くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ニューヨーク 最高の訳あり物件」「さらば愛しきアウトロー」「誘拐報道」

「ニューヨーク最高の訳あり物件」

抜群の映像センスで見せる人間喜劇の秀作。一見とりとめもない話ながら、どこかにたどり着くものもなく笑いを繰り返し、ラストシーンを迎える。登場人物の存在意味が今ひとつ明確に見えてこないのは意図的なのか欠点なのかわかりませんが、面白い作品でした。監督はマルガレーテ・フォン・トロッタ

 

テンポ良い音楽とイラストのタイトルバックが終わると主人公ジェイドのアップ。夫のニックから離婚の話を聞いて戸惑う姿から物語が始まる。ジェイドは元モデルで今はニックの出資でファッション会社を設立している。

 

そんなジェイドの家に元妻のマリアがやってくる。こうして元妻と元々妻の二人の奇妙な同居生活がはじまる。今だにニックに未練のあるジェイドはニックの心を取り戻すべく努力する。ニックが心を移したのは若いモデルで、ジェイドはそのモデルに一言啖呵を切ったりする。

 

ジェイドは、事業の資金を得るため、現在の家を売ろうとするが、マリアは応じない。そんな時マリアの娘アントーニアが息子を連れてやってくる。最初はマリアと一緒だったが、彼女が植物学者で香水に興味があるのを知り、ジェイドは自分の事業に引き込み、オリジナルの香水を完成させる。

 

しかし、ブランドとして大きくしようというジェイドの言葉にアントーニアはそのつもりはないと息子をつれて去っていく。やがてジェイドのファッションショーの日が近づいてくる。そんなおり、ニックがモデルと別れたという噂を聞く。

 

やがて、ニックは二人の前に現れ、ジェイドに復縁を迫るが、かつての彼女から一歩成長したジェイドは、マリアと二人一緒ならと条件を出す。

 

やがてファッションショーが開幕。そして大成功。客席にはアントーニアや息子ニックの姿があった。こうして映画は終わる。

 

とにかく、オープニングタイトルから映像センスが抜群に美しいししゃれている。大きな家の空間のカットの美しさ、アングルの巧みさと、二人の女性のファッションも素敵。ただ、マリアがどういう立ち位置なのかが最後まで見えなかった。

 

とってもクオリティは高いのですが、もうちょっと物足りないところも見えないわけではなかったのは残念。

 

「さらば愛しきアウトロー

老人になったロバート・レッドフォードシシー・スペイセクが演技すればそれだけで人生の薀蓄を感じ取ってしまうのですが、普通の映画とはいえ、何か感じさせられる大人の物語でした。監督はデビッド・ロウリー。

 

一人の老人タッカーが銀行に入っていき、さりげなく金を奪って出てくるところから映画は始まる。フォレスト・タッカーは、紳士的に銀行強盗を楽しむ毎日を送っている。仲間の二人もすでに老人である。この日、一人で仕事を終え逃亡する中、車の故障で立ち往生しているジュエルという老婦人と出会う。彼女は一人で馬を飼育していた。

 

なぜか意気投合し、レストランんで食事の後電話番号を交換する。そして、タッカーは、一方で銀行強盗をしながら、ジュエルと会うようになる。物語はこの展開を淡々と描いていく。

 

ここに一人40歳を迎えた刑事ジョンがいる。これまで普通に仕事をこなし、それなりの年齢になり、これからどう生きるか考えたりもしていたが、ある銀行強盗の事件を担当することになり、それが、以前から起こっている事件と似ていることに気がつく。それこそタッカーが若き日から繰り返してきた事件だった。

 

一連の事件の関連を突き止めたことでジョンは有名になるがまもなく事件はFBIの担当に変わる。しかし、ジョンとタッカーには不思議な絆が生まれていた。

 

そしてとうとう、タッカーは逮捕され、これまで繰り返してきたように脱獄を考えていたがジュエルに諭され刑期満期まで務め、ジュエルの家に住むことになる。しかし、タッカーは再び強盗を始めるというテロップで映画は終わる。

 

とにかく、ロバート・レッドフォードシシー・スペイセクの老練のいでたちが素敵な映画です。自分たちの青春を思い起こすような映画でした。

 

「誘拐報道」

非常に密度の濃いサスペンス、いや人間ドラマの傑作。2時間以上あるのに全く緊張感が緩むことがない。見事な作品です。監督は伊藤俊也

 

小学校で古屋夫婦の娘が体育をしている。彼女にちょっかいを出す男の子は三田村夫婦の息子。どうやらこの男の子はこの女の子が好きらしい。誰もが経験のあるシーンから映画は幕を開ける。この女の子も男の子に好意を持つ。そんなカットの後、この少年が誘拐される。

 

報道管制が敷かれ、警察の捜査も始まる。映画はこの後、犯人の古屋数男と三田村夫婦との駆け引きに警察の捜査、新聞社の情報収集の模様がひたすら描かれていく。

 

報道陣の映像をひたすら捉え、やがて犯人古屋数男が車のトランクに少年を乗せて連れまわす方へ視点が移る。なかなか取引がうまくいかず、一方子供への愛情は全くないわけではないので扱いに困り始める。

 

二進も三進もいかなくなり、とうとう諦めたところへ通りかかったパトカーに止められ逮捕される。そして、古屋の妻芳江が娘を連れて田舎に旅立ち、報道陣も解散して散り散りになって映画は終わる。

 

どこにも悪は存在せず、それぞれの必死の思いで行動する姿を描写していく映像が素晴らしい。下手をするとテレビのサスペンスレベルになるところを映画に仕上げた見事な演出に脱帽する一本でした。