くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「鉄くず拾いの物語」「新しき世界」「森の中の淑女たち」

鉄くず拾いの物語

「鉄くず拾いの物語」
ボスニア・ヘルツェゴビナを舞台に描かれる夫ナジフと妻セナダのシンプルなドラマである。監督はダニス・タノヴィッチ。

鉄くずを拾いながら、その日暮らしに近い生活をするナジフ夫婦。ある日、セナダが腹痛を訴え、病院に行くと、流産で、緊急手術が必要だといわれる。しかし、手術費用が払えないというと、手術をことわられる。

病院へ行く途上で、道ばたに原子力発電所の巨大なドームが写され、工業化が進む一方で、底辺で暮らす人々の悲哀が、素朴で美しい自然を好対象にして描かれる映像は、確かに映画であるが、ドキュメンタリーでもある。

実際、カメラは手持ちであり、二人の子供たちの動きも、自然そのもの。主人公たちの行動も、演技をつけられていない自然さがある。しかし、坂の下から見上げるカットや、雪景色の中を走る車、霜で覆われたボンネットなど、詩的ともいえるカットもふんだんに挿入される。しかし、そこには、美などはなく、ひたすら現実の厳しさとして目の前に存在するのである。

結局、義妹の保険証を借りて、別の病院で手術を受け、無事戻ってくるが、薬代と電気代のために自分の車を解体し、ひとまず一段落して、薪を切って部屋に入るセナダのカットでエンディングとなる。

執拗に、手術を断る病院の姿、保険証さえも受給されない社会保障、一方で進む工業化の波、その矛盾を的確に描いた映像は、確かに、しっかりとしたメッセージが存在するが、いかんせん、胸を打つ一方で、何か、やるせないのである。


「新しき世界」
潜入捜査して8年がたつ警察官ジャソンと組織で彼を慕うチョン・チョン、ジャソンの上司のカン課長らの物語を描く韓国映画。どこかで聞いたようなストーリーである。監督はパク・フンジョン

香港映画「インファナル・アフェア」を思わせる導入部の設定であるが、さすがに韓国映画、全然違うし、例によって、血塗れの男のどアップから映画が始まるというグロテスクさ。

犯罪組織ゴールドムーンの幹部であり、警察の潜入捜査官のジャソンは、上司のカン課長の指示で情報を流していた。そんなゴールドムーンの会長が殺され、そのナンバー2が一端は会長になるムードだったが、ここでカン課長は一つの計画を立てる。ジャソンをゴールドムーンのトップにして、警察の傘下にしてしまおうとするものである。そしてその計画を「新世界」作戦とするのだ。

こうして、ジャソンたちの抗争が始まるが、彼には兄貴分として慕うチョン・チョンという中国系の幹部がいる。チョン・チョンは中国人ハッカーから警察組織の情報を手にし、組織の裏切り者を殺すが、実はジャソンのこともそのときに手に入れる。しかし、弟分としてかわいがるチョン・チョンはその情報を金庫に隠す。

しかし、やがて抗争の末にチョン・チョンが襲われ、その死の間際に、ジャソンに選択することを進める。そしてジャソンは、カン課長も殺害し、じゃまになる幹部をすべて殺して、会長の職に就き、ゴールドムーンの総帥としていきる道を選んでエンディングである。

エピローグに、チョン・チョンとジャソンが若き頃のチンピラ時代が語られるが、6年前とテロップがでる。チンピラが警察に?あれ?というところだが、まぁ、さらっとながそう。

映像はふつうであり、アクションシーンも何の工夫もなく、烏合の戦いである。ただ、ストーリーは昔懐かしいフィルム・ノワールであり、その意味ではみて損のない、楽しめる映画だった気がする。


「森の中の淑女たち」
一人をのぞいてすべて素人の老人を使い、脚本なしで描く個性的な一本。監督はカナダのシンシア・スコットという人である。

映画が始まると、霧の中を歩いてくる老婦人たち、タイトルの後、一台のバスで、この老婦人の一人が持っている森の中の家を見に行くことになったというナレーションが流れる。

程なくして、バスが故障し、8人は、なんとか森の中の小屋へ。周りは山と草原、そして池だけ。8人は、魚を捕ったり、キノコを食べたり、蛙を捕ったりしてとりあえず生活を始める。バスを直そうとしたもののうまくいかない。

それでも8人は、絶望という顔色はなく、淡々と、過去を語ったり、今、この生活を楽しんだりする。詩的な構図で草原の中の老婦人をとらえたり、池の端で魚を捕る仕掛けを作るシーンを見せたり、そのあっけらかんとした潔さがこの映画の魅力の一つです。

同性愛の婦人もいれば、修道女だった女、わけありの境遇の女性など様々ですが、劇的に語られることはない。

やがて、意を決した修道女が、一人で助けを呼びに旅立つ。そして、やがて一機の飛行機に乗って戻ってきて、みんなが霧の中歩いていってエンディング。

不思議な映画である。詩情あふれるファンタジーのような世界でもあり、現実から完全に隔離された一瞬をとらえたような感じもする。しかも、映画として成り立っているのですから、いろんな映像表現があるものだと思います。