くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ウィークエンド」「オレンジと太陽」

ウィークエンド

「ウィークエンド」
ジャン・リュック・ゴダール監督作品であるから、例によってあって、ぶっきらぼうな物語はあるようでないようなストーリーとして展開する。特に、この作品で物語映画からの脱皮といっているくらいだからよけいにシュールな映像があふれるのである。

字幕、音、映像の反乱がスクリーンの中で炸裂する。青、黄、赤の色彩が画面の至る所にちりばめられ、即興で演出する長回しによるカメラワークが独特のリズムを生み出していく。

俯瞰で見下ろしショットから映画が始まり、したでは車の運転手同士がトラブルを起こしている。主人公のコリンヌとロランが週末の旅行に出かけるというのが筋書きである。

途中、延々と続く渋滞を横目に走っていくと、事故を起こした血塗れの死体やらが移される。で崖に大減価した隣人には猟銃で追いかけ回される。などなど支離滅裂なエピソードが機関銃のように展開していく。

ヒッチハイカーをのせれば強盗されるし、田舎に着いたものの母親を殺してしまうが、帰り道でロランは殺されその肉をコリンヌが食べるというグロテスクな展開まで用意されて、ぶっきらぼうに映画が終わる。まさにゴダールの世界である。

これがゴダールだといわれればそれまでながら、正直なところ、単純なストーリーのある商業映画に慣れ親しんでくると非常に退屈だといわざるを得ない。

物語があるようで、現実なのかファンタジーなのか、その混沌とした狭間にあふれる感性で描かれる映像展開に酔いしれることができればこの作品を鑑賞し得たといえるのではないでしょうか。わけがわからないまでも不思議とその映像のリズムはしっかりと心に焼き付いてくれる。これが凡作と佳作の違いというのかもしれません。

「オレンジと太陽」
名匠ケン・ローチ監督の息子ジム・ローチ監督のデビュー作である。1970年までイギリスとオーストラリアで行われていた児童の強制移民の問題を扱った社会ドラマである。

一人の女性の手元から赤ん坊が取り上げられ政府らしい役人の手に渡るシーンから映画が始まる。そしてタイトルと解説。

燦々と太陽に照らされるオーストラリアの景色と落ち着いたたたずまいの町並みのイギリスの風景を対比させながら、シリアスな物語を丁寧な映像テンポで描いていく演出力はさすがに天性の才能であると思います。主人公のハンフリーズのストレスが最高潮になったあたりで車の中で流れてくるラジオの歌にあわせて大声で歌うシーンを挿入するあたりのリズム感性はみごとです。

福祉カウンセラーをする主人公ハンフリーズがその日のカウンセルを終えてでたきたところへ一人の女性シャーロットが現れ、幼い頃に強制的にオーストラリアへ移民させられたが、最近弟の存在を知ったと訴えてくるところから一気に物語の本編へなだれ込む導入部はみごと。

そして、その弟ジャックと資産家らしいレンを主人公の脇に配置してストーリーを語っていく展開は実にストーリーテリングのなんたるかを熟知した脚本のなせる技で、非常にわかりやすい展開になっている。しかもおざなりになるハンフリーズの家庭の様子はあまり深く描写せず、理解のある夫を表に登場させてさりげなく流していく。ただ、ラストシーンで、クリスマスにオーストラリアの施設に呼ばれた家族に現地の移民させられた人たちがハンフリーズの息子に「みんなにクリスマスプレゼントは?」と聞かれ「ママをあげたよ」と答えるシーンには胸が熱くなりました。

少し間違うと偽善的で嫌みなキャラクターになってしまう主人公のような女性の描写がその微妙なバランスで見事に描いていく演出はなかなかのもので、さすがにケン・ローチの才能を受け継いでいるのではないかと納得してしまいます。

こういう問題がイギリスとオーストラリアにあることは全く知らなかったので、その意味でも非常に勉強になりましたが、個人的に、こういう知的な女性の社会運動の物語は好みではないので、作品の出来映えとは別にあまり好きな映画ではありません。