くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「大地と白い雲」「名もなき歌」

「大地と白い雲」

広いモンゴルの大地と、平坦なストーリーで、思いのほか長く感じてしまいますが映画としては良質の一本でした。都会に憧れる若者の姿を、遥か彼方まで広がる地平線と、真っ青な空、そして時に襲ってくる自然の雪景色などを交えながら、仲の良い夫婦の姿の中に描き出す。その静かな映像表現は確かに良かった。監督はワン・ルイ。

 

地平線の彼方まで広がる平原で暮らすチョクトとサロールの夫婦。羊がたくさんトラックに乗っているのとすれ違った妻のサロールは、慌てて夫のチョクトを探す。兼ねてから都会に出たいというのが口癖のチョクトは、何かにつけ羊を処分していた。夫の友人のボンバルに聞くがわからない。まもなくしてチョクトは帰ってくる。映画は、都会へ出たがるチョクトと反対するサロールの夫婦の姿を通じて、次第に変化していくモンゴルの生活を淡々と描いていく。

 

都会で事業をするために草場を売ってしまった知人、頑なに草原で暮らす老人、時にチョクトは友人と街に出てカラオケに行ったり、酒を飲んだりする。サロールの姉も都会に住んでいるが、都会へ出ようとしない。ある冬の吹雪の夜、羊を売って車を買ったチョクトは、車の整備でなかなか戻らないのを心配したサロールが、チョクトを探しに行き、つい言い争ってその場に倒れる。出血を見たチョクトが慌ててサロールを病院に連れていくが彼女は流産する。妊娠していたのだ。流産の影響で二度と子供ができないかもしれないと言われ、夫婦の間に会話が減っていく。

 

少しづつ時は流れ、それとなく確執も和らいできたが、チョクトは友人のボンバルから臨時の仕事で数日家を開けてほしいと言われる。チョクトは、サロールに断って出かけるはずだったが、サロールは妙に陽気で結局話せず出かけてしまう。サロールは妊娠していたのだ。やがて冬が訪れ、赤ん坊のおもちゃを持ってチョクトが帰ってくる。しかし、サロールの姿はなかった。赤ん坊を世話しながら羊の世話は無理と判断し街へ行ったのだという。チョクトは、妻を追って街に向かう。そして、目の前に迫ってきている街並みを目の当たりにして映画は終わる。

 

次第に変化していくかつての草場の姿を、カメラは夫婦の周囲のみを定点に淡々と描いていく。いつまでも変わらないと思っていた景色も、一歩外へ視点を移すと、目の前に変化が迫っていた。静かに流れる作品ではありますが時の流れを見事に演出した手腕は見事。良質の一本でした。

 

「名もなき歌」

1988年ごろのペルーの政情、社会、そのほか様々を赤裸々に描いていくてんこ盛りのメッセージの作品で、モノクロスタンダードならではの悲壮感が全面に漂う非常に暗い作品でした。監督はメリーナ・レオン。

 

どんどん物価が上がりインフレが進むペルーの実態をニュース映像などで描いていってタイトル。山裾の小屋のような建物の中で、レオという青年がダンスを踊り周りが囃し立てている。彼の恋人へオルヒナは妊娠している。カットが変わるとへオルヒナが街頭でジャガイモを売っている。背後に首都リマにある財団の産院が出産費用無料である旨の宣伝ニュースが流れる。やがて産気づいたへオルヒナは、一人でその産院へ向かい出産するが、子供に会わせてくれない。退院させられた翌日来てみると産院さえもなく、ドアを叩くも返事もない。

 

警察に行っても取り合ってもらえず、レオと一緒に訴訟を起こすべく裁判所へ行くが取り合ってもらえない。そんな頃、レオに、過激集団から誘いがかかり、へオルヒナのことはなおざりにされ始める。

 

一方、新聞社で働くペドロは、ある暗殺事件の取材をしていた。途方に暮れたへオルヒナは、新聞社を訪れ、子供が盗まれたと訴える。その声を聞いたのはペドロだった。ペドロは、自分のツテを回って、消えた産院の謎を探り始める。しかし、手がかりが尽きたある時、ある産院の宣伝放送をみつけたペドロは、調査に出向く。そして、その組織のある場所で行われているらしい人身売買の現実を記事にする。

 

まもなくして、海外へ幼児売買をしていた一味がたまたま逮捕される。その組織は判事らを含めた官僚たちを巻き込んだ巨大組織の犯罪だった。一方、過激組織に参加したレオは、破壊活動を繰り返し警察から手配され始めていた。

 

ペドロは、海外へ売られた幼児たちを追って旅立つことを決意する。へオルヒナは一人、海に向かって、子供への思いを歌って映画は終わっていく。

 

官僚汚職やインフレ、破壊活動、夜間外出禁止令、ゲイの問題、そして人身売買、と当時の政情不安なペルーの実情を淡々と盛り込んだ物語構成は見事ですが、いかんせん全体が暗くて、救いようのない空気感に打ちのめされてしまいました。