「若親分」
海軍士官のエリートコースを棒に振ってやくざ世界の二代目を襲名するという異例の主人公を描いた人気シリーズの一作目。主演は市川雷蔵。物語は普通ですが、オーソドックスな画面作りが古き良き日本映画を感じさせる作品でした。監督は池広一夫。
霧がかかるトンネルの向こうから一台の人力車がやってくる。突然その車に襲いかかる一人の男、そして乗っていた南條組の親分が殺されて映画が始まる。
海軍士官でエリートコースを進んでいた息子の武は、父の葬儀の場に帰ってきて、海軍を退役し、父の仇を討つために二代目を襲名する。
あとは、きっぷがいい上に男前の主人公が次々とその男っぷりを上げて行く様を描いて行く。時は明治末期、日露戦争の戦勝景気に沸き返る日本を舞台にしたお話がなんともノスタルジック。
きっちりと決めた画面の構図と、横長の画面に配置される木と人物の構図など、安心して見ていられる画面作りも美しい。これが基本的な映画作りだと思います。お話はかなりとってつけた繰り返しが続きますが、気楽に見ていられる娯楽映画という感じでした。
「悪名」
田宮二郎、勝新太郎コンビの人気シリーズの第1作目。宮川一夫の美しいカメラと依田義賢の脚本という一流どころのスタッフを配置した娯楽映画である。まあ、出来栄えは普通といえば普通の作品。監督は田中徳三。
喧嘩好きの浅吉が、ある時暴れん坊の貞と出会うところから映画が始まる。お互いに引けを取らない喧嘩の技量に意気投合して、あとは女郎屋で知り合った女を助けながら、地元ヤクザとの小競り合いをして名を売っていく展開となる。
物語はたわいもないし、小難しい主義主張もない娯楽映画で、勝新太郎と田宮二郎の個性で映画を引っ張っていく感じで楽しい。
ラストは、目当ての女を無事逃し、因島の大親分の義理を立てて浜辺で寝転ぶ朝吉のショットでエンディング。おそらくシリーズ化するかどうか不明というエンディングだが、当然、シリーズ化されていく。安定した画面が本当に安心して見ていられる映画だった。
「続悪名」
第一作と全く同じスタッフキャストで、純粋に続編の物語が展開。個人的にはこの続編の方が人間ドラマとしてしっかりしているように思います。監督は田中徳三。
主人公朝吉の名前がどんどん売れるにつれ、松島新地の元締めが朝吉にしまの一部を任せ、いっぱしのヤクザの親分となる。
しかし、いざヤクザの世界に入り込むと力だけでは成り立たないこと、行き着くところ金がなければ立ちいかないこと、結局目をかけられても儲けさせなければ適当にあしらわれることが見えてくる。
そんなある日、朝吉に召集令状が来て戦地に旅立つ。留守を預かる貞は何者かに刺され命を落とす。朝吉はヤクザ世界の虚しさを知りながら再び戦地へ。戦場では自分たちがいかに小さく虫けらのような存在であることを知って彼方に進んでいってエンディング。
おそらく原作はもっとしっかり人間ドラマが描けているのだろうが、やはり娯楽映画に仕上がっている感じがしなくもない。前作で人気が出た田宮二郎が若干表立って来た気がする作品でした。