くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ザリガニの鳴くところ」

「ザリガニの鳴くところ」

ベストセラー小説の映画化と、鳴物入りの宣伝文句もあり、期待して観に行ったのですが、そこまで騒ぐほどの出来栄えではなかった。原作が映像として昇華仕切れていないのだろうと思います。でも、映画としてはそこそこに良質のいい作品だし、湿地帯の風景を挿入した絵作りも良い。難を言えば、湿地帯での物語と法廷での物語のトーンが区別されていないために全体にメリハリが見えず、非常にもったいない仕上がりになっている。エンディングもなんとなく予想ができるのはちょっと脚本の甘さでしょうか。監督はオリビア・ニューマン。

 

1969年ノースカロライナの湿地帯、少年が自転車で走り抜けた先に湿地帯を監視する塔があり、その下で死体を発見するところから映画は幕を開ける。死体は地元の名士の息子チェイスだった。真っ先に疑われたのは、湿地帯で一人暮らしをしている女性カイアだった。この地域ではカイアのことを、湿地帯の女として蔑んでいた。保安官がカイアの家に行き、そこで、チェイスの死体に付着していた赤い繊維を使った帽子を発見し、カイアを犯人と断定する。保安官の姿を陰から見ていたカイアは逃げるもののすぐに捕まり、裁判となる。弁護士を引き受けたのは引退間近の老弁護士トムだった。トムは、カイアが幼い頃、道で彼女に優しい声をかけたこともある人物だった。

 

裁判が始まると共に、カイアの6歳の幼い頃の物語が語られて行く。優しい母や兄、姉らと湿地帯で暮らしていたカイアだが、何かにつけ暴力を振るう父に家族は恐怖を感じていた。そしてとうとう母は一人家を出ていき、続いて姉達や兄達も出て行ってしまう。最後に残った兄ジョディもカイアを残して出て行くことになり、父に暴力を振るわれそうになったら、ザリガニの鳴くところまで逃げればいいと言葉を残す。そんな頃、カイアは湿地帯でカイアと同じく湿地帯の生物に詳しいテイトという少年と知り合い親しくなる。カイアと父はしばらくは平穏に暮らしていたが、父はテイトと付き合うことに反対し、カイアとテイトは疎遠になっていく。

 

ある日、母から手紙が届く。その手紙を読んだ父はその日からカイアに冷たくあたり始め、やがて父もカイアを残して出て行ってしまう。のちにわかるが。その手紙は、余命幾許見もなくなった母が子供を引き取りたいという内容だったらしい。一人残されたカイアは、ムール貝をとって、湿地帯の中で雑貨店を営むジャンピン夫婦のところへ売りに行き生活を始める。主人のジャンピンは家族に捨てられたカイアを可愛がり、何かにつけて助けてやるようになる。

 

時が経ち、カイアは大人の女性へと成長していた。その頃、立派な若者になったテイトと再会、鳥の羽を目印にしてお互い連絡し合うが、そのうち二人は普通に恋人同士になって行く。テイトは、カイアが書いている生き物スケッチを見て、ぜひ本にすべきだと出版社のリストをカイアに渡すが、カイアはあまり興味を示さなかった。

 

まもなくして、テイトは町の大学に進学することになりカイアの元を去ることになる。しかし一ヶ月後の独立記念日には帰って来ると約束するが、その日、テイトは戻ってこなかった。失意の中、この湿地帯が開発の対象になっているらしいというのをジャンピンに聞いたカイアは、自宅の名義を確認、延滞税を納めればカイアの名義になると教えられ、かつてテイトに教えられていた出版社へ自身のスケッチを送る。そんな頃、地元の名士の息子チェイスと知り合う。

 

どこか危険な匂いがしていたチェイスだが、優しさにほだされカイアはチェイスと恋人同士になって行く。海岸でデートの時、チェイスが拾った貝殻が珍しいもので、カイアはそれを革紐に繋いでネックレスとしてプレゼントする。しかし、チェイスが片時も外すことがなかったこのネックレスは、死体発見時、首になかった。

 

1969年、テイトが戻ってくる。たまたまチェイスがカイアの悪口を言っているのを耳にし、カイアに忠告に行くが、自分を捨てたと思っているカイアはテイトの言葉を聞こうとしなかった。

 

一方、出版社から連絡があり、カイアのスケッチは本として出版されることになる。そのお祝いをしようと街に買い物に行ったカイアは、フィアンセと一緒にいるチェイスと遭遇する。ショックを受けるカイアは自宅に帰るが、チェイスが追ってきた上に、カイアの家がメチャクチャにされる。カイアは、出版社との打ち合わせで街に行くことになり、バスで出かける。

 

一方、テイトは、過去のことを謝り、湿地帯の近くの研究所で働くことになったので、もう一度つき合いたいとカイアに告白、一時は拒絶したカイアだが、テイトへの思いは消えていなくて再び二人は恋人同士になる。

 

過去の物語を回想していきながら法廷シーンが被り、検事側の執拗な尋問で、元々あるカイアへの地元の人々の偏見もあり、半ば無理矢理ながらもカイアは有罪になろうかという雰囲気になるがトムの見事な反対弁論の末、カイアに無罪判決が降りる。

 

カイアはテイトと結婚し、幸せな家庭を築く。時が経ち、二人の子供も成長し、やがてカイアとテイトも老年を迎える。一人ボートで湿地帯に出た年老いたカイアは、かつて出て行った母の姿の幻覚を見る。もどったボートに駆け寄ったテイトは、そこに妻カイアの亡くなった姿を見る。

 

失意の中、カイアの遺品を整理していて、スケッチブックに目が留まる。ページをめくった終わりのあたりにあったのはチェイスの姿と、カイアがテイトにプレゼントした貝殻のネックレスだった。真犯人はやはりカイアだった。こうして映画は終わる。

 

美しい湿地帯の景色と法廷シーンを交互に描きながら、カイアの幼い日々から二人の男性との出会い、そして人生の終盤まで淡々と綴る映像は一遍の詩篇の如く清らかです。もう一工夫、演出と脚本に冴えがあれば傑作になり得たかも知れず、おそらく原作には丁寧に描写されているであろうカイアの事件当時に行動や、弁護士トムの思惑、地元の人々のカイアへの偏見などがあっさりと流しているのがもったいない気がします。でもいい映画でした。