くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「さくらん」

さくらん

舞台演出家としてのカリスマ蜷川幸夫の娘にしてフォトグラファー蜷川実花が映画初演出。当然映画ファンとしては色眼鏡で見てしまう。どこかに欠点はないか、かつて[CASSHERN」の紀里谷監督のような独りよがりになっていないかと目を皿のように見てしまいました。

ところが、なんと、見事な映画。最初から絢爛たる映像絵巻が展開し、金魚などのインサートカットが効果的に挿入されていきます。最近の映画監督はこのインサートカットが非常にへたくそなのですが、この蜷川実花監督はそれを何の無駄もなく挿入してきました。

前半部分、短いカットの積み重ねを入れ、さらに女性の視点と思わざるを得ない風呂場のシーンでの女性の裸の山。このシーンも全くいやらしさが見られないカメラアングルはやはり女性の視点だからでしょうか?

そして圧巻は主人公きよ葉(土屋アンナ)がおいらん日暮に変わってからの物語展開です。
前半部分まで影の存在できよ葉を見守ってきた安藤政信の清次が次第にその存在感を面に出してくるとともに、椎名桔平の殿様が何の不自然もなく物語に登場し、クライマックスへ導いていきます。

何ともこの物語構成のうまさはタナダユキの初脚本のうまさによるところ、さらに蜷川実花監督の演出のうまさによるところが大である。

前半に比べ後半は明らかにカメラアングルやカットの組み立てを変えてきている蜷川監督の演出はまさに映画演出の常道にかなった基本通りの演出で、それがすんなりと登場人物の入れ替わりを観客に伝えてきます。それに写真家でもある蜷川実花監督の画面構図のうまさは絶品、しかもストーリー展開の中でも鼻につかない。このあたりは名演出家蜷川幸夫氏の舞台を幼い頃から見てきた中で自然と身に付いた力によるものかもしれません。

また、[下妻物語」でヤンキーながら純真な不良娘を演じた土屋アンナですが、この作品では彼女の演技力のうまさを見せつけてくれました。
肩で演技ができる人は今までで名優ショーン・ペンしか知りませんが、この土屋アンナはそれをやってのけました。少々がらがら声のおいらんですが、その不自然さを物ともせず、いや長所にして、それとなく見せる肩の線の動きで主人公の心の微妙な変化を訴えてきます。

もう一つ、椎名林檎の曲の見事なこと。完全に物語にとけ込んで、しかも映画をモダンにするわけでもない。このあたりは[マリーアントワネット]とは正反対である。
オーソドックスな時代劇でありながら、若い主人公たちを引き立てるように流れる音楽効果はお見事。この音楽の使い方にも蜷川実花の力量がかいま見えたのかもしれませんね。

どこをとっても、あら探しのしにくいなかなか名の秀作が完成しました。いい映画でした