くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「フォーガットン」

ジョセフ・ルーベン監督、シュリアン・ムーア主演のホラーサスペンス。といううたい文句と宣伝フィルムのおもしろさから公開を待っていた作品でした。
しかし、映画情報サイトの「ごらんになった方の満足度」が非常に悪い。滅多にそういうことがないだけにかなり不安があったのですが、好みのジャンルでもあるし、ゲイリー・シニーズは好きな俳優さんなので見に行きました。

かつて、「エクソシスト」に始まったホラー映画ブームの時にイタリアの作品で「ザ・ショック」という映画がありました。
物語性や芸術性などを重要視せず、ただびっくりさせることを主眼においたようなB級ホラーでしたが、私は今回の「フォーガットン」でその映画を思い出しました。

とにかく、どきっとさせるシーンを演出が見事。というか、かつてこの手のどきっとさせるシーンはホラー映画の常套手段として常に使われていたのに、最近やたら理屈や映像にこった作り方で観客を驚かそうとする監督がやたら多くなり、こうした五感に訴えるようなシーンを作る人がいなかったのです。

物語は息子を飛行機事故で亡くした母親テリー(ジュリアン・ムーア)が悲嘆にくれている場面から始まります。
忘れようにも忘れられない息子、しかし物語は意外なところから急展開するのですが、あらかじめ宣伝フィルムで大筋を知っている観客としてはまあ、自然とその流れに入っていきます。

夫と3人で写っていた写真から息子が消えている。周りの人に効いても、もちろん夫に効いても息子など最初からいなかったという言葉。
さらに息子を亡くしたときからかかっている精神科の医師(ゲイリー・シニーズ)も息子など以内という言葉。

主人公が唯一信じた、同じ飛行機に乗り合わせた娘を持つ父アッシュ(ドミニク・クェスト)とその真相を探るべく奮闘するのが物語なのですが、まず最初に二人が来るまで逃げるところで二人の会話が続く場面から、突然路地から車の真横につっこんでくる国家保障局の車のシーンにあっと言わされるのです。

このカット展開が実にうまい。リズムが見事なのかタイミングの編集がうまいのか、とにかく、思わず後ろにのけぞってしまった。
この後にも、彼らの行動を信ずるようになった黒人警官ポープ刑事(アルフレ・ウッダード)が突然大空に飛ばされるシーンもみごと。
タイミングがうまいのか、テンポが絶妙にうまいのか。分析のしようがない。ジョセフ・ルーベン監督の他の作品で調べてみる値打ちがありそうである。

さらにこの作品、名作ホラーのパクリのようなシーンも多々でてくる。
クライマックス、飛行機倉庫の中でジュリアン・ムーアが息子が走り去っていくのをみるシーン。倉庫の柱の影が何本も斜めに差し込んで、その中を走り抜けるシーンは非常にシュールリアリスティックであるが、この場面はヒッチコック監督の「白い恐怖」でサルバトール・ダリが描いた夢のシーンに非常に極似している。

さらに異星人から使わされた男ライナス・ローチがジュリアン・ムーアの首筋を捕まえて宙ぶらりんにつり上げて脅す場面。ローチがななめにじっとムーアを見上げて無表情に見つめる場面はジョン・カーペンター監督の名作「ハロウィン」でブギーマンが初めて家に入り殺人を犯す際に同じように首を捕まえて宙づりにし無表情に見上げる場面があるが全く同じである。

前後するが、その前にライナス・ローチがジュリアン・ムーアに絶叫を浴びせ両面のガラスが飛び散る場面は明らかに「マトリクス」である。

物語の全体を俯瞰で追う場面はアルフレッド・ヒッチコックが好んで使ったアングルであるし、かつての名作ホラーの決定的なシーンを実によく研究しているのがわかる。
ラストシーンはネタ晴れになるのでこれ以上書きませんが、果たしてジュリアン・ムーアが精神の異常であったのか?どうかという曖昧な部分の演出が不十分でしたね。あっけないといえばあっけない。