くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「あこがれ」「若い狼」「ほんとうのピノッキオ」

「あこがれ」

本当に名作ですね。練りに練られた台詞の数々と、重層的に組み立てられたストーリー、そして美しいカメラアングルにどんどん引き込まれていきました。物語は時代を感じさせるものの、それでも見事なドラマに仕上がっています。素晴らしかった。監督は恩地日出夫

 

雨の中一人の少女信子が父と職員に連れられて孤児院へ連れてこられる場面から映画は始まる。迎えた先生水原は、反抗的な信子を優しく迎える。心を開かない信子に声をかけてきたのは少し年上の一郎だった。信子は一郎を慕うようになるが間も無く一郎は平岡市にある瀬戸物店吉岡の家の養子に迎えられ十二年の月日が経つ。

 

吉岡の両親は一郎を大切に育て、見合い話に花を咲かせる日々となっていた。そんな時、近くのラーメン屋で働く信子に一郎は再会する。友人として二人は接し始めるが、信子の父は飲んだくれで何かにつけ信子に金の無心に来ていた。そんな姿を見た一郎は信子の父に離れてほしいと告げにいく。娘のことを思う父は、信子に黙って遠方の工事現場に転任して行くが最後に一郎にその旨を伝えに来る。

 

吉岡の両親は一郎が信子と親しく付き合うことにいい気をしていなかった。できれば、普通の女性と結婚して欲しかったのだ。そんな中で思い悩む一郎は水原に相談をする。水原はかつて両親の反対を押し切って結婚した過去があり、その結婚を少なからず後悔していたので、一郎にはそういう思いをしてほしくなかった。

 

ある時、一郎の生みの母が孤児院を訪ね、一郎の安否を尋ねる。間も無くブラジルに旅立つので一郎がどういう境遇なのか最後に聞きたかったのだと言う。幸せだと聞いた母は黙って孤児院を後にする。一方吉岡の両親は親戚に勧められた一郎の見合い相手の修善寺の娘を実際に見るために慰安旅行へ向かう。しかし、実の所、一郎には思い通りに生きてくれてもいいと思っていた。

 

水原は吉岡の家を訪ね、一郎に、吉岡の両親を追いかけて修禅寺に行くように勧める。その際、一郎が孤児院に届けたコーヒーカップと同じものを買いに来た女性がいたと一郎は水原に言う。旅館に着いた一郎は吉岡の両親から一郎の産みの母の旅立ちの船を見送りに行くように勧められる。一方水原は信子にも一郎の母の見送りの場に行ってほしいと連絡するが信子は断る。

 

やがて船が出航しようという時間、水原らが桟橋で見送る中、ようやく一郎が駆けつけ、実母の姿を見つける。そして船が旅立った後、駆けつけた信子は一郎と出会い、二人の仲が認められたことを無言で確認して、浜辺を走り去って映画は終わっていく。

 

とにかく山田太一が書いた脚本の一つ一つの台詞が素晴らしく、さりげない一言に胸が熱くなっていきます。手前に花を配置して奥でドラマが展開する画面の構図なども美しく、良質の文芸作品のような仕上がりになっていました。

 

「若い狼」

映画のクオリティはそれなりで、デビュー作らしく、映像演出のさまざまを試してみようという意気込みも感じられるバイタリティのある映画ですが、さすがに少し暗い話でした。恩地日出夫監督のデビュー作です。

 

主人公川本信夫が少年院を出所してくる場面から映画は始まる。田舎に戻り、母に挨拶してのち、東京へ出ていく。そこで恋人の道子と再会するが、彼女は田舎にいた頃と印象も変わり体を売って生活していた。それでも、信夫は道子と生活を始め、二人で堅気で生活するべく奔走し始めるが、どこをどう見ても楽な生活ができそうにない苦しさを目の当たりにする。

 

東京で入院しているかつての恩師を訪ねるが、結局少年院あがりということを許せない空気を感じてしまう。どうしようもなくなった信夫はヤクザになることを決意し、知人に紹介されていた事務所へ行き、たまたま起こった組み同士の小競り合いに参加することになる。そして一人の男を殺してしまう。そして再び少年院に入れられるが、自分の房に入れられて、壁を殴って悔しくて叫んでしまう。一方の道子はパチンコ店で仕事を始めるがちょっとしたことで店長からクビを言い渡される。何をしてもうまくいかなかった道子は、途方に暮れて街に出ていって映画は終わっていく。

 

道子と信夫がそれぞれに関わる人たちを交錯させながら描いていく脚本は実験精神に溢れ、カメラ演出も大きく俯瞰で撮ったり、オーバーラップを一画面に重ねたりと、初監督としての意気込みは見られるが、先のない殺伐とした物語は見ていて息苦しくなってくる。メジャーな映画会社で作る作品ではない感じのする一本でした。

 

「ほんとうのピノッキオ」

名作童話ピノッキオの物語を実写にすることで社会風刺やブラックユーモア部分を強めたファンタジーです。ストーリーの展開はエピソードの羅列のように流れるものの、美しい風景と幻想的なキャラクターの数々に魅了されていく作品でした。監督はマッテオ・ガローネ。

 

貧しい暮らしのジェペット爺さんは、ある時、自分の寂しさを紛らすために人形を作ることを思いつく。そして、一本の丸太を手に入れるが、その丸太は不思議と勝手に動くものだった。やがて完成した人形はピノッキオと名づけるが、わがままなピノッキオはジェペット爺さんの言うことを聞かず、学校を抜け出して、その村に来ていた人形芝居の劇団に参加してしまう。しかしそこの座長はピノッキオを憐れみ金貨5枚をあげて、ジェペットのところへ帰るように言うが、途中で狡猾な狐と猫に金貨を狙われる。

 

ピノッキオは、狐と猫が化けた強盗に襲われるが、森の妖精に助けられる。しかし、そこで、これまでの経緯を嘘を交えて話すとピノッキオの鼻はみるみる伸びてしまうのだった。ピノッキオは執拗に付き纏う猫と狐とに騙されとうとう金貨を取られてしまう。ピノッキオは、妖精の助けで、また学校へ行く。そして勉強を頑張ったので妖精が人間にしてやると約束するが、ピノッキオは友達と一緒に不思議な老人の馬車に乗ってしまう。しかし、その老人は子供をさらってロバにして売り飛ばしていた。

 

ピノッキオもロバにされサーカス団に売られるが足を怪我して海に捨てられる。妖精がピノッキオを元の姿にしてやり、ピノッキオは海を泳いで逃げると巨大なサメに飲み込まれる。サメのお腹の中にはピノッキオを探しに出たジェペット爺さんがいた。ピノッキオとジェペット爺さんはサメから逃げ出し、ある島につき、小屋で暮らし始める。ピノッキオは近くの農場で働いてジェペット爺さんを養う。やがて妖精がきて、素直ないい子になったピノッキオを人間の子供にしてやる。めでたく人間になったピノッキオとジェペット爺さんが抱きあってハッピーエンド。

 

原作を忠実に再現しながら美しい構図で描いていくファンタジーで、丁寧に綴られる物語は大人の鑑賞にも十分耐えられる作品に仕上がっていました。