くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「オフィサー・アンド・スパイ」

「オフィサー・アンド・スパイ」

非常に緻密に隙なく描いていくストーリー展開はさすがだと思うのですが、生き抜く暇もなく、しんどく感じてしまいました。史実ではあるのですが、この題材を選んだ意図がどこにあるのかと探していて、なんとなくエピローグのサラッとしたエンディングにあったのではないかと自分なりに感じた映画でした。絵作りの美しさや、気を抜かせない緊迫感などはなかなかの仕上がりで、サスペンスとしての面白さも堪能できました。クオリティの高い一本。監督はロマン・ポランスキー
 
1895年,フランス、この日、昨年の軍法会議で軍情報をドイツに流したとして有罪が決まったドレフュス大尉がその軍職を公衆の前で解か収監地である悪魔島へ送られる事になって、広場へ連れ出されていた。防諜部の部長が病気のため職務が続けられず、後任として、かつてドレフュス大尉の教官でもあったピカール少佐が中佐に昇進して赴任することになる。ピカール中佐は、とある大臣の妻ポーリーヌと不倫関係でもあった。
 
ピカール中佐は防諜部にやってきたが、組織内は荒れていてずさんな状況だった。しかもアンリ少佐による独断的な事務処理が行われていて,職員の規律も乱れていた。ピカール中佐が案内された職務室には先日のドレフュスの有罪を決定づけた証拠文書が飾られていた。ピカール中佐は、その文書を見て,かつてドレフュス大尉が有罪となる裁判の様子を思い出す。
 
ピカール中佐が赴任して、防諜部の内部の改革を始めるが、そんな頃、アンリ少佐が入手した文書から、軍内部にスパイが存在することが発覚する。アンリ少佐の行動に不審を持つピカール中佐は、自ら証拠の調査と、被疑者の捜査を始める。そして、次第にその証拠が固まりはじめ、上官の将軍などと相談を進めていた矢先、軍隊に赴任していたその被疑者がパリへ転属願いを提出、その文書を入手したピカール中佐は、その筆跡がドレフュスを有罪にした証拠文書の筆跡と同一であることを発見する。そしてドレフュスを立件した時の文書の筆跡鑑定をしたベルティヨンからも、同一であることの証言を得る。
 
ピカールは、早速,その証拠を固めて情報局の将軍に上申するが、あろうことか、今更蒸し返さないようにと命令される。ピカールは独自にドレフュス事件の再審査に動き始めるのだが,さまざまな圧力がかかりはじめ、防諜部は当然解任されて地方を転々と転属させられるようになる。ピカールは、かつてのドレフュスの弁護士と協力し、マスコミや、当時影響力のあった文豪のゾラも巻き込んで、事を大きくしていく。そして、有能で力のある弁護士ラボリも参加し、新聞にも次々と記事が載るようになるが、裁判所の判事らさえも将軍ら閣僚の肩を持ち、ドレフュスがユダヤ人であることも偏見として攻撃してくる。ドレフュスはパリへ戻されたものの、反逆罪という罪でさらに訴追され、ピカールも当然ながら罪をかけられていく。ピカールはアンリに決闘を申し込みその場で決闘に勝つ。まもなくしてアンリは、ドレフュス事件での文書偽造を告白するが獄中で自殺する。しかし、ピカールらが将軍らを追い詰めていた矢先、ラボリ弁護士が何者かに殺されてしまい、裁判は政府側の勝利に終わってしまう。ドレフュスは収監され、ピカールも有罪となる。
 
しばらくして、恩赦が行われることになり、ドレフュスはその恩赦で釈放されるもの、正義を貫くピカールは,その恩赦を拒否する。そして,時が経つ。軍に戻ったドレフュスは、今や閣僚となったピカールを訪れる。そして、無実で収監されていた年数を考慮して階級を上げてほしいと言うが、ピカールは、それは法的に出来ないと退ける。二人はその場で別れ二度と会うことはなかった。こうして映画は終わる。
 
中身のぎっしり詰まったストーリー展開で、次々と出てくる人物や証拠書類などがてんこ盛りで混乱しそうなのですが,あまり個別のことにこだわる必要のない脚本の組み立てはさすがに見事で、中心の物語がぶれずにラストへなだれ込んでいくのは素晴らしい出来です。エピローグのピカールのドレフュスへのさりげない受け答えがこの題材を扱った理由なのかと思えました。