くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ノーウェアボーイ ひとりぼっちのあいつ」

ノーウェアボーイ ひとりぼっちのあい

いわゆる”落ちこぼれ”というような意味合いの題名である。ザ・ビートルズのメンバージョン・レノンの若き日の物語をポップな音楽をバックにモダンな映像でつづった秀作でした。監督はアンソニー・ミンゲラ監督に見いだされた一流の現代アート/フォトグラファーのサム・テイラー=ウッド。先日のトム・フォードといい、畑違いながら見事な演出手腕を発揮しています。

映画が始まると、いきなり一人の若者がどこかから駆け寄ろうとする、瞬間ベッドで目覚めた若き日のジョン。ここから映画はテンポのいい音楽に乗ってまるでスキップするかのように始まります。そのリズム感の楽しさはまさに映像が踊っているような軽快さで、デジタル処理したテクニカルなシーンも挿入され、学校の出来の悪かったジョンの素顔が語られていきます。

叔母夫婦に養われているジョン、気のいい叔父がジョンにハーモニカを与えた夜に急死。その葬儀の場で一人の女性を見かけたジョンは、それが17年前に分かれた母であるという直感を得ます。この母親役をしているアンヌ=マリー・ダフが抜群にうまくて、ジョンと一緒にダンスをしたり、気軽に男の人の気を引く仕草をしたりと、一見尻軽女のようでありながら、ただジョンを愛する一人の母としての姿を見事に演じています。

物語の本筋は若きジョンが次第に音楽に目覚め、バンドを組んで、ポール・マッカートニージョージ・ハリスンなどと出会っていく様を描いていきますが、一方で母と別れたいきさつや育ての母である叔母(クリスティン・スコット・トーマス)との生活のきっかけ、さらに別れた母との確執などが後半に進むに従って物語のウェイトを増してくる演出が実に見事。

やがて、すべての真相がジョンに語られ、叔母と母の確執も溶けて、二人の中がハッピーになったとたん、母は交通事故で急死。悲しみの中、ジョンは新たに演奏ツアーへと旅立つところで映画は終わります。

前半のアップテンポな音楽と映像で軽快につづるストーリー展開と、中盤から後半にかけて次第に人間ドラマに移行していくタイミングのうまさが何とも秀でていて、いつの間にか映画の中に引き込まれる魅力満載の秀作でした。