くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「瀬戸内海賊物語」「左側に気をつけろ」「ぼくの伯父さんの

kurawan2014-06-06

「瀬戸内海賊物語」
地方で台本を募集し、みんなの投票で入選し、賞金がでて、撮影配給された典型的なローカル映画。

脚本の幼稚さ、演出の稚拙さ、素人俳優の適当な演技。確かに、ローカル映画だから、この程度でいいと考えたのかもしれないが、こういうのを大きな劇場で公開してはいけない。

みていて、損をしたなと思える作品だった。こんなことをいってはいけないかもしれないけれど、入場料を取る限りはそれなりのクオリティが必要である。どこにお金を使うかを間違えた作品でした。

物語は、かつて、瀬戸内海で勇壮を極めた村上水軍の末裔の少女楓が友達をともなって、先祖が埋めた宝を見つける話。その脇に、島の生活を左右するフェリー廃止の話が重なり、ありきたりながらの展開になる。

ところが、少女の周りの友達のキャラクターが全く生き生きしていないし、個性がない。さらに、彼らをじゃまする茶髪青年二人も全くへたくその極み。ストーリー展開も、ファンタジーならファンタジーながらのリアリティは必要だが、そこも練り足りない。結局、素人が投票で決めた好きな物語を、ただ、映像にした公費の無駄遣い映画なのだ。

ローカル映画なら、先日の「八月燈の三姉妹」のように、監督に一流を持ってくるなど、どこかスタッフにお金を注げば良かったのではないか。ローカル映画は時々掘り出し物があるが、時々こういう駄作の極みに出会うからつらい。映画ファンとしては、寂しい限りだった。


「左側に気をつけろ」
ジャック・タチ脚本の短編映画である。なんと監督はルネ・クレマンだから驚きである。

とある郊外のリングで、ボクシングをしているボクサーと、その農場の若者、さらには、巻き込まれた郵便配達などがリングの上で繰り広げるどたばた劇で、たわいのない一遍であるが、例によって、こった画面の作り方、音の利用のおもしろさを堪能できる。



「ぼくの伯父さんの授業」
ジャック・タチ作品常連の、ユロ氏がとある会社の、なにやらパフォーマンスを教える授業にやってくる物語。こちらはジャック・タチ脚本、監督はニコラス・リボフスキーという人である

いかにも近代的なビルが並ぶ中やってきたユロ氏は、けつまずき方、釣り、テニス、壁へのぶつかり方をくそまじめに教授していく。

次々と練習する生徒たちは、企業の戦士のようなスーツ姿が何ともコミカル。

授業を終えたユロ氏がでていくと、今までビルだと思っていたのは、実はセットで、左右に分かれて移動してしまうと、粗末な小屋があり、そこへ帰っていく。

これもまた、短編であるが、ジャック・タチのエッセンス満点の一本でした。


「ぼくの伯父さんの休暇」
ジャック・タチ監督長編第二作で、のちに、ジャック・タチ作品の代表的キャラクターとなるユロ氏初登場の作品。

いや、これは全く傑作でした。しゃれたタイトル、きっちりと計算されたような画面、テンポよく物語を進めていく音や音楽の効果、それに乗せて、主人公ユロ氏が次々とコミカルなエピソードを展開していく。いったい、次は何がおこるのか?画面の隅々まで目を光らせていかないと、このユーモアに気がつかないというおもしろさは、チャップリン映画のドタバタ劇に似ているようで似ていない独特のフランスコメディです。

物語は、バカンスで浜辺のホテルにやってきたユロ氏。ぼろぼろの車とパイプ、チロル帽という出で立ちの彼は、行く先々で、騒動を巻き起こす。それも、何とも絶妙の音とタイミング、そして美しい構図の中で展開するから、なんともしゃれているのです。

たわいのない物語ですが、何ともセクシーでキュートな女性、訳の分からないことを自分中心に語る若者、妻につれ回されておもしろくもない夫、なぜか振り回されるホテルの給仕、歴戦の勇者だったと自慢する老人などなど、実に個性的な登場人物が彼の周りに次々とでたりはいったり。さらに、犬や馬まで、彼の騒動に彩りを加えて笑いと生み出していくのだから、もう、すっかりはまりこんでしまいます。

一夏のバカンスのクライマックスは、花火小屋での派手な花火ショーで幕を閉じるという、サービス満点の展開に、すっかりジャック・タチワールドに引き込まれてしまいました。

冒頭のタイトルからラストのモノクローム画面の隅に真っ赤な切手のスタンプが押されるエンディングまで、こりにこった画面づくりにも頭が下がります。

確かに、古い作品から順番にみていけば、昨日みた「プレイタイム」のおもしろさもさらによくわかったかもしれない。しかし、それはさておいても、この映画はフランスコメディの傑作でした。