くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「今度は愛妻家」

今度は愛妻家

この感想は物語のキーポイントになる重要なネタばれに触れています
久しぶりに素直に物語りに浸って感動してしまいました。最近、どうも映像がどうとか、脚本がどうとか、こだわって見すぎていた気がします。
この映画は大好きな行定勲監督作品である。

とにかく冒頭から引き込まれるのは薬師丸ひろ子演じるさくらがなんとも愛らしいことです。憎たらしいことばかりする豊川悦司扮する夫北見に対しとぼけた夫婦漫才のような掛け合いでいなしていく。しかもコミカルな行動がなんともほほえましくて、彼女の演技力の賜物かもしれませんが、こんなかわいらしい中年の妻っているもんだろうかとほれ込んでしまうのである。

この夫婦のなんとも軽快なテンポのストーリーがとんとんと展開していく中で、北見が一人になったところに絡んでくる女優志望の娘やおかまのおっさん(石橋蓮治)や弟子の濱田岳がこの北見という人物を巧みに紹介していくという脚本は見事である。もともと舞台作品なのでこのあたりの構成は実によくできてますね。

さて、帰ってきたかと思うと、またどこかに行ってしまう妻のさくらを中心に物語が進んでいくように思えるが、実はびっくりするような物語の背景が存在する。それがこの映画の見所であるかな。

何かにつけ妻がいないことに異常なほどに寂しさを包み隠せない夫の北見がなんともかわいらしく、またほほえましい。ハイテンポでその繰り返しが続いた末に、北見がベッドに座って妻に言う
「何で死んじゃったんだよ」
というせりふ。ここから物語は本当のクライマックスへ突き進んでいくのです。

まるで空気のような妻の存在。でもいつの間にか彼女がいなければこんなにも悲しいものか、空虚なものなのかという夫の孤独感が切々と伝わってくる。すでに妻が死んで一年がたつも、その悶々とした生活をあまり悲観的な塊でねちねちと描かずに、テンションの高いさくらの存在でなんともほほえましく、それでいて跡に残されたものの切なさを訴えてくるストーリーはなんともいえなく胸が熱くなります。

おそらく、この映画のよさは結婚して子供もできた今になって初めてわかる感動なのかもしれません。だからこそ、ファンタジックな大人のドラマかもしれませんね。本当に素直にいい映画でした。