くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「酔拳 レジェンド・オブ・カンフー」「プッチーニの愛人」

レジェンドオブカンフー

酔拳 レジェンド・オブ・カンフー」
ジャッキー・チェンの「ドランクモンキー酔拳」のもとになった個性的な中国拳法”酔拳”を生み出したとされる武術家スー・サンの物語をユアン・ウーピン監督がカンフーアクションシーンとCGやデジタル映像を駆使して描いた娯楽エンターテインメントである。

この手のアクションは嫌いな方ではないので、ちょっと期待もあったが、やはりストーリーの組立が荒い。一貫性がないために物語がどこへどう向かっていくのかが支離滅裂になってしまう。ただ、派手なカンフーアクションがポツンポツンと登場し、最初こそおもしろいがクライマックスに至ってはすっかりマンネリしてしまっている。そこが、この手の中国、香港、カンフーアクション映画の進歩のないところである。

とはいえ、幻を見ながら武神やヒゲ仙人と戦うファンタジックな場面は必見。巨大な石像の上で神のごとき武神と縦横無尽に繰り広げるカンフーシーンはまさに現実とも非現実ともいえない狭間で繰り広げられる夢の世界である。一歩うまくいけば「グリーン・ディスティニー」の竹林のシーンのごとく陶酔感さえ生まれる名シーンであったかもしれない。

主人公のスー・サンが挫折してはよみがえりながら次第に酔拳の達人として成長していく姿が彼の悲劇の人生と重なって描かれるべきなのでしょうが、冒頭の軍隊から抜ける場面、妹の兄との確執の場面、クライマックスの外国人とのバトルシーンそれぞれが完全にバラバラになってしまって、まるで連続ドラマのダイジェストのようなリズムになってしまっている。

とはいっても、所詮軽いB級娯楽映画なのだからこれでいいのかもしれません。見なかったら気になる一本なので後悔はありませんが、もうちょっとおもしろい映画になっても良かった気がする。

プッチーニの愛人
全くの芸術映画でした。台詞が皆無に等しく、サイレント映画のごとき演出スタイル。時折流れる手紙の朗読が人物関係と今起こっている出来事を告げてくれ、背後に流れるピアノの音楽の抑揚が登場人物の心理描写になったりストーリーの強弱になったりします。

映画が始まる前にあらすじのようなテロップが流れ、事件のあらましを教えてもらうのでだいたいわかりますが、あれがないと最初からちんぷんかんぷんだったかもしれません。
実際、だいたいの出来事はわかりましたが人物の名前による関係は途中からわかりにくくなり、後はストーリーの流れの中で展開を楽しむというふうになってしまいました。

とはいえ、映像が実に美しいし技巧的ですばらしいのです。光と陰の模様をふんだんに画面の構成に利用し、スタンダードサイズという今時珍しい画面を利用して、人と風景、ドアの隙間、調度品、階段を上る人影、間だから差し込む日の光、等々うっとりするほどに作意的な画面づくりを徹底しています。

このパオロ・ベンヴェヌーティと妻のパオラ・バローニの共同監督の他の作品を知りませんが、ここまで映像や作品づくりにこだわる演出力は見事というほか無い。

物語は主人公の家政婦ドーリアがベッドで抱き合うプッチーニの娘フォスカと台本家との裸で抱き合う姿を目撃するところから始まります。目撃したためにフォスカにねたまれたドーリアはあらぬプッチーニとの不倫をでっち上げられ、プッチーニの妻エルヴィーラに嫌われて嫌がらせを受け、最後には自殺してしまう。

実際にあった事件を元に、プッチーニが愛人関係の非常に多い人物でるところに焦点を当て、本当にプッチーニドーリアに愛情関係があったのかをサスペンス調のストーリーに仕上げた芸術作品という趣の一品です。
まさに一級品の映画ですが、台詞を無しにしたために、体調が悪いときに見たらかなりしんどかったかもしれません。しかし、必見の一本だったと思います。映像といい、作風といいはまるほどの素晴らしい一本でした