「五番町夕霧楼」
良かった。画面に釘付けになってしまいました。粛々と伝わってくる人間ドラマの機微、きっちり組み立てられた構図と色彩演出、細部にこだわった演出、これこそ名作。役者の一人一人の演技の深みも絶品。監督は田坂具隆。
海を見下ろす丘の上で一人の男が胸を押さえて倒れる場面から映画は幕を開ける。その男は京都五番町で夕霧楼という遊郭を営んでいたが今はかつ枝に譲り田舎に引いていた。彼はかつ枝を呼び間も無く息を引き取る。駆けつけたかつ枝のところに片桐という男が現れ、娘の夕子を五番町へ連れて行ってほしいという。言われるままにかつ枝は夕子を京都へ連れ帰る。
かつ枝は、夕子の初見せに老舗の呉服屋竹本をあてがう。竹本は夕子の体に惚れ込んで、是非身請けしたいというが、まもなくして夕子は一見の客を取りたいという。実は彼女には幼馴染で京都の鳳閣寺にいる正順という恋人がいた。恋人というより、幼い頃から彼を慕っていたという男性だった。
やがて正順は夕霧楼へ通うようになる。彼には吃る癖があり、幼い頃からいじめに遭っていて今もお寺でもいじめられていた。そんな彼を夕子は優しくもてなしていた。ところが、たまたま帯の展示会で正順を見かけた竹本は鳳閣寺の住職に告げ口をし、正順は外出を禁じられてしまう。折しも夕子は胸の病で血を吐き入院する。病を聞いた竹本も寄り付かなくなる。
夕子を可愛がっていた遊女の敬子は、夕子から、自分の病気は決して正順に伝えないようにと念を押すが、かつ枝は気を利かせて正順に夕子の病状を伝える。正順は狂ったように寺の中に入る。程なくして鳳閣が放火され、犯人の正順は逮捕される。そして、正順は獄中で自殺する。
それと前後し、夕子が病院から行方をくらます。かつ枝らが心配する中、夕子は故郷の丘に戻り、かつて正順と遊んだ百日紅の木の下で息を引き取る。駆けつけた父が彼女を抱き上げフレームアウトして映画は終わる。
文芸作品ですが、力強い演出でぐいぐいと引き込んでいく迫力に圧倒されます。かつ枝を演じた小暮美千代の存在感が作品を引き締める流れも見事。やはり名作ですね。
1983年のトーキング・ヘッズの舞台を描いたライブ映画。先日見た「アメリカン・ユートピア」の方が面白くて楽しかった。やはり映像センスの違いかもしれません。こちらは演奏者の細かい表情や手足の動きを寄りのカメラで丁寧に撮っていったのがかえってステージのリズムが伝わらないことになった気もします。監督はジョナサン・デミ。
曲は全く知りませんが終始退屈しなかったというのはやはり舞台がいいのでしょう。ただそれが映像として昇華しきれなかったように感じたのは私だけでしょうか。