くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「サイレント・ナイト」「ファイブ・デビルズ」「ザ・メニュー」

「サイレント・ナイト」

緊張感あふれるサスペンスというより、どこかブラックユーモア的な作品でした。毒ガスが迫ってきて、世界中の人間が死を覚悟し、安楽死のためのピルを飲んで最期を迎えるまでのジタバタを、恐怖だけでなく、生に執着する姿を描いた感じが不思議な空気感で漂う映画。楽しめるというか人間の本能というのはこういうものだなと真面目に見てしまいました。監督はカミラ・グリフィン。

 

ネルとサイモン、息子のアート、双子のトーマスとハーディが暮らす郊外の邸宅に、友人達だろうか、ジェームズとソフィのカップルやトニーとサンドラ夫婦、お調子者の娘のキティ、レズのアレックスらカップルらがクリスマスイブを過ごすため集まって来る。サイモンは飼っている鶏を放してやっている。アートは人参を切っていて指を切り、人参が血だらけになる。ロシアだろうか他国だろうか、放出した毒ガスクリスマスにはこの地にも到達するというので最後の夜を過ごすためだった。

 

学生時代からの友人もいて昔話なども弾むが、アートはピルを飲むこと、毒ガスが迫っていることを素直に受け入れられない。ソフィは妊娠していてピルを飲むことでお腹の赤ん坊を殺すことになるからピルを飲まないと決めている。そんなソフィに戸惑う医師の夫ジェームズだった。

 

ネルの母リジーはここにやってこれず、一人実家で最後を迎えようとしていた。ネル達家族とビデオ通話した後、迫って来る毒ガスを見てピルを飲む。物語は、最後の時が迫って来るに従って、お互いの本音や、これまで隠していたことを暴露したりし始める。最後の最後に、アートは両親に反抗して家を飛び出してしまう。必死で追いかけるサイモンは、アートが車の中で死んでいる家族を発見して半狂乱になっている姿を発見する。

 

抱きかかえて帰ってきたサイモンだが、最後の時が迫っていた。それぞれのカップルがそれぞれの思いでピルを口に含んでいく。レズのカップルはアレックスの相手が、飲んだピルを吐いてしまったので、ナイフで刺し殺す。ソフィはジェームズに説得されて、ピルを飲む決心をする。双子のトーマスとハーディは父に無理ばかり言ってはピルを飲み下すコーラに文句を言ってサイモンを苛立たせる。

 

ぐったりしたアートを抱きしめていたサイモンは、アートが血だらけになって死んでいるのに気がつく。それぞれのカップルが死を迎え、外には毒ガスが覆って来る。時が経ち、外には雪が降り銀世界となっていた。カメラはベッドで死んでいるそれぞれのカップルを写していき、最後に血だらけになっているアートのアップになる。突然アートが目覚め映画は終わる。毒ガスが無害になったのか、アートがゾンビになったのか、ブラックなエンディングである。

 

シンプルそのものの展開の中に、ジタバタする人間達の本性を描いていく。ただそれだけなのに、退屈しないのは、迫って来る毒ガスというタイムリミットが存在するからだろう。上手い作りの映画だったと思います。

 

「ファイブ・デビルズ」

不思議な映画です。ホラーでもなくSFでもなく、LGBTをテーマにしたわけでもない。一人の少女の不安定な心理状態が作り出すファンタジックな物語という感じでしょうか。素直に褒めたり感動したりできないけれど、映像作りを楽しめる映画でした。監督はレア・ミシウス。

 

火事を見つめるレオタード姿の女性達の場面から、はっと目が覚める黒人の少女、湖上のハイウェイを走る車の場面が延々と続きタイトル。プールでのエクササイズをする場面、インストラクターのジョアンヌの傍でさっきの黒人の少女も踊っている。彼女の名前はヴィッキー、ジョアンヌの娘である。レッスンを終えた二人は湖に行き、ジョアンヌは寒中水泳に入り、母が低体温症にならないようにヴィッキーが監視している。夫のジミーは消防士で、この日、妹のジュリアをしばらく住まわさる段取りをしていてジョアンヌと喧嘩になる。ジュリアは、かつて放火の前科があり、同性愛者であるということもあってこの街を出ていたのだ。

