くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「単身男女」「ドリーム・ホーム」

単身男女

「単身男女」
ジョニー・トー監督の最新作、ワールドプレミア世界初上映で大阪アジアン映画祭で見てきました。

素晴らしい。最高に素敵で最高に笑えるラブコメの傑作でした。改めてジョニー・トー監督の映像センスのすばらしさ、ストーリーテリングのリズム感の才能に打たれてしまいました。始まってからラストシーンまで全くだれないままに、時に笑いを生み、時にわくわく引き込まれていく。たわいのないラブコメなのに、しっかりと映画になっていて、それでいて、きっちりと練られた脚本に無駄のないシーンが続きます。これはもう一言で言い表せないほどに楽しい逸品でした。

映画が始まると、言葉で起こす目覚まし時計の声。その声に一人の女性が目を覚ます。彼女が主人公で中国から香港にやってきて投資銀行で働くキャリアウーマン。最近、同棲していた不倫相手が部屋を出ていったばかり。
会社へ以降とバスに乗って座っていると一人の妊婦がやってき他ので席を譲る。ところがその妊婦、不倫相手の奥さん。そこへ等の不倫相手も乗ってきて、言い争いになってきたので、男から彼女にバスを降りてくれと言われる。突拍子もない導入部に笑いで引き込まれてしまう。

そのバスをじっと追い続けているスポーツカーに乗った男。彼は彼女のつとめるビルの向かいの証券会社の社長、いつも彼女のことが気になっていた。
むしゃくしゃしたままバスを降りた彼女は危うく車にひかれそうになり書類をばらまいてしまう。それを助けたのが酒浸りの建築家の男。

こうして知り合った三人の三角関係のラブコメディがあれよあれよと入れ替わり立ち替わり展開していく。

彼女のオフィスと向かいの社長のオフィスはガラス張りで、お互い付せんで絵を貼り付けたりして次第に親しくなっていく。
一方、建築家と一週間後にもう一度会う約束をした彼女。
そしてその日に、彼女は社長とデートの約束を。ところが彼女に下の階の女性が社長から彼女へのお誘いを自分のことと勘違いしてややこしくなってしまう。

結局、諍いになり、その直後、リーマンショックで証券会社は倒産、そして3年が経つ。

今やオフィスを構える建築家はちょうど彼女がつとめる銀行の向かいに。一方アメリカで再スタートした社長は彼女の銀行の社長となってやってくる。
こうしてドタバタが再燃。

次々と、向かいのビルとこちらとのガラス越しのやりとりや、社長と建築家とのドタバタ劇、さらに、彼女が建築家に預けた不細工なカエルの見事な生かし方などで、二転三転、ほほえましいほどに物語が進んでいく。彼女のつとめる会社の上司も憎めない演技で、スパイスのように彼女たちの成り行きに味付けしていく。

ジョニー・トーらしい、影を使ったロマンティックなショットも多用され、向かい合ったビル同士のガラスの演出にくわえ、建築家が設計した新しいビルの姿の効果的なショットなど映像演出の醍醐味も十分に味わえます。
結局、建築家との恋を成就させ、社長は潔く身を引いていくラストシーンのロマンティックなこと。

今や、アメリカ映画が忘れ去った本当の娯楽映画としてのラブコメの醍醐味を楽しませてくれる傑作でした。見終わって思わず拍手をしたくなりました。もう最高です。


ドリーム・ホーム
もう一本が、今香港の監督で話題になっている人バン・ホーチョンのスプラッタホラーです。

こちらは正直まいりました。これでもかというグロテスクなスプラッターシーンの連続で、目を背けるショットもたくさんある上に、妙に暗くてきまじめに描いているために楽しめない。
ゾンビ映画のように吹っ切れたようにスプラッターシーンをふんだんに見せるのではなくて、どこか陰気な暗さが漂っていて笑えないのです。

物語は単純。一人の女性が、どんどん値が上がる香港のマンションの一室を買おうとお金を貯めた。
そしてようやくたまって、契約にこぎ着けたところが、売り主が値をつり上げてきて話は流れてしまう。
それを逆恨んだ彼女はそのマンションに押し入り、次々と猟奇的に殺戮を行って評判を落とし、値を下げさせようとする。

延々と、殺戮していくシーンを描く一方で、彼女の少女時代、なぜこのマンションにあこがれたかを描いたり、不倫相手とのやるせない関係を描いたり、仕事のストレスを描いたりと、妙に陰湿にも見えてしまう。
殺人シーンはあまりにもリアリティに欠ける娯楽色満天のシーンで描いていくのであるが、過去のシーンを繰り返すことで妙にきまじめに見えてくるために、スプラッターシーンに不気味さが漂ってしまうのである。

しかも、彼女がこんな凶行を行うにいたいる展開に以外と無理があるために、その非リアリティが中途半端にストーリー展開におもしろみをそいでいくのである。
結局、殺人事件のために値は下がったかと思いきや、結局、リーマンショックで不動産の値段が本当に下がってしまって、彼女の行為が無駄になると言うエンディングで幕を閉じる。あっけない笑いが生み出されてしかるべきだが、妙に違和感が残るのである。

正直、疲れてまいった作品でした。