くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「くじけないで」「青べか物語」

くじけないで

「くじけないで」
この手の映画を作らせると、深川栄洋監督は本当にうまい。元々深川監督のファンでもあるので見に行きましたが、光の演出、ゆっくりと夕日が差してきて、手紙に色合いをみせるなどのほのかなシーンは絶品である。

物語は90歳を越えて、詩集を発表し、それが話題になった柴田とよさんの書いた詩集を元に、一人の女性の半生を描いた人間ドラマである。

草原を一人の少女が歩いているシーンで幕を開け、すでに90歳を越えた柴田とよさんの現在へと物語が進んで映画が始まる。

競輪やパチンコにうつつを抜かすだめ息子、夫が死んで一人になったとよは、なんの生き甲斐もなく、ぼんやり毎日を過ごしている。ところがある日、息子の健一がそんな母親に詩を書くことを進める。

こうして本編が始まるが、徐々に過去にさかのぼりながら、詩を書きためていくとよの姿を、ゆっくりと、そして優しい映像でみせていくのである。それはどこかに忘れてしまった日本人の心、家族の暖かさなのではないでしょうか。じわじわと胸に迫ってくる映像と物語は、これという派手な場面もないのに、いつの間にか、引き込まれ、胸が熱くなり、涙があふれている。

詩集が自費出版され、そのパーティの席上でエンディング。エンドタイトルに、亡くなられたとよさんの墓の前に集まる実際の息子達の姿が流れる。

この映画はやさしくなれる。いい映画だと思う。よかったなあ。


青べか物語
山本周五郎原作の人情ドラマ、監督は名匠川島雄三である。

京葉臨海工業地帯へと変遷していく時代を背景に、千葉県の裏粕の古い漁師町を舞台に描かれる。
そこで生きる様々な人間くさいエピソードが淡々と、しかし、なぜかどんどん引き込まれる。

私と称する一人の作家が裏粕橋をわたって、この昔ながらの下町のような村にやってくる。映画はまず、東京の近郊の千葉の海岸地帯を俯瞰でとらえ、一人の男が橋を渡るシーンで物語の中に引き込む。村に入ったとたんに、調子のよい男に青べかと呼ばれる小舟を買わされ、それを物語のきっかけにして、ドラマが次々と生まれていく。

この男の視点を通じて、そこで繰り広げられる、たわいのない、しかしながら、どこか、生きた人間においのするドラマの数々が、軽快でモダンなリズムで語られるのが、なんとも生々しいのである。

これという奇抜な演出は行われないが、登場人物それぞれが、実に生き生きしている。その日暮らしの貧乏人という雰囲気ながら、図太いほどの旺盛な生活力と、たくましい生きざまは、人間の本来の力強さを見せつけられるようである。これが川島雄三の描く人間の姿だと思わずうなってしまうから、全く対したものである。

いくつかの人々の物語が、絡み合い、重なり合いながら、作家先生の周りで繰り返され、やがて、作家はこの村を去っていってエンディングである。

この観賞後の何ともいえない充実感と、見応え感はなんだろうと感じられれば、この映画の良さが理解できたのかもしれない。名作とはこういうものである。