 

ヴィッキーは、人一倍嗅覚が鋭く、母の匂いを瓶詰めにしたり、植物の匂いを瓶詰めにしたりしていた。ジュリアに部屋を譲ったヴィッキーはジュリアの持ち物から刺激臭のある瓶を見つける。その匂いを嗅いだ途端ヴィッキーは過去にタイムリープしてしまう。そこは、ジョアンヌとジュリア、友達のナディアの若き日だった。三人は体操部でこの日も練習をしている。しかしジョアンヌとジュリアは同性愛の関係だった。その真実を見てしまうヴィッキーは、ジュリアを追い出すために、カラスを煮たりした匂いの瓶をジュリアのベッドの下に置いて悪夢を見せたりする。

 

時折、タイムリープをして、ヴィッキーはジュリアとジョアンヌ、さらに父のジミーの若い頃を観察するようになる。ところが、過去のジュリアにはタイムリープしてくるヴィッキーが見えていて、その姿から逃れようとしていた。現実のジョアンヌはジュリアへの思いが再燃し、ジミーと喧嘩してしまう。ジュリアは去ることを決意する。ヴィッキーは、タイムリープした先で、ジュリアとジョアンヌは一緒にマルセイユに行くことにしたという会話を聞いてしまう。ジョアンヌがジュリアと、過去にマルセイユに行ったら、ジョアンヌはジミーと結婚せず、ヴィッキーは生まれてこないことになってしまう。体操部の発表会の時に戻ったヴィッキーは、この日ジュリアがジョアンヌを誘って旅立つ現場を目撃する。

 

ジュリアが車でジョアンヌを待つ姿をじっと見ていたヴィッキーをジュリアが見つける。クリスマスツリーに隠れたヴィッキーをジュリアは火で焼き殺そうとツリーに火をつける。その炎が線を伝って体育館にまで広がり、火事を起こしてしまう。その火事でナディアは顔に火傷をし、ジュリアはこの街を出ることになったのだ。

 

現在、ジョアンヌに学校へ送ってもらったヴィッキーは、過去へ行った時に見つけたピアスをジョアンヌに返す。不思議なことだが何かを納得したジョアンヌ。ジュリアはこの地を去る決心をする。ヴィッキーが授業を受けていると、持っていた匂い瓶から不吉な予感を感じる。その頃、ジュリアは、ヴィッキーが持っていたジョアンヌの匂いの瓶を持って湖に入っていくところだった。

 

危険を察知したヴィッキーはジョアンヌの車を止めて、湖に向かう。そして湖岸に打ち上げられ低体温症で倒れているジュリアを発見、ジョアンヌはジミーに連絡して救急車を呼ぶ。ヴィッキーは、ジョアンヌと一緒にジュリアを温めている時に、ジュリアがいないと生きていけないというジョアンヌの気持ちを確認する。救急車に乗せられたジュリアにジョアンヌについて行かせたジミーはヴィッキーを連れて家に帰りヴィッキーを抱きしめる。傍に黒人の女の子がじっと見ていた。この女の子はジュリアなのかどうか?こうして映画は終わる。

 

不思議な映画です。ハッピーエンドなのかどうかもはっきりしないし、SFのようですが、それもちょっと違うし、タイムリープを扱っているけれど、ただの幽体離脱にも見える。黒人であるヴィッキーがいじめられていたり、小人の教師がいたり、火傷で片目を失ったナディアなどなどの意味ありげな登場人物も出てくる。単純なスタイリッシュホラーという作品でもない気がします。その深い空気感が楽しい一本でした。

 

