くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ヴィオレットーある作家の肖像ー」「知らない、ふたり」

kurawan2016-01-11

ヴィオレットーある作家の肖像―」
どんどんと音を立てながら歩き、ヒステリックに、そして異常な嫉妬心をむき出しにして喚き散らす主人公ヴィオレットの姿は、ただの神経過敏な異常女にしか見えない。そんな前半部分は、ひたすらしんどい。監督はマルタン・プロヴォ、「セラフィーヌの庭」の監督だ。前作もしんどかったが、今回も正直しんどい。ただ、異常なくらいの過敏な行動こそが、類い稀な感性で女性の性を赤裸々に描いていく才能の表れであると理解すれば、最後まで見ることができる。

終始母を憎み、私生児である自分を憎み、ボーヴォワールに認められたものの、どこか歪んだ愛情を求めてしまう。彼女が描いたことが、当時の世相には受け入れられないほどに先進的で斬新だったため、一般世間で不評を買ってしまう。そのため、彼女を認めるボーヴォワールやジュネ、サルトルに対してさえも敵対心をむき出しにし、歪んだ捉え方をしてしまう彼女の姿は、確かに痛々しい。

精神を病み、精神病院で苦しみ、それでも、自らの思いを曲げない。そして、「私生児」の大ヒットで、ようやく彼女に笑みが起こり、貧困から脱出、もう援助はいらないとボーヴォワールに告げてやっと独り立ちするラストはなかなかである。

終盤近くまで、やや色調も抑え、くすんだ景色の中でしか暮らさないヴィオレット。しかし、終盤に近づくにつれ、明るい日差しと、透き通るような青空が彼女を包んでいく。草原の丘の上で、一人座る彼女のカットでエンディング。導入部とラストの好対象な画面が、この映画の訴えるべき部分なのだろう。確かに、凡作ではないが、好みかどうかといえば好まない映画かもしれません。


「知らない、ふたり」
とってもいいラブストーリーでした。ホン・サンスの映画を思わせる淡々と静かに展開する物語ですが、いつの間にか、運命が運命をつなぎ合わせていって、一つの方向へ流れて、最後は雲が晴れるように青空が広がる爽快感に包まれる。いいですね、こういう恋の物語。監督は今泉力哉です。

韓国の青年レオンは靴の修理やオーダーシューズを扱う店で働いている。彼は2年前、信号無視をした際に、彼につられて飛び出した男を事故に合わせた過去があり、そのことに悩み、昼も一人で近くのベンチで、おにぎりを食べている。そんな彼を密かに恋する受付の小風。物語はここから始まる。

ある日、いつものベンチに行くと、酔いつぶれて朝を迎えた女性ソナに出会う。一言言葉を交わしただけのレオンだが、彼女に一目惚れ。ソナもフラフラと立ち去り、ヒールを折ったまま消えるも、レオンのことが心に残り、記憶をたどってもう一度会うべく公演を探す。

ソナの彼氏ジクは日本語学校に通い、そこの先生加奈子が好きであるが、告白してふられる。ソナの友人サンスはソナのヒールを靴修理の店に持って行き、受付の小風に一目惚れし、ラブレターを渡す。

レオンはソナのことが気になり、家まで毎日つけていく。そんなレオンを小風もつけていく。

サンスはソナに食事に誘われそこでフられる。しかし、小風はレオンが、小風がサンスからラブレターをもらった日の翌日からソナのアパートに行かなくなっていた。一方サンスは、小風にラブレターを渡した日に、ソナと飲み、ソナを送って行って、アパートの前でキスしてしまう。

レオンがソナのところに行かなくなったのはそんな風景を見たからだと、小風に連れられて、ソナのアパートに行ったとき告白する。

次々と、一目惚れした男女が絡んでいく展開がとってもみずみずしいし、こんがらないように描いていくストーテリングは見事。

加奈子の恋人荒川は、レオンが気にしている事故の被害者で、車椅子に乗っている。荒川は加奈子に誕生日プレゼントにオーダーシューズをプレゼントするといい、加奈子はレオンの店に行き、レオンに会う。一方、レオンがある日いつものベンチに行くと老婆が座っている。その老婆は、ソナとサンスが勤めるコンビニの常連。

レオンは、自分のおにぎりを老婆に与え、コンビニにアイスを買いに行く。そこで、ソナに出会う。

実は、レオンがソナのアパートに行かなくなるきっかけになったサンスがソナとキスした夜、サンスが帰った後、階段で座り込んだソナの横にレオンが行き、サンスのふりをして、ソナの本心を聞いていたのだ。

レオンはコンビニでアイスを買い、ソナに挨拶し、店に戻り、同僚に配る。小風が聞く「何かあったの?」レオンは「恋をしました」と微笑んで暗転。

これだけの入り組んだ物語を、巧みに演出していく今泉力哉監督の脚本、演出は見事なもので、淡々としたストーリーですが、見ていてどんどんハッピーになってくるのです。ラスト、今まで決して笑わなかったレオンが微笑むカットが素晴らしい。本当に本当に珠玉の名編でした。良かったです。