くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「砂漠でサーモン・フィッシング」「アナザー・ハッピー・デ

砂漠でサーモン・フィッシング

「砂漠でサーモン・フィッイング」
これは良かった。題名からも内容からも今一つ期待もしてなかったけれど、出だしから引き込まれてしまいました。

なんといってもサイモン・ビューフォイの脚本とラッセ・ハルストレムの演出が秀逸で、台詞と映像、音楽がポッピングするように軽快なリズムを生み出していく。短い掛け合いのような会話の応酬とそれに答えるデジタル処理された細やかな演出のテンポに音楽が被さってわくわくさせるイメージを奏でてくれる。そのリズムが最後まで衰えることがないのが実にいい。それにそれぞれのキャラクターがしっかりと書き込まれているために、画面に映る姿の背景の人物像が見えてくるので存在感のある登場人物になる。なかなかの秀作でした。

鮭が水の中を泳ぎ回るシーンから映画が始まり、突然主人公のジョーンズ博士にイエメンの大富豪が砂漠に水を引いて鮭を釣りたいという企画を持ちかける。一方で、イギリスの広報担当官パトリシアのところにアフガン情勢の問題が持ち上がり、イギリスのイメージ悪化を防ぐために明るい話題を探しはじめて、適当な思いつきで鮭を泳がせるプロジェクトを目にする。

この導入部が実に軽快で、一気にこのちょっと胡散臭い政治色のある話をなんともお気楽なドラマにしてお客さんを捕まえるのである。

ジョーンズ博士がキャスティングの名手であるところをデスクからの練習ショットでさりげなく挿入し、後半の大富豪シャイフを助ける伏線にしていたり、微にいった脚本も見事。特にこのシャイフの存在が非常にすばらしく、ユアン・マクレガークリスティン・スコット・トーマスらの名優をしっかりと束ねて貫禄十分なのも良かった。

パトリシアとイギリス首相の会話をパソコンのチャット画面でコミカルに表現したり、スプリットスクリーンで画面の転換をテンポよく進めたり、最新の映像技術やテクノロジーをおもしろおかしく利用したのもうまい。

シャイフが現地の反対派に狙われるシーンを小シーンからクライマックスの大シーンへと巧みに組み立てたのも成功。一見、凡凡たる感動ドラマに深みを与えた。

もう一つがジョーンズ博士の生活。どうみても名家の夫婦であるが、妻メアリーは非常にプライドが高い。ほんの少しのシーンにそのキャラクターを的確に描写。このあたりもなかなかのものである。

そして、ハリエットとジョーンズ、さらにハリエットの元彼氏のロバートの戦死のエピソードも交え、あちこちてんこもりのようで一本筋の通った物語の枝葉になって、決して飽きさせない。

反対派のダムの水放出で失敗したかに見えたプロジェクトが、わずかに残った鮭を見つけるシャイフのシーンからハリエットとジョーンズの恋の成就へとつながるラストは素直に胸が熱くなりました。

エピローグでパトリシアと首相のチャットで外務大臣を漁業省へ更迭する会話には笑ってしまった。

「スラムドッグ&ミリオネア」の脚本家だけあって、よく似た構成による組立ですが、作品全体にリズム感あふれきれいにまとまりわくわくさせてくれます。なかなかの秀作だったかなと思います。


「アナザー・ハッピー・デイふぞろいな家族たち」
バリー・レヴィンソンの息子サム・レヴィンソンが監督脚本を兼任したデビュー作ですが、なかなかどうして、一見の価値がある秀作でした。

感性がいいというほかない映像づくりのうまさにうならせてくれます。やはり父譲りの才能としかいうほかありませんね。

主人公リンが実子で別れた夫の元で育ったディランの結婚式に向かう車の中で映画が始まる。現在の夫との息子エリオットはヤクチュウで弟のベンは自閉症ではあるが実にそのキャラクターがコミカルでちょっと皮肉に満ちたせりふをぽんぽんと出してくる。

元夫のポールには派手なパテという妻がいて、ポールとリンの実子アリスがポールの元にいる。

老いた母ドリス、やや痴呆気味の父ジョーと再会し、ややブラックなユーモアも交えてどこかおかしいのだけれどもどこかに身近な世界を感じる家族の群像劇が展開していく。

映像の切り替えしのうまさもさることながら音楽の選択のうまさがさらに輪をかけたように映像を引き立てて盛り上げる。その演出のおもしろさは次々と繰り出されるぎくしゃくしたせりふの応酬にさらにテンポを作り出していく。

そして、物語はクライマックス、結婚式の場面へなだれ込んでいくが、それぞれがすっきりとした解決を見ないままに、必然的ともいえる流れで披露パーティの場面へ。それぞれのキャラクターがそれぞれの存在感で踊り、語り、行動する。カメラが時にカットバックを繰り返しながらダンスシーン、会話のシーン、一人ドラッグをすって浮き輪に乗って流されるエリオット。突然庭の手入れが必要だと芝刈り機に乗るジョー、娼婦のように振る舞うパティなどどんどんカメラがエスカレートしていって、大団円へ。

トラブルはトラブルなりに収束し、入り乱れた家族は一つのテーブルで食事をして、それぞれの家に帰っていく。

ひとときの喧噪が生み出すアイロニー満載の家族の群像劇。その見事な映像感性は決して退屈させない見事な作品としてまとめあげられていました。これは必見の一本です。