「ラブゴーゴー」
とっても洒落た三つの恋愛ラブストーリーで、それぞれがたわいないユーモアに溢れているので、見ていて心地いいし、妙な暗さもなく、湿っぽさもなく、それでいて、どこか切ない。とってもいい映画でした。監督は台湾のチェン・ユーシュン。
アラサー男子のアシェンはケーキ屋をやっている。彼がケーキを分けているところから物語は始まる。バイトの男の子に並べるように言っても無視される始末。そんな彼の店に一人の女性リーホアがやってきてレモンケーキを買って帰る。実はアシェンは彼女が小学生の時の初恋の女性なのだが、ある夜ブランコに乗って透明人間を待っていていつの間にかリーホアは消えてしまい、卒業式にもこないままにいまになっていた。切ない恋心を懐かしみ、次々と彼女への思いをケーキの名前につけて並べるようになる。
そしてとうとう彼女にラブレターを渡そうと準備するが、いざとなりと渡せず佇む。そんなアシェンの手から手紙を奪い彼女に手渡したのが、あのバイトだった。
アシェンと同じアパートの、ちょっとおデブのリリーがいる。ある時、道でポケベルを拾う。ベルが鳴って、電話をしたが留守電ばかり。そんな時突然電話のお相手が出る。そして、次第に仲良くなっていくが、自分が太っていることを隠していたリリーは、ダイエットを始める。やがて、会う日が近づいてくる。思うように痩せられないまま、待ち合わせ場所に行くと、そこにやってきたのは、映画の最初でアシェンのケーキ屋で、パンの中にガムを入れて悪態をついた男だった。そしてリリーの姿を見た男は、ポケベルを返してもらって、「思い出をありがとう」と書いた絵を渡し消えてしまう。ダイエットで我慢をしていたハンバーガーをやけ食いするリリーのそばに忘れ物の携帯電話がなる。
ここに、アシェンのケーキ屋にスタンガンを売りに行った青年アソンが、この日も、とあるビルへやってくる。そしてそこにある美容院へ入り、まず髪の毛を整えてもらう。そこの店主はリーホアだった。なかなか言い出せないアソンのそばには顔に痣のある女の客がいる。そこへリーホアに彼氏らしい人物から電話があり、戻った彼女は涙を流している。突然、さっきの痣のある女が襲いかかる。彼女の夫をリーホアがとったと喚く。思わず、防犯グッズのピストルでアソンが危機を救う。
リーホアは屋上に逃げ、それを追ってアソンがいく。そして、とりあえずリーホアも落ち着く。一人で帰るリーホア。アシェンの手紙にあった、のど自慢に出る番組の時間だった。家に帰ると、レモンケーキが届いている。それは彼氏からの別れの手紙だった。いつもレモンケーキをアシェンの店で買ってリーホアは彼氏に届けていたのだ。テレビではアシェンが、リーホアへの思いの丈を歌っている。
アシェンは今日もケーキを焼いている。出来上がったケーキは足跡がついていて、透明人間を待ったあの日の思い出だった。こうして映画は終わります。
一見、アメリカ的な洒落たラブストーリーですが、台湾という舞台ゆえに、どこか庶民的でとってもほのぼのしています。好きな映画ですね。最高。
「熱帯魚」
チェン・ユーシュン監督のデビュー作ですが、これが最高に面白かったし、上滑りの笑いではない奥の深いストーリー構成も見事でした。
一人の少年、ツーチャンがやってくる。バス停で一人の好きな女の子にラブレターを渡そうとするが、間が悪くいつも渡せない。彼は親友といつもつるんでいて、成績は中の下、高校受験を間も無くに控え親も気が気でない。
そんなツーチャンは、街で一人のメガネ少年ワンと知り合う。その場は別れたが、少ししてある男と歩いているワンを見かけた直後、ワンが誘拐されたと知る。ツーチャンと友達は、早速犯人を探そうとするが、ツーチャンは、誤って犯人のトラックに乗ってしまい、そのまま一緒に誘拐される。
とはいえ、間の抜けた二人の犯人はなかなか金の受け渡しができず、せっかく約束の場所に行くも、間が悪く知り合いの刑事が貼り込んでいるところに出くわしその場を去る。ところがその帰り事故にあい、一人残された犯人は、仕方なく二人の子供を実家の貧しい家に散れていく。
ところが、ツーチャンが受験生と知った犯人たちは、勉強させようと本を買ってきたりご馳走したりし始める。さらに、息子たちに身代金の電話をかけに行かせるが、いつも話し中で繋がらない。
そんな中、試験の日が迫る。ところが、そんなツーチャンの状況は次第にワイドショーのノリ的に盛り上がってくる。この展開がなんとも楽しい。しかも犯人の家族の個性もそれぞれユニークなので最高なのです。
警察の捜査が進んでいると勘違いした犯人たちは子供達を船に乗せて沖に出る。ところが、電話が繋がらないまま試験の日になり、仕方なく、船を戻そうとするが、船が故障。なんとか泳いで戻っていたところへ、第一線に出してもらえず、遊んでいた警官二人に見つかる。ところが、ツーチャンは、迎えに出ている犯人家族は犯人ではなく、自分を助けてくれたのだという。また、電話が通じないのは市外局番を回していなかったというオチまである。
二人の警官は子供たちを乗せて試験所へ走り出す。犯人家族の中に一人いた少女からのプレゼントをもらったツーチャンが、手紙を見ると、その少女は一年前に学校を退学させられ、仕事につかされたが、そこで知り合った恋人とその友達にレイプされた過去が書かれていた。そして、夢を追いかけ、自由に学校に行き、試験も受けられることが羨ましいと書かれて、浸水でどこかから流れてきたらしい熱帯魚が入った瓶が添えられていた。
物語はそこで終わり、ビルの間に巨大な熱帯魚が泳いでいく。ツーチャンとワンのその後のテロップが出てエンディング。
所々に散りばめられたユーモア満点のネタが、とにかく最高に面白くてテンポがいい。間の抜けた犯人たちの間で、不思議な体験をするツーチャン達の様子も生き生きしている。こういう映画に出会うから映画はやめられません。本当に最高でした。