますが、結局最期まで表立った話として何も出てこないので、それは詮索どまり。

物語に特に強弱があるわけではないので、二人の少女の行動を追ううちに、どこか陶酔感さえも覚えてくる作品で、ある意味、1時間37分とはいえしんどいといえばしんどいかもしれません。
それでもこのアナという少女のクリクリとした目がなんともかわいらしい上に、小屋で出会った、影のある男にりんごをあげるときのなんともあどけなさは絶品ですね。
そして、与える上着の中には懐中時計など、あの「フランケンシュタイン」に登場する名場面がちりばめられます

夜、道に迷ったアナが湖のほとりで、あのフランケンシュタインに出会ったかのような幻想的なシーンが登場し、それにつづくラストシーンに、不思議な感覚を覚える映画でした。

姉イザベルが見せる妹へのどこか残酷な仕打ち、そして、猫に引っかかれた指の血を唇に塗って鏡を見るなんともゾクッとするこわさ。死んだフリをして妹のアナをだますしたたかさ。その反面、少しずつ大人になる途中で次第に、女としての不安定さを見せてくる姉の繊細さ、などなど、細やかな描写と、平凡な村の日常の変化が、妹の見る幻想の世界とあいまって、見事な一本の映像に完成されています。

映画史に残る名作といえると思いますが、個人的には、こうした散文詩的な作品は苦手かなというのが感想でした