くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「冬の光」「秋のソナタ」

kurawan2018-09-20

「冬の光」(デジタルリマスター版)
何年かに一度見ていますが、流石にこの作品のカメラの美しさには息を呑みます。冒頭の寒々とした雪景色の中に浮かぶ教会のカット、主人公トーマスが礼拝をする教会の中のシンメトリーな構図、窓の外をじっと見るトーマスの横顔がハイキーな露出で薄くなり、また礼拝堂でその場に崩れたところ、窓の外から日の光が差してくる演出など素晴らしい。言うまでもなく監督はイングマール・ベルイマン

美しい教会のカットから、中では主人公トーマスがミサを行なっている。風邪で体調を崩し、しかも四年前に妻を亡くしてからは日々神の存在に疑問を持ったまま過ごしているので、ミサにも力が入っていない。教師で恋人のマルタはそんな彼になんとか寄り添おうとするがトーマスに救いが見えない。

一人の信者がミサのあと夫の悩みを聞いてやってほしいというので、のちほどくるようにとトーマスは告げる。そして遅れたもののやってきた男にトーマスはこれまでの自分の苦悩を打ち明けて励まそうとする。しかし、その帰り道男は拳銃自殺してしまう。男に自分を重ねてしまうトーマス。

トーマスはその男の妻に死を知らせ、離れた地でその日の二ツ目のミサを行う。冒頭と同じカットでトーマスは「神はこの地に栄光をもたらしている」と語り映画が終わる。

神の存在に疑問を持ち、その救いをどこに求めればいいか苦悩するトーマスを通じて、果たして神は存在するのかを問いかけるベルイマンの筆致は素晴らしい。ズヴェン・ニクヴェストの見事なカメラと背後の音楽を廃した淡々とした寒々した映像に引き込まれてしまいます。やはり何度見ても傑作。見事でした。


秋のソナタ」(デジタルリマスター版)
素晴らしい映画ですが、ひたすら会話劇が続く終盤は流石に眠くなってくる。それでも、美しい映像と細かいカットの切り返しから続く延々とした会話の応酬、そして細かいカットの切り返しという斬新な演出のテンポは本当に圧倒されます。監督はイングマール・ベルイマン

エヴァが母を呼び寄せる手紙を書いている姿を夫が説明するオープニングから映画が始まる。母は著名なピアニストで、若い頃から娘のことに目を向けていなかったが、母に会いたいと言う気持ちで呼び寄せたのである。

そして母のシャルロッテがやってくるが、開口一番、エヴァは妹のヘレナも引き取ったと告げる。ヘレナは体が不自由で口も喋りづらい障害があり、施設に入っていたのだ。しかもシャルロッテはそんなヘレナを憎んでさえいた。

しかしシャルロッテはヘレナにも母としての愛情表現をする。しかし、エヴァは事あるごとにシャルロッテに、子供時代からの恨みつらみを語り始める。

二階のシャルロッテの苦悩と一階のエヴァの思いを細かいカットの切り返して描く前半の映像、素朴ながらも美しく配置された室内の構図と色彩演出に並々ならないクオリティを実感してしまいます。

クライマックスはシャルロッテへのエヴァの延々とした恨みつらみとそれに対するシャルロッテの返事が描かれて行く。そして、シャルロッテは帰って行く。

列車の中で付き人に本音を語るシャルロッテ。母を送り出して元の生活になったエヴァ。二人のカットとセリフが冒頭と同じく細かい切り返しの編集で描かれて行く。そこに交わるものはないのかもしれない。

ほとんどが会話劇という構成ですが、全体が見事にまとめ上げられているし、これこそ映画づくりと言わしめる傑作だと思います。