くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「フレンチアルプスで起きたこと」「人生スイッチ」

kurawan2015-07-28

「フレンチアルプスで起きたこと」
不思議な空気が漂う映画です。セオリー通りに展開するかと思うと、はぐらかすように、さらに淡々と流れる。そしてまた、先に展開するかと思うとはぐらかされる。この不可思議な感覚が、映画になる。

現実的で現実的ではない不条理な世界。ちょっとした映画でした。監督はスウェーデンのリューベン・オスルンドという人です。

映画が始まる。雪山で仲むつまじいトマスと妻のエバ、娘のヴェラ、弟のハリーたちが、寄り添って記念写真を撮ってもらっている。カットが変わると、第一日目というタイトル。

毎年くる雪山のホテル、トマスたちはスキーを楽しんでいる。何気ないシーンだが、背後の音楽の突然の挿入と、時折響く人工的に雪崩を起こす轟音、何気なくとらえる雪山の遠景が、非現実なムードを醸し出していく。

二日目、ホテルのテラスで食事をとっていたトマスたちに、突然、雪崩が襲いかかる。最初は人工的なものと笑っていたが、みるみる迫ってくることに異常さを感じ、客たちは雪煙の中逃げ回るが、なんと、トマスは子供たちをほうって、逃げてしまうのだ。

雪崩は寸前で止まり、客たちは笑って食事を再開するが、すごすご戻ってきたトマスと家族たちの間に微妙な空気が漂い始める。ここからがこの映画の本編である。

一見、トマスが一人で逃げたことを非難するエバとの喧嘩のように思えるが、後半に飛び出してくる、ハリーのいう、ママと別れないでというせりふや、浮気をしていた、等々のさりげない会話の中に、実は、この家族の物語は、雪崩以前に何かがあって、ここにきたのではという裏読みが見え始めるのだ。

夜、リモコンで遊ぶトマスやハリーの声、知り合った別のカップルとの会話、リゾートホテルの広い空間の映像、人工雪崩のための轟音、夜のゲレンデを整備する雪上車のシーンなど、なにかが潜んでいる一種不気味な空間が演出される。この映像は、監督の感性だろう。

そして、それとなく、エバとトマスの溝が広がり、それぞれが、一人で滑ったりしてバラバラになる。

知り合った人と会話をし、いやされたのか、さらに悪くなったのかわからず、最終日、かなり上のゲレンデにトマスたちは上っていく。そこは、数メートル先も見えない吹雪だったが、トマスを先頭に滑り始める。途中エバとはぐれ、トマスが抱き抱えて、子供たちと合流して、再び家族がまとまった雰囲気になる。

でも、映画はここで終わらせない。トマスたち、知り合ったカップルらとバスで下山を始めるが、バスの運転手が頼りなく、曲がりくねった坂道をいかにも危なっかしく降りるので、起こったエバがリードして、乗客はみんな降りて歩くことになる。そしてエンディング。さてさて、ここからまた別の物語が予感される。

なるほど、映画だ。この空気は独創的であり個性的である。いや、どこかで出会った空気の映画かもしれないが、ちょっとした一品。おもしろかった。


「人生スイッチ」
六つの話のオムニバス映画でした。それぞれが最後に一つになるのかと、最初はどこかに伏線や共通部分を探していたのですが、関係ないとわかると、それで最後まで突っ走った。なるほどペドロ・アルモドバル
制作しただけあって、アメリカ映画とはちょっとちがったユーモアに満ちている。監督はダミアン・ジフロン。

映画が始まると、空港で一人の女性が搭乗手続きをしている。そして飛行機に乗り込むと、隣の親切な男が、自分は評論家だという。女がかつての男の名前を告げると、なんとその評論家が酷評した人物で、客室内の人々がみんなその男の関係者で、実はこの飛行機はその男が復讐のためにのっとり、墜落していってオープニング。この最初のエピソードが映像づくりといい、展開といい秀逸で、この後、だんだんと普通のブラックコメディになっていって失速している風で、しかも、やや下品なシーンもちりばめられ、もう一つ拍手するほどにおもしろいといいがたかった。

続く第二話はレストランにやってきた一人の男はウェイトレスの女の親の敵で、この男を殺すかどうかのブラックコメディ。

さらに第三話は、宣伝フィルムにも使われている、一台の車を追い越した男が遭遇する、コメディ。

第四話は、レッカー移動させられ続けた男が、管理局に復讐する痛快なお話だが、これはちょっとお国柄が表にでている。

さらに、事故を起こした息子をかばうために取引をする大金持ちの父親の奔走する姿を描く第五話。

最後は、結婚パーティでの修羅場をコミカルなブラックさで描き、ラストはハッピーエンドで締めくくる。

どれもこれも、楽しいのだが、最初のあたりが秀逸すぎて、肝心の後半部分が今一つ普通になっていて、乗り切らなかったのは国柄の違い故か、作品の出来映え故か、わからないが、期待ほど見事な映画までいかなかった。

と、書いているが、おもしろい映画にはかわりはない。楽しかったです。