くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「いとみち」「デカローグ3」「デカローグ4」「キングコング対ゴジラ」

「いとみち」

典型的なローカル映画かと思っていましたが、徹底的な津軽弁を駆使した映像作りが面白く、心地よい空気感でラストまで引き込まれていく秀作でした。少々、主人公のキャラクター作りの引っ込み思案の演出がくどかった気もしますがあれはあれで良いのかもしれません。自宅やカフェの美術のさりげなく雑多感も良かった。監督は横浜聡子

 

高校の教室、主人公の相馬いとは何事にも引っ込み思案で内気、しかもコテコテの津軽弁なので自分の気持ちも素直に伝えにくい性格だった。母は彼女が幼稚園の時に病気で亡くなり、父と祖母と三人暮らしだった。父が大学の教授で、この日も自宅に生徒を呼んで津軽弁の話をしていた。いとは、幼い頃から祖母の津軽三味線を見て覚え、地元のコンクールで賞をもらった腕前だったが、このところ三味線にも手をつけていなかった。

 

何をするでもなく目標のないいとは、何気なくスマホを触っていて、メイドカフェのアルバイト応募のサイトを見つける。そして軽い気持ちで電話をし、青森まで出かけ、その場で採用されてしまう。映画はこうしてメイドカフェで働くいとが、同僚のメイドやしっかりした店長、気の良いオーナーらとの交流で少しずつ気持ちがほぐれていく展開となる。いつも電車で頑張れと励ましてくる女子高生とも親しくなっていく。

 

そんなある時、オーナーの成田が、警察に捕まってしまう。昔の仲間の仕事を手伝ったために罪に問われたのだ。閉店を覚悟した店長はいとたちに退職金を渡して一ヶ月後に店を閉めると話す。オーナーの逮捕のことで父と喧嘩したいとはそのまま家出し、電車で知り合った友達のところへ行く。一方、悪気もなかった父も居づらくなり登山に出ていく。

 

最後の勤めをするいとの店に突然父がやってくる。いとは店長に無理を言って自分でコーヒーを入れて出す。父は帰りに、津軽弁で頑張れと言う。いとは決心をし、この店で三味線を弾きたいと申し出る。そして、祖母の元で一緒に三味線を弾いて感を戻して、メイド仲間も、常連さんもみんな協力し、メイドカフェ+三味線ライブの企画が進む。

 

そして当日、いとの祖母や常連さんらも含め大勢のお客さんの前でいとは三味線を弾く。後日、父と一緒に山に登るいとの姿。頂上でいとは大きな声で叫ぶ、彼方でいとの友達が手を振るカットで映画は終わる。

 

これと言うドラマティックなものもないたわいないストーリーですが、一人の女子高生の揺れ動く思春期の心が前に進み始める一瞬を捉えた画面がとっても爽やかで心地よい。傑作とかではないけれど、心に残る秀作でした。

 

「デカローグ3 あるクリスマス・イヴに関する物語」

これもまた良かった。ちょっととっつきにくい展開の話ですが、俯瞰を使った画面の構図が見事で美しい上に、さりげなくすれ違う人物の使い方も見事で、シンプルな話を映像に仕上げていく手腕に脱帽。監督はクシシュトフ・キェシロフスキ

 

イヴの夜、一人の男が車から降りようとしている。彼はサンタクロースの格好をしている。傍をもみの木を引きずった男が過ぎていく。サンタクロースの格好をした男はおもむろに自宅を訪ねる。そして家族にプレゼントを渡す。彼はこの家の夫ヤヌーシュである。

 

ここに一人の女エヴァが施設にいる叔母を訪ねクリスマスのお祝いをし、ミサに出かける。ミサにはヤヌーシュの家族も来ていて、ヤヌーシュは後ろにいるエヴァを見つける。ミサの後自宅に帰り子供達も寝かせた後ヤヌーシュは妻と話していると玄関のベルが鳴る。ヤヌーシュが出ると誰もいない、と思ったらエヴァがガラスに映る。この演出が実に上手い。夫が朝から行方不明なのだと言う。ヤヌーシュは、商売道具のタクシーが盗まれたらしいと妻に嘘を言って、警察に連絡させる一方、自分もエヴァのところへ行く。

 

ヤヌーシュとエヴァはヤヌーシュにタクシーで救急センターへ行くが、そこにエヴァの夫が担ぎ込まれた様子はない。ヤヌーシュとエヴァは警官の前を猛スピードで走り抜けたのでパトカーに追われる。止められたものの、自分の車なのでお咎め無く、車が見つかったことにしてその場を逃れる。そしてエヴァを家まで送ると車を動かす。

 

家についたエヴァは、夫が戻ってるかもしれないからと、ヤヌーシュを待たせるが誰もいないので、ヤヌーシュを家に入れる。エヴァはその前にいかにも二人で住んでるかに見せるため歯ブラシを揃えたりする。ヤヌーシュは洗面所へ行き二つの歯ブラシや髭剃りを確認する。しかし、エヴァは実は一人だった。

