くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「犬神家の一族」

犬神家の一族

1915年生まれと言うから今年91才である。誰のことか?本日見に行ったリメイク版「犬神家の一族」を監督した市川崑監督のことだ。
自ら1976年に作った「犬神家の一族」を再度リメイクしたのである。

記憶違いかもしれないが、旧作の「犬神家の一族」はワイドスクリーン横長であったように思いましたが、今回のリメイク版はいわゆるビスタサイズという形である。
冒頭シーンから、最近よくあるデジタル処理された半ポジ風のモノクローム画面で事件の発端となる犬神佐兵衛の臨終場面から始まる。映像派でならした市川崑監督ならではといいたいが、今やこの手の処理はテレビのサスペンスドラマでも多用されている。

しかしながらこのあとはさすがに市川監督、ほとんど色彩を感じさせない落ち着いた色調でカラー場面が展開、しかし赤にこだわったのか、赤色のもの(血、パトカーのランプなどなど)は真っ赤に映るように演出している。この辺はどこかオリジナル版を思わせるノスタルジーが感じられました。しかしながら、やはり市川崑監督といえば機関銃のようなセリフとオーバーラップさせながら切り返す細かい場面展開にありますね。今回のリメイク版でもその個性は最大限に発揮されていて、市川崑、ここにありでした。

物語はご存じのように信州の製薬王犬神佐兵衛の相続に絡むおどろおどろしい連続殺人事件である。菊人形に飾られた生首のシーン、屋根の明かり取りにおかれた肢体のシーン、そして有名な湖に逆さに投げ込まれ足が二本だけ出ている肢体のシーン。このあたりはオリジナル版が公開された1976年当時ではまさに斬新かつショッキングなシーンでしたが、今時、こんな場面よりももっと残酷な事件が多発している中ではあまりインパクトはありません。といっても、横溝正史の原作があるのですから、どう変えるということもできないのですがね。

そんな時代背景もあって、横溝正史独特の伝奇世界も映画の中ではリズムを生み出すに至らず、しかも今回のキャストがやや芸不足で、石坂浩二加藤武などのオリジナルメンバーが個別に浮き上がっていて、サスペンス劇場に出演しすぎて演技力がなまった萬田久子にせよ、もう少し演技をつけてあげればもっと生きると思える深田恭子にせよ、周りの脇役がどうも力足らずであった。

松嶋菜々子の美貌は確かにひときわ光るのであるが、それもどこか浮いている。キーとなる青沼静馬(または佐清)の存在感がもう一つで、ドラマを盛り上げない。中村敦夫の三枚目的な弁護士の姿も胴にはまっていない。
さすがにここまで痛々しいと市川崑監督のご高齢が原因と思わざるを得ない。何とか二時間超の作品を演出したものの、ラストシーンだけが妙にしんみりとして、石坂浩二の後ろ姿が、なぜか寂しげだったのは、「もうむりみたいだなぁ」と市川監督やそのほかのオリジナルメンバーが寂しくうなだれているような感情が伝わってくるようだった。

思い起こすと、約6年前に演出した「どら平太」はさすが市川崑監督!おみごと!と拍手したものですが、やはり90才を越えると厳しいのでしょうか?