くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ジャッキー・コーガン」「藁の楯 わらのたて」

ジャッキー・コーガン

「ジャッキ・コーガン」
映像と音の使い方がおもしろい、ちょっとしゃれたモダンな作品で楽しめました。監督はアンドリュー・ドミニクです。

映画が始まると、タイトルと映像が交互に、しかも音がぷつりと切れては出るという演出。一人の男フランキーが手前から向こうに歩いているスローモーション。向こうにゴミが舞い上がっている。背後にオバマ大統領の演説がかぶる。

カットが変わって、シンメトリーな構図でフランキーが、知人のラッセルと待ち合わせる。このラッセル、薬中なのか、犬をつれていかにもいけ好かない男である。ふたりはジョニーと言う男に会う。ジョニーはある賭場を強盗にはいるのに手伝えとフランキーに依頼していたのだ。かつて、その賭場にマーキーという男がフェイクで強盗をさせ、金を奪ったことがあるから、今度も、マーキーが疑われるから大丈夫だという話である。

いったんはラッセルが気に入らないと追い返したジョニーだが、結局フランキーはラッセルを相棒にして実行することになる。進入する場面での個性的なカメラの長回しなど独特の映像でどんどん畳みかけてくる。

まんまと成功するが、強盗犯を殺すために”ドライバー”という組織の連絡人がディロンという殺し屋を依頼。ところが彼は入院しているとかでジャッキー・コーガンと呼ばれるクールな殺し屋がやってくる。

ラッセルとフランキーが薬をする場面で、ラッセルが意識がなくなる様子をカメラのフェードアウトを繰り返して演出してみたり、ジャッキーが呼んだニューヨークミッキーという殺し屋が、やたら酒を飲んで、訳の分からない話を延々として、いっこうに殺しをやらなかったりと、ちょっと不思議な感覚の映像が続く。しかも、随所にオバマ大統領などの演説や、アメリカが財政危機だというようなニュースの声が入る。

ジャッキーは、まずマーキーを殺し、さらにフランキーに近づいてジョニーを殺害、ラッセルは警察に逮捕される。

宣伝では、クールな殺し屋ジャッキー・コーガンのハードボイルドなサスペンスだという感じだったが、なんの、スタイリッシュともいえるフィルムノワール的な作品なのである。

しかも、背後に流れる音楽も「華麗なる賭け」のテーマを始め、どこかで聞いた名曲が彩りを与える。

すべての仕事を終えたジャッキーが”ドライバー”にバーで金を受け取る。3万に値切られたのを知ったジャッキーは、今朝ディロンは死んだといって、金を要求して暗転、エンディング。

エンドタイトルに、大統領の演説がかぶり、さらにヘリコプターの音や群衆のざわめきが聞こえる。不思議な映像と音の感性で描かれたちょっと楽しめる秀作でした。おもしろかった。掘り出し物でした。


藁の楯 わらのたて」
これは、めちゃくちゃにおもしろかった。冷静に書けば一級品の娯楽映画でした。全く、三池崇史監督はこの手の作品の、職人肌的な才能を発揮するようになってきたなと思う。

映画はいきなり核心へと踏み込んでいって始まる。大富豪蜷川隆興が傘をさして家の庭にたたずんでいる。カットが変わって、7歳の少女が暴行され殺されたというニュース。その少女が蜷川隆興の孫であるというニュースと、犯人である清丸國秀が逮捕されたニュース。新聞に彼を殺したら10億円払うという新聞広告、そして、福岡から東京へ清丸を護送する為に、SP二人と警部三人を配置するという命令が下る。畳みかけていくようにどんどんと物語の本編へ入っていく導入部がすばらしい。

そして、飛行輸送の中止、護送車の失敗、特急列車による護送と、どんどん画面がスピードアップして動き始める。身近な人間が次々と清丸をねらってくるという不気味さ。どこから漏れているのかわからない位置情報のサスペンスと、息つく暇がないとはこのことである。

林民夫の脚本もうまいが、三池監督の有無を言わせない演出が、少々の粗を吹き飛ばしていくのである。

難を言うと、列車から降りて、護衛が三人だけになってからのテンポがやや緩くなってしまった気がしなくもない。前半三分の二が、スピード感あふれる乗り物や、派手な爆破シーンなどで一気に引き込んでいったために、後半で人間ドラマにその描写が移り始めるとやや、物足りなく見えたのかもしれない。それと、清丸を演じた藤原竜也が、今一つ狂気的な犯人としての迫力がたりない。ここが「脳男」の生田斗真との存在感の違いでしょうか。

そして、位置情報を知らせていたのが岸谷五朗扮する奥村であることがわかるが、その前にわざとらしくメール操作する白岩のショットはちょっとあざといし、切れ者のエリートという紹介でこの白岩が配置されている割には、二度も油断して、とうとう二度目には清丸に殺されてしまうのだから、これはちょっといただけない。

それに、銘苅の上司や監察官二人の意味ありげな会話の謎が明らかになっていないのも、ちょっと歯切れが悪い。
蜷川氏の10億円払う二つ目の条件の意味が明らかになる後半のシーンもちょっと物足りない。

一人になった銘苅りが清丸の口に銃口を入れて絶叫して暗転。一瞬これで終わりかと思ったが、その後、警視庁前に護送してきて、そこへやってきた蜷川が車降りてきて、蜷川に刀を向けてきた清丸に体当たりして自ら銘苅が刺されて、これを機会に蜷川は10億円を払うという依頼を取り下げ、銘苅は助かって、白岩の子供と仲良く去っていててエンディング。と、このあたりが前半部分に比べてちょっと薄っぺらい展開で、このラストまでしっかりと描きこめばかなり奥の深い作品になったと思う。

確かに、粗探しをすると、かなり散らばっている気がしなくもないのですが、前半の抜群のおもしろさに、そんな粗も目をつぶってしまいたくなるほどの出来映えでした。素直に、「おもしろかった」といえる一本でした。