くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「パフューム ある人殺しの物語」

パフュームある人殺しの物語

18世紀パリは悪臭が蔓延していた。そもそも入浴の風習がなかったフランスでは香水で大衆を消していたのである。ちなみに、マリー・アントワネットオーストリアから嫁いでくるが、オーストリアでは入浴の習慣があったので、その習慣がフランスへ持ち込まれたとされています。

さて、雑談はともかく、この「パフューム ある人殺しの物語」、何ともグロテスクなシーンから始まります。
露天の店を営む女が、突然、露天の下で子供を産むところから始まります。それに至る風景は背後のナレーションで延々と語られていきますが、このあたりの描写ははっきり言って、目を背け鼻を背ける場面の連続で、このまま最後までいくのなら何ともつらい映画だと思いましたが、物語は主人公が産み落とされてからは通常の場面展開へと変わっていきます。

青年になった主人公がある一人の女性の体臭に惚れ込み、ふとした事故で殺してしまいます。
それでもそのときの香りが忘れられず、香りを永遠に残す手段を学ぶことが自分の宿命であることを知ります。

なんせ、この場面に至るまでに、この主人公にはまれにみる、というか天才的、というか、野性的というか異常なまでに臭覚が優れているという描写が続くのです。
遙か彼方に離れていても、臭いだけでほぼ正確に目的のものに行き当たるというのだから、かなり異常な才能なのです。このあたり、とにかくスクリーンから臭いを感じさせるべくしたトム・ティクヴァ監督の腕の見せ所。

物語は前半部分、調香師(パフューマー)について、香水を作る基本を学ぶ部分がいちばん平凡で人間的な展開ですね。なんとその調香師はダスティン・ホフマンなのですが、このシーンは非常に俗っぽい物語になっています。

しかし、伝説の保存法を学ぶためにこの店を出て、グラースという土地へ出かけるあたりからはかなりファンタジックというか、伝奇的というか、不思議な物語へと変貌し始めます。
このあたりの展開はなかなかリズムの変更が見事ですね。
ラン・ローラ・ラン」という映画を撮った監督さんですが、それが1998年ですから少し間があいています。「ラン・ローラ・ラン」も見ていないので、ちょっと欠けませんが。

そして、ここから、主人公は女性を殺してからその体に油を塗り、その油からエキスを抽出していく模様が続きます。異常な殺人者としての主人公の異様な世界が展開しはじめ、やがてあまりにも幻想的なクライマックスへと続きます。

全体的に何ともゴシック調の不思議な物語で、クライマックスは主人公が作った至高の香水が人々の心を主人公の思いのままにし、さらにはSEXへと誘うというややシュールな世界になり、やがてラストシーン、主人公自体が、消えてしまうのですから、これはもう昔話の世界です。

なかなか三時間弱ですが、見応え十分な作品で、先ほど書いた物語構成のうまさ、丁寧な演出で、大作かつ格調の高さを見せつけてくれています。

いい映画でした