くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「アラバマ物語」「郵便配達は二度ベルを鳴らす」「静かなる

kurawan2017-01-31

アラバマ物語
まぎれもない名作に久しぶりに出会いました。こんな脚本がかけたら、こんな演技ができたら、こんな演出で物語を組み立てられたらという理想のような一本。もう終盤は涙が止まらなかった。弁護士の話なので裁判ドラマなのかと思いきや、全然違う、人間ドラマなのです。素晴らしいです。監督はロバート・マリガンです。

舞台はアラバマ州メイコムという小さな街。妻を亡くした弁護士のアティカスは息子と娘の二人の子供と暮らしている。二人の子供とジェフとスカウトは近所にいる謎の男ブーに興味津々。こういうことは自分たちの子供時代にもあったなとまず引き込まれて行く。しかも、キーになるのがスカウトという男勝りの妹。彼女がエピソードの中で前半を牽引して行く。このキャラクター設定と演出がまず素晴らしい。
淡々とメイコムという街の姿が描かれるのだが、ある日、農夫のボブが、自分の娘が黒人のトムに強姦されたと訴えてくる。まだまだ黒人差別が当たり前だった時代、当然弁護を請け負ったアティカスは村人たちに敬遠されてしまう。

物語の根幹はアティカスが請け負った裁判事件だが、描かれるのはジェフが次第に父アティカスの背中を認めて行く下り、スカウトが優しさを表に出して行くという心の変化が丁寧に描かれるのが素晴らしいのです。

終盤、トムの裁判がなされ、誰もがその無実を確信しているのですが、陪審員は有罪を宣告。

やるせないままに自宅に帰ったアティカスの元に保安官がやってきて、トムが逃亡し、保安官助手に撃たれて死んだという知らせ。その知らせになんとも言えない悔しさを背中で見せるアティカス演じるグレゴリー・ペックが抜群に素晴らしく、思わず涙が溢れてきます。

トムの妻ヘレンの家に報告に行くアティカスのところにボブがやってきて唾を吐きかける。

そして季節が流れハロウインの夜。ジェフとスカウトが仮装パーティの後夜道を帰ってくると一人の男に襲われる。ところがすんでのところで誰かに助けられ、ジェフは重傷を負ったがその助けてくれた男に自宅まで連れ帰ってもらう。助けた男こそ内気なブーだった。スカウトも自宅に帰る。

アティカスの知らせでやってきた保安官が、夜道にボブがナイフで刺され死んでいたと告げる。かつてトムを無実の罪に追いやった男が実は犯人だった。真実を公表すべきと静かに訴えるアティカスに保安官はボブは自分でナイフが突き刺さり死んだことにしようと告げる。真実を明らかにすることは正しいが、それはブーを白昼の元に出し、それこそが彼には酷だと話すのだ。

そして映画はゆっくりとエンディングを迎える。

圧倒的な名演技で見せるとグレゴリー・ペックモノクロームながら影を有効に映し出すカメラの美しさ、原作があるとは言え見事に人物を浮き上がらせる脚本のうまさ、そして全体をまとめ上げた演出力に圧倒される名作でしたあ。まだまだ見逃している名作が山のようにあるのだと改めて感じ入った次第です。


郵便配達は二度ベルを鳴らす」(ヴィスコンティ版 デジタル修復バージョン)
以前見たものはボロボロのフィルムだった記憶があり、そのストレスで、ほとんど覚えてなかったのですが、今回綺麗に修復されたものを見て、なるほどすごい映画だと圧倒された。これがルキノ・ヴィスコンティネオリアリズムの世界観だと圧倒される映像作り、素晴らしかった。

物語はあまりにも知られてしまった話で、とあるドライブインで生活する夫婦のところに一人の流れ者ジーノがやってくる。中年の夫に愛想尽かししていた若い妻と恋仲になり、夫を自動車事故に見せかけて殺す。しかし、そこからジーノは罪悪感にとらわれ、女にも疑心暗鬼になり、さらに夫に保険金がかかっていたことから、さらに女から離れようとする。

一方、事故に不信を持つ警察はジーノたちを尾行していた。極まったジーノたちは逃亡を計画、店を後に車で走り出すが、途中事故を起こし妻は死亡、ジーノは警察の手に捕まり映画はエンディングになる。

奥深い構図でしっかりと人物配置した映像作りの確かさと、室内シーンの殺伐感が対照的に描かれるのが前半から、後半レストランも盛り返してきて盛況になる一方、ジーノたちの心が逆に殺伐としてくる展開のうまさに食い入ってしまいます。

作品の仕上がりの充実感がやはり半端ではない。デビュー作にしてこのクオリティに感服しました。


静かなる叫び
カナダで1989年に起きた銃乱射事件を題材に描き出す二人の学生の人間ドラマ。命の危機に瀕した出来事に遭遇した人間の極限からの脱出とその後を描く心理ドラマ的な映画で、モノクロームが美しい反面、研ぎ澄まされて行く人間の心の危うさが実に見事に映像になっている。監督ドニー・ヴィルヌーヴです。

コピーを取っている学生たちのシーンから映画が幕を開ける。突然銃声、そして次々と倒れる学生、タイトル。

一人の学生が銃を手に自分の眉間を狙う仕草、車に乗り銃を隠し大学内に入って行く。一方の大学内では普通に授業が行われ、雑談する学生たちの様子が描かれる。そして銃を持った学生が一つの教室に入り男女を分けて女子学生を銃殺して行く。

女子学生ヴァレリーはその集団の中にいたが、たまたま助かるも、死体の中に死んだふりをして逃れようとする。その友達のジャンは、銃声の後瀕死の女子学生を助けたりした後戻ってみると死んだふりをしているヴァレリーを見て死んだと判断し教室を後にする。

時が経ち、ヴァレリーが助かったことを知らないジャンは助けられなかったことを悔やみ、実家に戻り車の中で自殺する。そんなジャンのことを知りながら、妊娠しているヴァレリーは就職し自立する道を選んで行く。

モノクロームのシャープな映像で描く物語は、繊細な心の表現に見事に合致しているし、特に中心人物を存在させない描き方は、リアルな恐怖を描き出す。ガラスのように崩れる心の描写を映像にする点で成功しているように思いますが、二人の主要人物への視点が、乱射シーンを繰り返すことでちょっとぼやけた気がするのは残念。でもものすごいクオリティの作品でした。