くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「夜の儀式」「叫びとささやき」

叫びとささやき

見ていると思っていたイングマール・ベルイマン監督の「叫びとささやき」を本日初めて見ました。
実は「夜の儀式」を先に見ていたのですが、「叫びとささやき」に圧倒されたので先に書きます。

深紅といっていい真っ赤と真っ白な部屋、そこに横たわる次女アグネス。まもなく息を引き取ろうとする彼女のそばに献身的なまでに世話をしてきた女中アンナ、そして、夫との愛に枯れ、人を信じること、兄弟さえも信じることを捨てた姉カーリン、そして自殺未遂までした夫をかかえ、通いの医師と欲望のままに不倫を続ける妹のマリアが付き添っていた。

この作品はカラー作品で、しかもカメラはスヴェン・ニークヴィストという人で、昨年亡くなりましたが、光の魔術師といわれるほど美しいシーンを作り出すカメラマンなのです。

話は戻りますが、部屋の調度品は黒炭のような北欧風の家具でそろえられ、姉妹のドレス、ネグリジェはすべて白、壁の白と深紅が重なって、これこそ芸術と言わしめるほどの色彩美の世界が展開します。
時折聞こえるどこからともわからないささやき声、クローズアップから真っ赤な色彩でフェードアウトするショット、徹底的にこだわり続けたイングマール・ベルイマンの色に対する観念が爆発しています。

冒頭、時計の音から画面は始まり、一つ、また一つと時計の針が映し出され、やがて次女の臨終に集まった姉や妹のいすに横たわる姿、そして次女のベッド、ここまでのシーンは全くの無音でしかもかなり長い。そして、次女アグネスの独り言、日記を走らせるシーンなどが挿入されて、時折、子供時代の思い出などが美しい黄色や緑の色彩で描かれます。

交錯する姉妹たちの心の葛藤やアグネスが病に苦しむ叫び声、長女カーリンがワイングラスのかけらで秘部を傷つけ、ベッドの上で血まみれの股間を夫に見せるショッキングなシーンなどなど、ワンシーンワンシーンの強弱とささやき声、叫び声、時計の音などの音の効果、さらに目の覚めるような色彩シーンのリズム、これが芸術なのだと圧倒されました。

クローズアップを多用しますが、鏡のシーンは姉のカーリンが自分の部屋でドレスを脱ぐときの三面鏡に映る自分とアンナの姿の場面に限定され、しかもそのシーンの構図の見事さに圧倒されます。

クライマックス、死んだはずのアグネスの声がアンナ、カーリン、マリアを呼ぶシーンにさらに衝撃を受け、おそれおののくカーリンやマリアをあとにアンナだけが優しくアグネスの体を抱きかかえるシーンが美しい。

すべてが終わり、叫びもささやきも沈黙に帰したあとアンナがアグネスの日記だけを手にするラストシーンは感激である。
DVDがほしい。そんな思いにはまってしまった傑作でした。今まで見ていなかったことが悔やまれます。そしてベルイマンにはまりそうです。


もう一本が「夜の儀式」、30年近く前に見たことがある作品ですが、これもほとんど覚えていませんでした。
エロティックな無言劇「儀式」を演じた罪で捕まり、判事の前に出される三人の俳優たち。
まずは、判事が机の前でその顛末を語るところから始まります。

やがて三人が長いすに座って、一言二言今回の出来事を述べます。
第一幕、第二幕と舞台進行のように進んでいく形式で、それぞれの俳優がクローズアップでほとんどの場面を演じていきます。

ある時は狂ったように叫ぶ女優テア(イングリッド・チューリン)、突然汚い言葉でののしり始める看板男優セバスティアン、落ち着いてはいるが、裏に策略を張り巡らすマネージャー兼俳優のハンス。
彼らを、ある時は鋭い頭脳で見事に供述させていく判事であるが、自らも神や自分の存在に疑問を感じ、また、死を身近に感じて、今の自分と葛藤している。突然、セバスティアンに責められたり、テアに迫られたりと立場さえもが入れ替わりながらの展開で、何ともものすごい熱気の映画です。

クライマックスは、舞台で演じた「儀式」を判事の前で演じる下りとなり、その中に判事は埋もれながらやがて、心臓発作で死に至ります。

この作品は先ほども書いたように全編がほとんどクローズアップで、しかも判事の部屋から出ることも少ないいわば舞台形式のドラマ展開です。ラストシーンの「儀式」の仮面などはまさにベルイマンならではの世界というべきでしょう。

画面いっぱいに迫る俳優たちの顔はその表情だけでも圧倒される上に、心と心のぶつかり合いと、人間に対する矛盾の露呈が入り乱れて、何とも表現しがたいベルイマンの世界がぐいぐいと迫ってくるのです