くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「明日は月給日」「東京マダムと大阪夫人」「還って来た男」

明日は月給日

「明日は月給日」
シーンとシーン、せりふとせりふがオーバーラップして軽快なテンポで物語が進むという、まさに川島雄三の語りの世界を満喫させる一本、とっても楽しかった。

お金が機械で読まれている。カメラが引くと一人の銀行員古垣が札を数えている。そこへ給料袋が届けられ、それを開いて読み始めるが、途中で読み終わって空回り、でも晴れやかな顔で袋にしまって、タイトル。

一人の女性が美容体操をしている。ここはさっきの銀行員の男古垣の家庭で、彼女は編集部につとめる妻夏代である。絵の額の下にあるへそくりを見つけて大騒ぎになり、隣の母屋にいる父たちと一騒動。

あれよあれよとストーリーが前に進んでいくおもしろさに息もつかせない。鉄太郎の息子の英二はる子という恋人がいる。はる子の父は落語家で、その弟子ははる子に気がある。そのエピソードがちらほらと絡んでくる人情物語も絶品。

鉄太郎は会社の経理課の課長で、明日の月給の準備をしている。ところが会社の取引の都合で月給を遅らせるようにという専務の指示。このエピソードが、この作品の中盤から後半の展開を引っ張っていくのだが、それまでに描かれた恋人たちのエピソードのからみが実に楽しくお話を作っていくのです

鉄太郎の長男の未亡人由美の話がやや曖昧に消えていくのがちょっともったいないし、大阪のおじさんと龍子のエピソードもかるくいなしてしまってのはちょっともったいないが、それでも、それぞれの構成のおもしろさとからみは最高である。

取引のことで鉄太郎の独断で手形払いをしたために専務の怒りを買い、あわや首にというところで、子供たちの奔走によって、取引先に信用不安があることがわかり、鉄太郎の信用回復、家族そろって写真を撮る。子供たちが学校や会社に出かけ、鉄太郎ら老夫婦がのこって、しんみりと縁側に座るシーンでエンディング。ラストはまさに松竹色である。とっても楽しい映画でした。


東京マダムと大阪夫人
画面いっぱいにあひるが群れている。映画はいきなりこのシーンから始まり、タイトルがかぶってくる。

舞台はアヒルが丘、とある会社の社宅である。一戸建ての高級社宅が並ぶ中に、まるでアヒルのように噂話に花を咲かせて群れていく奥様連中の姿。この日、伊藤美枝子のとなりに大阪から西川房江が引っ越してくるのだが、洗濯機を購入して、それを運んできた電気屋と奥様連中のやりとりから物語がスタート、軽快そのもののテンポであれよあれよと物語が進んでいく様はこれまた絶品。

ここに房江の弟、八郎がやってきて、この八郎と専務の娘百々子が彼にほれてしまい、さらに美枝子の妹康子が、厳格な父のお見合いに反攻る。して家を飛び出してきて、美枝子のところへ現れ、彼女もまた八郎にほれてしまい三角関係になる。そこへ、社員のアメリカ出張を巡る争いが絡んで展開するに至ると、実に爽快そのもののコメディが展開する。

奥様たちの会話にアヒルがかぶったり、会話から会話に飛ぶ一方であっちへこっちへとシーンがジャンプしていくハイテンポな展開に時を忘れて楽しんでしまう。この天才的な編集のリズムが絶妙である。

八郎と康子の恋物語が八郎のアメリカ行きで一段落、恋敵の百々子の活躍もあって恋する二人にはハッピーエンドとなる。

結局アメリカ赴任の話はなくなり、奥様がアヒルが丘のリーダーであるところの人事課長も転勤で静かになるかと思われたアヒルが丘に新たなおしゃべりリーダーがやってきてアヒルの群れとかぶってエンディング。

とにかく、楽しい。洗濯機の配達のファーストシーンから、奥様連中のライバル心に翻弄される男たちの姿、さらに会社の栄転を巡っての二転三転の物語に恋の話が絡む。これが川島雄三の世界観である。


「還ってきた男」
昭和19年の川島雄三作品ですが、よくもまぁ、この時代にこんなお気楽な映画が作れたものだと感心する一本でした。

長く続く石段をしたから見上げるショットで映画が始まる。石段の上では子供たちが肩馬をしている。そこへかけあがる新聞配達の少年。少年が途中で転んだところへ女先生二人が駆け寄る。

少年は新聞配達をやめて、父の薦めで名古屋の軍需工場へ行くことになる。

一方汽車の中で、軍医だった男が一人の女性と向かい合っている。お互い他人だが、この二人が、行く先々で偶然にも出会うシーンが繰り返される。

この男が、自分の理想を話し出すと時を忘れる変なくせがある。父の実家にやってくると見合いの話があり、この男は生涯に一度しか見合いしないと決めているという展開。

この二つの話を中心に、人物を巧妙に入れ替え、物理的な空間をジャンプしながら、実にテンポよくストーリーが展開。時代を反映してか、塀の落書きに「べいえいたおせ!」とか、国民学校での軍事練習のシーンなども交えるものの、川島雄三が作ると、それもまた反戦に見えてしまうから不思議ですね。

名古屋で働く少年はことあるごとに父と姉が懐かしく、工場を飛び出し還ってくるので、とうとう、家族で名古屋の工場で働くことにする。

雨男の人物は、恋する女性をあきらめて去っていく。

軍医の男は偶然にも国民学校のマラソンで見合いの相手と出会い、さらに、脚反を返しに行って、お互いの名前を知る。生涯に一度と決めている軍医はそれを見合いとして、相手の返事を聞く。その場面が冒頭の石段の坂の途中。

カメラが下から俯瞰でとらえてエンディング。

軽快なテンポと、しっかりとしたカメラアングルが特徴的で、しかも大胆に斜めに動かしてみたりするワーキングにも驚く一本。60分あまりの中編ですが、ハイテンポで小気味よくつながれたフィルムのリズムが本当に楽しい一本でした。