くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「彼女の人生は間違いじゃない」「心に吹く風」

kurawan2017-07-21

彼女の人生は間違いじゃない
要するに東日本大震災で被害を受け、帰れなくなった人たちの行き場のない殺伐とした今を描く群像劇である。いくつかのエピソードはそれぞれ独立していて、特に絡み合ってくるわけでも関連性があるわけでもない。主人公と思われる東京へ夜行バスで出かけてデリヘル嬢をするみゆきの姿に、周りで描かれる物語の背後のテーマを語らせるという手法だろう。

確かに、しっかり練りこまれた物語ですが、どうも福島の原発関係の話は受け付け難いのは自分の心情です。監督は廣木隆一です。

母を震災で亡くし、父と二人で仮設住宅に住むみゆきは、深夜バスで東京に出かけ、そこでデリヘル嬢をしている。生活が厳しいわけでもなく、ただ、何かの衝動で始めたのである。

ここに役所で務める一人の無骨な青年がいる。震災の時は二十四時間体制で対応し、今尚残る傷跡を目の前にしながら、カメラマンを案内し、墓を無くした老人に墓地を世話し、ただ毎日の仕事をこなしていく。

みゆきが務めるデリヘルの事務所には、素性がよくわからないがただ従業員を守ることに一生懸命な青年がいる。ある日みゆきに、自分の妻に子供ができたからこの仕事はやめるといい、あるときみゆきが事務所に行くとすでに彼はいなくて、実は役者で舞台があるからやめたと告げられる。

その舞台を観に行くみゆき。そして彼女は帰りに一匹の子犬を買って自宅に帰るのである。

まだ復興が進まず、取り残されたような惨状のままの地域の映像が映し出され、今尚、帰る場所もなく、未来を模索している。

みゆきの父親は放っていた農地をトラクターで耕し始める。何かをしないといけない。そうしないと未来は見えてこないと悟ったかのように。

映画はここで終わるが、次第に薄れて行く出来事をしっかりと刻むかのような真摯な映像作りに引き込まれる一本ですが、やはり、好みではない映画はそれ以上は入れなかった。


「心に吹く風」
時間つぶしに見た映画なのですが、これは素直に良かった。とってもピュアな大人のラブストーリー、ストーリーテリングのうまさ、インサートカットの使い方が絶妙、うまいというほかない演出が光ってました。監督は「冬のソナタ」のユン・ソクホ監督が初めて劇場映画を演出した作品です。とにかく、北海道に行きたくなってしまうほど景色の取り方が美しいのです。

広い北海道の大地、ビデオアーティストの日高は真っ赤なトラックで撮影に来ていた。ところが、途中で故障し、困って、近くの民家に立ち寄る。ところが出迎えたのは二十年前、学生時代に愛し合った初恋の女性春香だった。こうして物語は幕を開ける。

日高は撮影日程の二日間、春香に一緒に付き合ってくれと頼む。夫は出張で、娘も大学生で札幌にいて、年老いた姑と二人だけの春香は、戸惑いながらも同行する。映画は二人のたった2日の物語で、時折学生時代のシーンをフラッシュバックさせながら、美しい北海道の自然だけでなく、さりげなく木々がそよぐ風の描写を交え描いて行く。ただそれだけなのに、過去に戻ってはいけないという気持ちが画面から伝わって来て、見ている私たちがどんどん切なくなってくる。

いまにも二人は結びつくのではと思うのですが、付かず離れず一線を超えることなく日高の旅立ちの日が訪れる。空港まで送った春香は、偶然出張から帰って来た夫と会い、最後の別れもできないままに日高は旅立つ。

そして、月日が流れ、日高のビデオアート展が地元で開催され、春香はそこに足を運ぶ。そこに飾られていたのは、春香と過ごした二日間に撮られた様々な映像も展示され、二入で雨宿りした映像には声までも残っていた。

そして、春香はふと日高の経歴のプレートに目を向ける。しかしそこには、北海道を立ってのち、ロンドンで急逝した旨か刻まれていた。あまりに切なすぎるラストシーン、日高の友達からさりげなく日高の死が語られ、春香は懐かしい学生時代に想いを寄せるのだった

空港へ送る直前、広がる大地の上に飛行機が彼方から飛んでくる映像演出や、錆びた小屋の壁に雨の雫が当たり次第にそれが絵画のように見えてくるあたりの感性豊かな映像表現が素晴らしい。やはり、「冬のソナタ」のヒットは凡人ではできなかったユン・ソクホ監督の感性が生み出したものだったのだと納得してしまった。シンプルなお話なのに本当に引き込んでくれる一本でした。