くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ラルゴ・ウィンチ 裏切りと陰謀」「東京オアシス」

ラルゴ・ウィンチ

「ラルゴ・ウィンチ 裏切りと陰謀」
巧みすぎるほどに丁寧に組み立てられた物語構成とほんの些細なせりふの一つ一つに組み込まれた伏線の数々が見事なサスペンスアクションとして結実、ジェローム・サル監督の独特のスピード感あふれるカメラワークと緩急を織り交ぜた映像演出で時にヒッチコックの映画を思わせるかのようなテクニカルなシーンもありで、傑作アクション映画として楽しめる娯楽映画でした。

登場人物の関係が実に複雑に組み立てられているので、やや、混乱を生みそうにもなりますが、そんなよけいなことは映画を見ているうちに吹っ飛んでしまって、いつの間にか二転三転するストーリー展開にのめり込んでしまいます。

そして迎えるラストシーンの大どんでん返しのみごとさ。薄々感づき始めてはいたものの、ここまで引っ張るかと思わせるぎりぎりの線が本当に小気味よいです。しかも、ラルゴを追い詰める悪人の象徴として登場していたフランケン検事(シャロン・ストーン)がそのラストで一気にラルゴの味方に入れ替わってしまう下りの爽快なこと。一級品の脚本とはこういうのをいうのでしょうか。

映画が始まるとウィンチグループのマーク、時は3年前、ウィンチグループの総帥が自分の息子がビルまで発見されたということを部下から聞いている。
三年前、三年後とビルマと香港、タイ、スイスと繰り返しながら主要人物を紹介、そして、次第に物語が複雑に入り込み始める。
ウィンチグループの総帥が暗殺され、いきなり巨大企業の総帥となったラルゴ・ウィンチ。しかし、彼は会社を売却し、慈善団体へすべての資金を寄付すると発表。この慈善団体の元代表がアレクサンドルで、ラルゴの父の旧友でもある。ところが、その直後、ラルゴは3年前のビルまでの大虐殺の嫌疑でフランケン検事から目をつけられてしまう。

一方、会社の売却先にはさまざまな声がかかり、ここにラザレビッチという人間的に評判の良くない企業家が名乗りを上げる。しかし、すでに売却の委任状を書いたラルゴにはどうしようもないのだが、実はこの展開にはビルまでの大虐殺の真相が隠されているのである。

主人公ラルゴの運命を追いかけていく内に、枝葉のように浮かび上がってくる様々な人物の謎。それぞれの真相が暴かれるかと思えば隠され、その繰り返しの中で、わずかづつ真相へと迫っていく。

ビルマで知り合った男シモン(オリビエ・バルテルミー)にその雇い主を訪ねたラルゴ、しかしトマという名前しかわからず、下の名字が不明というさりげないシーンが、ラスト、シモンがアレクサンドルの屋敷でたまたまみた写真立てにアレクサンドルとトマが写っている。トマの顔を知っているのがこの男だけで、ここでアレクサンドルとトマが親子であると知る。そして、ラルゴにことの真相を伝えるべく飛び出す。

一方、アレクサンドルを信用しているラルゴは今回の事件で、ウィンチグループにスパイがいるとアレクサンドルに語る。このスパイこそトマだったことが最後の最後に明らかにある。
特に、クライマックス、アレクサンドル(ローラン・テルジェフ)がフランケン検事を刺し殺す円形階段のシーンは影を巧みに利用したまさにヒッチコックサスペンス。

また前後しますが、ホテルでラルゴと恋人マルナイ、その娘と過ごしているとき、マルナイにGPSが埋められているのがわかり、その直後、踏み込んできた男たちとの乱闘シーン、非常に細かいカットを手持ちカメラを駆使して描く迫力あるシーンは絶品。特にテレビを見ている子供のショットを織り交ぜながら、徐々にエスカレートしていく乱闘シーンのスピード感はうならせるものがあります。

ここまで書き込まれるとさすがにこうして一つ一つ文章で書ききれない。顔はわかるが名前が浮かんでこない状況にさえなる(実際、この文章の中の人物名が正しいかどうかちょっと疑問)が、それでもこの物語のおもしろさは十分に感じられるのである。本当に見事でした。としかいいようがない一品でした。
ちなみに監督のジェローム・サルという人は「ツーリスト」のオリジナル版「アントニージマー」(未)の監督です。

東京オアシス
松本佳奈、中村佳代共同監督、小林聡美加瀬亮原田知世黒木華主演の癒しムービーである。
おきまりのキャストがさらに周りにちりばめられていて、それだけで映画の内容がわかってしまうという感じの作品。

コンビニで加瀬亮が買い物するシーン延々とカメラが追う。外へでて、小林聡美がトラックに飛び込みそうになるのを体当たりで止めるが、実は小林は乗せてくれるトラックを探していただけ。

こうして物語は始まりますが、終始二人の俳優が入れ替わり立ち替わりツーショットの長回しのせりふを語るシーンが展開する。淡々と次から次とこういうシーンが繰り返されるのは、ある意味、かなり退屈。この監督の作風を知らなければついていけないところである。

冒頭の加瀬亮小林聡美のエピソードは、次に小林聡美が映画館で出会うかつての知り合い原田知世とのツーショットのシーンに引き塚がれ、加瀬亮は最後まで出てこない。

さらに動物園で小林聡美黒木華のツーショットのシーンに引き継がれる。そして、黒木と別れた小林は一人東京の町を歩いていって映画が終わる。

とまぁ、何とも単調な作品で、好みとか、こだわりとかなければみる必要もない映画かもしれません。素直な感想を書けば、いったい、なにを言いたいの?と問いつめたくもあり、なんか感じるものがあって、これはこれで魅力のある映画だった、ともいえる。まぁ、そんな映画でした。

ただ、この監督のこの手の作品の中では一番できばえの悪い一本だったことは確かですね。