くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ハウスメイド」「神様のカルテ」

ハウスメイド

「ハウスメイド」
映画検定にも出題されるキム・ギヨン監督の怪作「下女」を基にした作品で、リメイクではない。従って、ストーリーが全く違う。設定や、前提、展開は似通っているが「下女」がホラー映画としての様相をきっちりと備えていたのに対し、この「ハウスメイド」はどこか半端なメッセージがかいま見える。

ところで、この作品であるが物語の組立、脚本が実に荒っぽいし甘い。そのためにストーリーがどこに向かおうとしてるのかいつまでたっても見えてこない。その上、キャラクターのそれぞれの個性が立ってこないので、いったいこの映画はなにを描きたいのかぼんやりとしてしまうのである。

映画が始まると、ソウルの夜の町。日常の世界が手持ちカメラの映像でドキュメント風に写される。画面の炭では一人の女が今にも飛び降りようと柵を乗り越えている。そして、飛び降りる女。周りの人々はそれほどの関心もない風でといって興味本位で集まってくるだけ。

そこへバイクに二人乗りで乗ってきた太った女ともう一人の女がその落ちた白い型をじっと見つめている。この細い方の女がこの映画の主人公ウニである。

このウニ、とある豪邸の家政婦として、そしてまもなく生まれてくる双子の乳母として雇われる。何かあるぞと思わせながらストーリーは進むが、この家の好色な主人がこのウニをある日抱く。それもウニがなんの抵抗もなく身を任せるところから何かあると思わせるが、いつまでもその何かが見えない。

やがて、ウニは妊娠。それを知った本妻や義母が執拗に彼女をいじめる。元々いた家政婦ビョンシクが本妻に味方してスパイのようなことをするがそれも今一つ意味不明。このビョンシクもこの家に不満を抱いている。
やがて、ウニは無理矢理堕胎させられ、なんの劇的な展開もないままにこの家族の前で首をつり炎に包まれる。

大金持ちのこの家の人間たちに、非人間的な仕打ちを受ける雇い人たちを描くことで、金持ちたちの恐ろしさを描いたのだろう。ラストシーンの家族写真を写す場面に不気味さを語ろうとしたのだろうが、何とも中途半端である。

結局、冒頭の自殺は何だったのか?女史とよばれる家政婦ビョンシクの存在の意味は?結局ウニはふつうの家政婦だったということ?なら、なぜ、何の抵抗もなく主人を受け入れるのか?どれもこれも全く語られていない。完全な脚本の未完成なのである。

全体に流れる流麗な映像と音楽は富裕層を描写しているのだろうと思う。時に極端な斜めの構図をつかったテクニカルな演出も見える。そんな画面の中で語られるおどろおどろした不気味さがこの監督の目指したことだとは思うが、プロットの組立が悪いのだろう。何の伝わることもなく映画が終わってしまうのが実にひどいのである。

神様のカルテ
非常に静かですが美しい映画です。それに一つ一つのせりふが生きていて脚本が抜群にいい。さらに、映画としての画面の作り方が本当に美しい。もともと、深川栄洋監督は映像にこるタイプですが、この作品でも横に長い大画面を実に効果的にそして有効に美しい映像として映し出しています。

もう一ついわせてもらうと、俳優さんの生かし方が実に見事。ほぼ演技には素人に近い櫻井翔の演技をきっちりと引き出し、芸達者な周りの俳優さんの演技を映画全体のムードを壊さないように静かに押さえている。そのために、この作品のドラマ性が見事に生き生きとスクリーンを彩ってきています。その上、バックに流すピアノのメロディも本当に美しい。いい映画に出会いました。

原作があるのでそれぞれのすばらしいせりふの数々が原作にあるものかオリジナルかはわかりませんが、小説としての原作を映画として見事に昇華させた深川栄洋監督の手腕はみごとです。

映画が始まると松本市にあるとある救急病院の救命室が描かれる。あわただしく走り回る医師たち。そしてカットが変わると壮大な山々の朝日のショットが雄大に広がり彼方にポツンとシルエットで写真を撮るはるな(宮崎あおい)がとらえられる。この冒頭が息をのむほどに美しいのです。そして、左隅にタイトル。

このドラマ、物語が二つに分かれ平行して流れる。一つは救急病院での一止(櫻井翔)の医師としての苦悩する日々、もう一つは一止がはるなと共同生活する古い旅館御岳旅館で男爵と学資様の四人で過ごす物語である。もちろん、こちらのお話は物語の中盤あたりで病院の物語に一本化され、ストーリーの中心が末期ガンの安曇さんの話に集約されていく。この展開もまた絶妙のストーリーテリングである。

そして、医療ものの定番としてこの安曇さんの臨終までの物語の中に一止の大学病院への誘いや妻はるなの生活がさりげなく語られる様は見事というほかない。
そして、ラスト、安曇さんは夫の元へ旅立ち、将来を今の救急病院で過ごすことを決めた一止が家に帰るとはるなの妊娠のエピソードで映画は終わる。

一止が帰ってくるときに繰り返される坂のシーン、それを見下ろす榛名のショット、御岳旅館で学士様が出て行くシーンで旅館の中を桜で埋めたりする演出の様式美、さらに画面の左右の両端にたくみに配置された調度品や神社の境内の灯篭の光など美術にこだわった映像作りも深川栄洋ならではの美学が冴え渡ります。

美しい画面作りと俳優の演技の見事な演技付け、プロットの組み立てのうまさなどなかなかの一品に仕上がっていたと思います。映画らしい映画、大画面にこそ見ごたえのある秀作でした