「ザ・メニュー」

相当に面白い不条理劇で、特に前半から中盤、メニューに仕込まれた毒が明らかになっていく様は、痛快かつぶっ飛んだ傑作に仕上がっています。ところが中盤から後半にかけて、少しネタ切れしたか息切れしたか、どんどんキレが悪くなり、特に、男性のみの逃亡劇からの終盤にかけてが本当に物足りない。どう変化して展開していくのかというワクワク感が少しづつ削がれていく感が残念。それでも、ラストの処理は上手いと思います。なかなかの一品でした。面白かった。監督はマーク・マイロッド。

 

ホーソン島のレストランに誘われたマーゴが船を待つ港でタバコを吹かせていて、タイラーに戒められるところから映画は幕を開ける。島まで渡る船には、かつての有名俳優や、有名な料理評論家、いかにも成金らしい男たちなど錚々たるメンバーが乗り込んでいき、タイラーはそれだけでワクワク感を隠せない。そんなタイラーを冷たく見つめるマーゴ。二人は恋人同士かと思うが、どこかおかしい。

 

島に着いて、受付をしていくが、マーゴは予定していたタイラーのパートナーではないらしく、最初は戸惑われるが、受付のエルサは仕方ないということでレストランに通される。巨大な扉で仕切られたレストランは、有名シェフジュリアン・スローヴィクが極上の料理を出す、予約もなかなか取れない孤島のレストランだった。しかし、まるで軍隊のような手際良さと規律で仕切っていくスローヴィクの料理には、どこか違和感の漂うものがあった。

 

料理が進むにつれて、突然、副シェフが自ら銃で自殺したり、誰も知らないはずの客の不倫現場の写真や不正経理の帳簿などなどがタコスに映されていたり、味よりもパフォーマンスの中に毒が見え隠れし始める。マーゴはそんな中、平然と料理を楽しむタイラーにも釈然としないものを感じていた。一方スローヴィクは、マーゴが本来招待した客ではないことに不審を持ち始める。

 

やがて、スローヴィクは、このレストランのオーナーさえもレストランの外で海に沈めてしまい、全ての客もスタッフも今宵限りで死んでもらうことになっていると宣言する。若き日に脚光を浴びて持ち上げられ、何もかもを捨てざるを得ないままにこの地位にのぼらされたことに対する非難と復讐劇であるようだった。レストランを出ようとするもガラスは割れず、余計な反抗をすると指を切り落とされたりする。一方で、スローヴィク自身の非に対しても鋏を刺されて罰を受けたりもする。

 

外に出された客たちの内男性については45秒間だけ逃亡の機会を与えられるが結局捕まってしまう。このシーンの意味がよくわからない。実はタイラーは、最後に全員が死ぬという今回のメニューを知った上でマーゴを雇って連れてきたのだ。タイラーはスローヴィクに無理矢理シェフにさせられて料理を作らされた挙句にスローヴィクに罵倒され自殺してしまう。

 

マーゴはスローヴィクの指示で燻製をとりに行かされるが、受付のエルサを殺した上、シェフの部屋の鍵を奪って部屋に忍び込み、無線を発見して助けを呼ぶ。間も無くして無線を聞いて警備隊の職員がやって来るが、実は彼もスローヴィクの仲間だった。そして最後の一品を残すのみとなったところで、マーゴは全く空腹が満たされないからとスローヴィクに平凡なチーズバーガーを作らせる。そして食べきれないからとテイクアウトを要望して、一人レストランを出て行く。

 

レストランでは、客たちは覚悟を決め、自らが最後のデザートとなるべく、スローヴィクのされるままに飾られて、火をつけられる。対岸に着いたマーゴは炎と爆発で燃え上がるレストランを眺めて映画は終わる。

 

なんともシュールな不条理劇で、前半は実に面白いのですが、なぜこの客たちが呼ばれたのか、スローヴィクの復讐の動機が見えてこない上に、後半のエピソードがちょっとアイデア不足になっていくのが実にもったいない。もう一工夫、もう一捻りしてくれたら傑作になり得た映画だと思います。でも面白いし、アニヤ・テイラー=ジョイの個性爆発の一本です。