くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「春を背負って」「私の男」「美しい絵の崩壊」

春を背負って

「春を背負って」
木村大作監督作品。確かに、これほどまでに贅沢にカメラを使って、美しい場面をしっかりと待って、スクリーンに映し出す人はこの人をおいていないだろうと思う。

逆に行えば、こんなすごいカメラマンを使える監督がいないのが本当に残念なのである。

物語は、まず20年前、父親に引かれて一人の少年が雪山を登っていく幼いころの主人公享である。

そして現代、ディーラーとして働く彼の後ろ姿、そして、父の死を知らせる電話、実家に帰り、山小屋を継ぐことを決め、そして美しい自然のシーンが繰り返される中で展開する、山小屋での人間ドラマ。

初めて荷物をあげるときに、かつての父の後輩のゴロさんに出会う。

雪山小屋の厳しい自然の姿、出入りする登山家たちとの交流というシンプルな一冬の物語である。

クライマックス、ゴロさんが脳梗塞に倒れ、彼を担いで、雪山を下りる享たちのシーンがクライマックスになり、無事生還したゴロさんたちと再び次の年の春がやってきて、エンディング。

シンプルな物語なので、美しい山々の景色をじっくりと、据えたカメラがとらえていく。朝日、夕日、山々の四季、とにかく美しい。しかし、良質の作品ではあるが、どこか物足りないのは、木村監督の前作でも感じた。

可もなく不可もない、推薦映画に終わってしまって、毒がないのである。質は高いし、一流のスタッフとキャスト、もちろん、それなりのレベルに完成するのだが、せっかくの名カメラマンの才能をもっと、度肝を抜くほどの映像で見せてほしいと思う。


「私の男」
桜庭一樹原作、熊切和嘉監督作品。本当に熊切監督らしい映像がちらほらと見える一本だが、とにかく、圧倒的な存在感でストーリーを引っ張るのが二階堂ふみである。ますます彼女のファンになってしまいました。

流氷の間からはいあがってくる一人の女性、花、カットが変わると、打ち上げられたがらくたの中を一人の少女、子供時代の花が歩いている。津波で家族をすべて失った花が、ペットボトルの水を抱いて、避難施設の中を歩き回っていると、一人の男淳吾が声をかける。家族を持たない彼は彼女を養女にし、やがて物語は花が高校生になったシーンへ。

何かと世話をする近所の老人大塩。しかし、淳吾と花の関係に、何かを感じる。

実は花は淳吾を男性として愛しているのだ。淳吾の恋人で大塩の娘小町との間にも巧みに入り込んで、結局別れさせてしまう。そして、ある朝、淳吾と花は愛し合う。二人が抱き合うシーンに血が降り注ぐというシュールな映像が展開。

そしてそれをたまたま訪ねてきた大塩が目撃、花は大塩に追いつめられ、流氷の上に逃げる。それを追いかけた大潮は、花に突き放され、流氷とともに流されていく。

この流氷のシーンは圧倒的にすごい。もちろん、流されるシーン以外セットらしい構図は見られないし、もちろん、安全を確保しての撮影だろうが、二人の流氷の上の駆け引きの迫力は尋常ではない。零下20度以上の環境で繰り広げられた撮影故の緊迫感だろう。

さらに、この事件を怪しく思った駐在が、流氷の上に残した花のめがねを持って訪ねてきて、思わず淳吾か彼を殺してしまうのだ。

そして時間はジャンプし、花はOLとして派遣社員になっているという物語に飛ぶ。やがて、彼女にもフィアンセができ、家族を望む、いや父親になることを望む淳吾は、二人を見守るが、花と二人きりのテーブルの下で、花の足が淳吾の足に絡んでエンディング。

桜庭一樹らしい展開が終盤に残され、熊切監督の自主映画のような演出も色を添えているが、じゃあ、あの殺人はどうなったのかということにはふれていないのが、妙に非現実的に見えるのが残念。そこまでこだわらなくてもいいといえばそうなのだが、やはり、何らかのカットは必要だったかと思う。

それぞれの人物の背景があまり描き切れていないために、大塩と淳吾の関係も微妙に不明で、ただ、二階堂ふみの圧倒される演技に、ただただ、最後まで魅せられてしまう、そんな映画だった。


「美しい絵の崩壊」
ちょっと、一貫性の弱い作品だったが、導入部のジャンプカットのおもしろさ、二人の女優の圧倒的な魅力に、さすがに大人の映画だと楽しむことができた。

二人の少女ロズとリルが浜辺にかけ降りるシーンから映画が始まり、次のカットで二人は大人になり、ロズの夫テオが事故で死んだ葬儀のシーンへ。そこにはそれぞれの二人の息子トムとイアンがいる。二人は大人になっても近くに住み、似たような年齢の息子がいるのである。

息子二人が海に行き、遊んでいるカットから一気に二人は青年へ。常に二人の息子と母親同士が一緒に浜辺で遊んでいるが、ある夜、イアンはトムの母親ロズと関係を持ち、それをトムが目撃する。そして時を経ずしてトムはリルと関係を持つのだ。ロズもリルもさすがにそれなりの年齢なのに魅力的で、彼女たちに惚れてしまう息子たちの気持ちに納得してしまうリアリティがすごい。

そしてそのまま2年がすぎる。トムとイアンそれぞれにもやがて彼女ができ、結婚し、子供までできるという一気にどんどん時間が流れる。それでも、ロズとリルが一緒になって浜辺で遊ぶシーンが展開する。そして、実はトムとリルの関係は続いていたことを見たイアンはロズに詰め寄り、それがそれぞれの今の妻にし知れることになり、夫婦関係は破綻、ロズとイアン、トムとリルの四人が、海の上の休憩棚で寝ころんでいてエンディング。四人は元に戻ったということである。

やや、日本人的な感覚では信じられない話だが、果たして40、50歳になった日本の中年の女性に若者がここまで惹かれるほどの魅力があるかというと、これはさすがに東洋人と西洋人の違いか、こうはいかにとおもう。しかし、この作品にそんな違和感が全くないのがとにかく最大の見所。
演じたナオミ・ワッツロビン・ライトの魅力に脱帽せざるを得ませんね。

映画自体はふつうでしたが、こういう話が作れる俳優陣の層の厚さに感動しました。