 

ヤヌーシュはエヴァを彼女の車を置いてある場所まで乗せる。なぜあんなことをしたのかと問いつめるヤヌーシュに、エヴァは、一人でいることが寂しかった。もし、ヤヌーシュに会えなかれば覚悟していたと、ポケットの薬らしきものを捨てる。エヴァは自分の車に乗り去る。朝になりヤヌーシュが自宅に戻ると妻が待っていた。ヤヌーシュの言葉に妻は「エヴァね」と答える。二人は寄り添って映画は終わる。

 

ヤヌーシュとエヴァはかつての恋人なのかもしれない。言葉の端々で推測しながら、いったいどうなるのかと言うサスペンスと、彼らの関係や妻との関係などミステリアスな部分がどんどん膨らんでいく展開に引き込まれます。俯瞰で捉える絵作りも美しいし、次々挿入される脇役の登場も面白い。優れた一本でした。

 

「デカローグ4 ある父と娘に関する物語」

これは傑作でした。一通の中身の見えない手紙が生み出すサスペンスフルな父と娘の物語、とりわけラストの処理には圧倒されてしまいました。監督はクシシュトフ・キェシロフスキ

 

父ミハウは間も無く仕事で出張する予定で、娘のアンカが見送る段取りになっていた。アンカは、ミハウの机の上にある一通に手紙が気になっていた。そこには「死後開封すること」と書かれていたのだ。アンカは空港でミハウを見送った後自宅に戻り、さっきの手紙を見つける。開けることをためらいながらも、思い切って開いてみたら、中にもう一通の手紙が入っていた。その当て名は自分になっていて、どうやら自分を産んだ後数日で死んでしまった母からのものだろうと推測された。

 

手紙を開こうとしたがためらわれ、アンカは母の筆跡を真似て封筒をもう一通作る。まもなくしてミハウが帰ってくる。アンカは引き出しの中に「死後開封すること」と書かれた手紙を開封したこと、そして中にあった母からの手紙を読んだことを明かす。そこには「ミハウはあなたの実父ではない云々」のことが書かれていた。ミハウは戸惑い、思わずアンカにビンタをしてしまう。

 

夜、ミハウとアンカは話し合う。ミハウは一枚の写真を見せ、写っている男性のいずれかが実父だと説明する。アンカは、なぜ今まで話さなかったのかなどなどミハウに詰め寄るが、話す機会を失ったのだと答える。アンカは、血が繋がっていない自分を待ってたのではないかと、服を脱いで迫るが、ミハウは優しくアンカに服をかける。

 

翌朝、アンカが起きるとミハウの姿がない。窓からミハウを見つけたアンカは、ミハウが家を出ていくと思い後を追いかける。アンカはミハウに、あの手紙は自分が筆跡を真似て書いたもので、本物は開封していないと告白する。そして本物の手紙を出してきて、燃やすことにする。しかし燃え滓が残る。残った文面には、「アンカへ、ミハウは…」までしか読めなかった。こうして映画は終わります。

 

小品なのにこの圧倒的な作り込みの凄さはなんなのだというほど打ちのめされてしまいました。焼いた手紙は本当に本物の方なのか、それさえも疑ってしまう練られた脚本が見事。ここまで描かれると、平凡な映画は見れません。それほど素晴らしい一本でした。

 

キングコング対ゴジラ」(デジタルリマスター版)

作れば売れた時代のかなり適当な脚本と大人の干渉に耐えられないほどなちゃらけた展開ではあるけれど、さすがに東西二大怪獣の決戦というだけあって、セットがすごくて、見せ場の連続のいかにも大作という作品でした。監督は本多猪四郎

 

地球温暖化で北極近海の氷山が溶けてゴジラが復活する。一方、大手製薬会社の宣伝目的で南方の島にいる魔神を調べに行き、キングコングを発見、まんまと眠らせて日本へ搬送する。

 

ところが、ゴジラは帰巣本能で日本上陸、一方途中で目覚めたキングコングは動物の本能でゴジラのいる日本へ向かう。こうして二大怪獣の決戦が始まる。

 

例によって、ゴジラは有刺鉄線を破壊したり、崖に突き落とされるも応えずに爆進。一方、キングコングは一旦はゴジラ放射能で逃げてしまうが、雷を浴びて強くなり、国会議事堂へ登る。ところが麻酔で眠らされ、再度ゴジラにぶつけるために吊り下げられてゴジラの元へ。

 

再度の決戦となるが今度はキングコングも負けていなくて、熱海城を舞台に大決戦の末海に落ちる。キングコングだけ浮かび上がってきて南の島に泳ぎ去り映画は終わる。多分、ゴジラは海の中ということです。

 

まあ、いろんな矛盾はさておき、さまざまな舞台で大暴れする大怪獣の迫力が楽しいし、やはりセット撮影により面白さが倍増します。さすが東宝でした。